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第7話:クエスト ~岬の幽霊船事件を調査せよ~ D




「コイツら……眷属型だぞ!」



 頬に走る痛みと痺れを堪えながら、先輩と共に半魚人の死骸を調べていると、なにやら先輩が驚いていた。


 魔物は大きく2種類に分別される。

 ゴブリンやシーサーペントのように動植物と同じ生殖で増え、生態系の一部として存在する「生態型」。

 そして、ヤゴメのような、強力な魔力から誕生する「眷属型」である。

 この「強力な魔力」というのは殆どの場合、魔王の瘴気のことを指す。

 眷属型を見分けるための要素は、同サイズの魔物より強力だとか、聖属性以外の弱点を持たないだとか色々ある。

 その中でも特徴的なのが、倒した後一定時間経つと黒い煙になって消えるという点だろう。

 俺が倒した個体は既に霧散し、先輩が倒した群れもまた、全身から黒い煙を噴き出しつつ消滅していく。

 「もしや」と思い、俺が初日に釣ったチョウチンアンコウの亡骸に目をやると、こちらは相変わらず猛烈な悪臭を放ちつつ鎮座していた。

 よかった……こいつは魔物じゃなかった。



「なんたってこんなところに眷属型が……? 魔王復活の報は入ってねぇし……。大魔封結界岩はこんなとこには無ぇはずなんだが……」



 シャウト先輩はアレコレと考えを口に出しながら、懐から細いガラス容器を取り出すと、今まさに霧散しようとしている敵の肉片を押し込み、光る石のようなもので蓋をした。

 その容器を使えば、瘴気を封じ込めることができるらしい。

 先輩はギルドバードにそれを付けて飛ばし、調査依頼とともに、迎えの便を手配させている。



「眷属型が出た以上、ここに留まるのはやべぇ。明日クジラ便で帰るぞ。再調査はそれからだ」



 今回出た半魚人は、眷属型にしてはまだ弱かった。

 しかし、瘴気が濃くなるにつれて、彼らはどんどん強くなり、発生頻度も上がっていく。

 こんな海の突端で、シャウト先輩でも苦戦するような魔物が無限湧きなど始めてしまったらもう目も当てられない。

 俺達の惨殺死体が海に浮かぶことになるだろう。



「ギルドバードなら今日の深夜には本部に着く。翌朝すぐ飛行クジラが出たとすりゃ、昼には迎えに来るはずだ。それまではアタシらに任せてお前は寝てな」



 ありがたいことに、シャウト先輩とミコトが見張りを代わってくれるらしい。

 俺はもう戦闘疲れと釣り疲れで眠気が酷い。

 二人には悪いが、先に仮眠をもらうとしよう。


 ミコトを起こしがてら、テントの中に潜り込むと、ミコトは寝袋に全身包まって丸くなっていた。

 凄い寝相だ……。

 何となく罪悪感があるが、優しく揺する。

 だが、彼女は一向にそのアルマジロポーズを解かない。

 ミコトは起こせばすぐに反応するタイプなのだが、妙である。

 ふと、彼女の体が妙にプルプルと振動していることに気が付いた。



「ミコト? どうした? 大丈夫か?」



 心配になったので、寝袋の口を覗き込み、呼びかける。



「ゆ……雄一さん……」



  丸い寝袋の中からか細い声で俺を呼ぶ声がした。

 「お。起きた? 大丈夫か?」と聞くと、「大丈夫っスけど……何かおかしいっス……」という返事が返ってきた。

 人はそれを大丈夫ではないと言うんだ。

 寝袋から顔を出した彼女は、えらく憔悴していた。



「分からないんスけど……お腹というか……体の中全部がズキズキ痛いっス……」


「食あたり……じゃなさそうだな。解毒のブルーポーション飲んどくか?」


「すみません雄一さん。それさっき勝手に飲んじゃったっス。全然効果ないんスよ……。ゲホッ……」



 何か特殊なタイプの毒なのだろうか、それとも体調不良か、どうにしてもこの様子だとミコトは見張りどころではない。

 俺が代役を務めるとしよう。

 俺はグリーンポーションとレッドポーション、イエローポーションをグイっと一気飲みした。



「雄一さんは寝ててください。私……見張り代わるっスから」


「いや、寝てろって! 俺は大丈夫だから!」



