第30話:始動! コトワリさん救出大作戦
「むー……。今あなた達の手が無くなるのはちょっと痛いけど……。魔痕封じたとあっては、そう口うるさく言えないわよねぇ……」
指名停止願を出しに来た俺とシャウト先輩を前に、ギルドマスターが口先を尖らせながら言う。
二つ名ともなると、ちょっと勝手に動くだけでも願書出さなきゃいけないって面倒なこったな……
てか、魔痕封印に貢献ってそんなに大層なことなんですか……?
「当たり前だろ。あの魔王が成体になって魔王城を形成したとき、そこから瘴気を供給すんだ。魔痕が少なけりゃ少ないほど、魔王城の形成力は弱まるからな。一個潰すだけでも結構な金星だ」
「魔王城……? 形成……?」
「あーもう……後で教えてやる。まあともかくだ、今後もっと厳しさを増すかもしれねぇ戦いを考慮すりゃ、アイツ抜きのパーティはあり得ねぇ。あいつ助けたらすぐ戻ってくるからよ」
「まあ、確かにあなたのとこのパーティは現状攻撃一辺倒が過ぎるわよねぇ……。ちょくちょくソロの若いヒーラーさん雇っては逃げられてるとも聞くし……。サラナさんほどの子でも死にかけたって言ってたくらいだし……分かったわ。ただし、期間は10日間よ。それを超えることなく戻ってくること! いいわね?」
「恩に着る」
「くれぐれも気を付けるのよ~!」という声を背に受けながらギルドマスター室から出ると、愛ちゃんとミコトが緊張した面持ちで駆け寄ってきた。
「ど……どうだったスか……?」
「コトワリさん助けに行けそうですか!?」
そう問いかけてくる2人に、俺は悲しそうな顔を作る。
2人は失望感にあふれた表情を浮かべる。
今度は嬉しそうな顔を作る。
すると2人の表情がぱあっと明るくなる。
今度は凄く悲しそうな顔を……痛ってぇ!?
「何やってんだこのバカ! 許可だよ。今日から10日間、アタシらはコトワリ救出に出向いていいってよ」
「やったー! これでコトワリさんが戻ってきたら、私達負けなしですよ!」
「ついでにあの薄汚ぇ悪魔の本体も叩き潰してやるっス!! フン!」
二人は一通り喜んだあと、「「じゃあクエストアイテム買い揃えてきます」っス!」と言って階下へ走り去っていった。
「先輩、コトワリさん絶対助け出しましょうね!」
「ああ……。シャウトパーティはアイツ入れて5人居てこそだからな。オラ! お前も荷物持ちして来い! アタシは飛行クジラ便確保しとくからよ」
俺は「イェス、親分」と言って、ミコト達の後を追いかけた。
////////////////////
「ゆ……ユウイチさまはいらっしゃいますでしょうか!!!」
一通り買い物を終え、飛行クジラの順番待ちの時間合わせに軽食を食べていた俺達の耳に、えらくかしこまった叫び声が届いた。
何だ何だ? と、視線を向けると、ギルド入り口の扉の前でビシッと背筋を伸ばして俺の名を叫ぶ、あの指輪の女騎士ちゃん……いや小隊長ちゃんがいた。
そして早速マーゲイがナンパしにかかっている……。
やれやれ……。
「はいはい、お馴染みユウイチですよっと」
「にゃ!? お前こんな可愛い騎士ちゃんまで手籠めに……にゃががが……」
マーゲイの口元を鷲掴みにして塞ぎ、小隊長ちゃんの前に立つ。
後ろからは「おいおいアイツ浮気か」だの「あいつのパーティマニアックな奴ばっかだもんな……」とかいう声が聞こえる。
ほぼ同時に雷鳴と悲鳴が聞こえた。
ごめん……。
こういう下品で騒がしいとこで……。
「いえ……! その……今日こそはこれを返しに来ました……!」
そう言って彼女は首にかけていた即死除けのタグを取ろうとする。
いやいやいやいや!!
返さんでいいって!!
ていうか何だ、また死線を潜るような任務が来たのか!?
「私は対新魔王索敵部隊の一員に志願し、任命されました。明後日未明より大陸中を走り回りながら、新魔王を追いかけることになります。おそらく、このタグをお返しする機会も……」
「えぇ!? またなんでそんなヘビーな任務を!」
「お許しください。これは私の選んだ道です」
等と言いながら、腰を直角に曲げてお辞儀をし、俺の胸にタグをグイグイ押し付けてくる小隊長ちゃん。
まーたこの子は死に急いじゃって……。
「……困ったな。本来君と交換した指輪を返さなきゃいけないんだが、エラマンダリアスに溶かされちまったよ」
「はい、ですので、これだけお受け取りください。それだけで結構です! 新しい指輪は支給してもらいましたので!」
「そういうわけにはいかないなぁ。俺は生憎、あの指輪をまだ買えてないんだ。冒険者は借りを作ったなら、必ず返さなきゃいけないんだよなぁ! みんな!」
俺はそう言って振り返る。
皆、一瞬ポカンとしたが、「そうにゃそうにゃ! お前それで自分の物だけ返してもらうとか、二つ名持ちの恥にゃ!」と、俺の隣で悶えていたマーゲイが叫んだ。
それを皮切りに、皆口々に「弁償しろ」だの「倍にして返せ」だの「アイちゃん俺に紹介しろ」だのと叫び出す。
「かぁー! 参っちゃったなぁ……このまま受け取ったら俺の二つ名のブランドがガッタガタになっちまうよ……」
「えっ……あっ……えっ?」
「だから俺がちゃんと指輪帰すまで、それ持っててくれないか。俺の二つ名の名誉のためにさ」
「えっ……でも……私……もしかしたら生きて帰ってこれないかも……」
「生きて戻ってきたらいいだろ? 何があっても」
俺はそう言って、小隊長ちゃんの首にタグをかけなおす。
ポカンとする小隊長ちゃん。
そこに丁度良く、「おいユウイチ! 飛行クジラそろそろ出んぞ!」と先輩が叫ぶ。
「ってことで、俺はちょっと出かけてくるから、また会おう!」
小隊長ちゃんのタグを指でピンと弾き、俺は飛行クジラの甲板へと走った。
「ユウイチさま!! 必ずまた返しに参ります!!」という声を背中で聞きながら。