 寝袋から這い出ようとするミコトを無理やり押し込み、グリーンポーションとハーブティーを枕元に置いておいた。

 始めは「雄一さんをお守りするんス~」と唸っていたミコトだったが、やがてその声はムフムフという寝息に変わった。




////////////////////




「あいつちょっと体調悪いみたいなんで、俺がもうしばらく見張りしますよ」


「あ? マジかよ。 お前も寝てろ」


「いやいや、大丈夫っすよ。ポーションがぶ飲みしたんで」


「まあそう言うなら頼むけどよ。夜は魔物出やすいからな」


「へい。気を引き締めて臨みやす」



 テントの傍で二人薪を囲み、海を見つめる。

 感知スキルに感はない。

 沖では相変わらず青白い幽霊船が浮かび、暗い航路をぼんやりと照らしながら彷徨っている。

 あの幽霊船、というか巨大チョウチンアンコウが出現する前後で、深海の魚が表層の魚の胃袋に入っていたり、深海のタナで釣れなくなったりしたが、これらは何らかの関連性を持っていそうだ。



「お前、さっきの魔物は深海から釣り上げたって言ってたな」


「ええ。大体200mダナから来ましたね。あいつら」


「あのでけぇ奴、本来は深海にいるんだろ? ってことは深海で何かが起きてると考えるのが普通だわな」



 ふと、俺は釣りをしている最中に引っかかってきた黒いノリのような物体のことを思い出した。

 もしかしてアレ……魔王の瘴気?



「だろうな。普通の生物は瘴気の中では生きられねぇ。多分深海を魔王の瘴気が覆っちまってるんだ」


「それで深海の魚が表層に逃げてきて、エサになったり暴れたりしてると」



 ふと沖に目をやれば、巨大な口が20mはあろうかというテイオウホタルイカに噛り付いていた。

 先輩は「おーおー……派手に暴れてら」とその様子を眺めつつ、コーヒーを飲んでいる。

 



「しかし問題はその瘴気がどこから来てるかだよなぁ」


「潜りましょうか? 俺潜水スキル持ってますよ」


「あいつらと水中で戦えるんなら潜って来いよ」


「無理っす。ジョークっす」



 現場を直に見に行けないとなれば、推理するしかない。

 考えられる要因は二つ。

 深海に瘴気を発するものがあるか、どこかから深海に瘴気が注がれているかだ。



「前者は無いと思います」


「おっ? そう考える理屈はなんだ?」


「初日は深海の魚は普通に釣れましたし、あのデカいやつも出ませんでした。一定の周期で瘴気が流れてきていると考えるのが妥当かと思いますね」



 海流は一定ではない。

 特にこういったドン深の外洋とあらば尚更だ。

 どこかに瘴気の源があり、そこから深海へ瘴気が流れ込み、時折滞留しているに違いない。



「ま、こいつをギルドの研究所に送りゃ、どこ由来か分かるんだけどな」



 そう言ってガラス管をシャカシャカと振って見せびらかすシャウト先輩。

 推理する必要ないじゃん……。



「まあそうだわな! はっはっは! しかし、テメェの頭で考えることは重要だぜ。なあユウイチ。お前ならこのうちのどれが発生源だと思うよ?」



 広げられた使い古しのマップには、複数の黒い×印が描かれている。

 これ……全部魔封大結界なのか?



「全部が“大”じゃねぇよ。小規模なやつはバツに一本線入れてあるからよ。×印だけ見て選んでみな。正解選んだ方が今回の報酬7割もらうってことにしようぜ」


「賭けっすか!?」


「おうよ。どっちも外したら報酬も功績もミコトに全部ってことでいいよな」


「えっ……それって……」


「まあ選べや」



 先輩の気遣いに感謝しつつ、俺は地図を眺める。

 そのマップの中に、俺は気になる箇所を発見した。

 海岸に近いわけでも、海流で流れて来そうなポイントでもないのだが……。



「先輩。俺、ここ怪しいと思うっす」


「ほう……」



 先輩は、怪訝そうな、しかし、興味深そうな表情で「神木都市 インフィート」の印を見つめていた。


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