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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
最終章:釣具召喚チートで異世界を救う
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第25話:狂える死骸




「うーわ……すんごい廃墟臭……」



 死骸の谷を吹き抜ける風が帯びた独特の臭気に、愛ちゃんが鼻をつまむ。

 風化した骨の山を縫うように進んでいくのだが、まあ何とも嫌な臭いだ。

 こう……。

 全然人が通らない古い山奥のトンネルの真ん中あたりみたいな……。


 元の世界では廃墟や廃トンネル見物なども嗜んでいたという愛ちゃんは廃墟臭と例えたが、俺にはあまり分からない。

 なんか老朽化したコンクリだかモルタルだかの臭いはこんな感じらしい。


 あとここ入ってから気付いたけど蜘蛛の巣ヤバいな!!

 骨の山から峡谷の空にかけて無数の巣が張られており、まるで雲や霧のようなベールになっている。

 調査開始前に上を飛んでみた時、濃い霧がかかっているように見えたのだが、コレのせいだったのか……。

 太陽光は蜘蛛の巣に遮られ、真昼間にも拘わらず逢魔が時のような雰囲気が漂っている。

 かつてないほど気味の悪い探索だ……。



「ユウイチ、ミコト。何か感はあるか?」


「いえ、なんか弱い敵意……警戒してる感じの張り詰めたような気配は感じますけど、強い敵の雰囲気ではないですね」


「あの蜘蛛の巣作った虫系魔物っスかね?」


「うえぇ……私蜘蛛嫌いなんですけど~……」


「そうなのか? ホレ」


「ひぃぃぃぃぃぃ!!」



 先輩がぶら下がっていた手のひら大の蜘蛛の死骸をプラプラと見せつける。

 悲鳴を上げる愛ちゃん。

 さっきされた怖い話の仕返しのようだ。

 ていうか蜘蛛デッカ!!



「でも不思議っスね? ここの蜘蛛の巣、どれもかなり古いんスよ……。蜘蛛って結構綺麗好きで、巣がこんなに埃だらけになるまでほったらかしにするわけないんスよ」



 先輩と愛ちゃんのせめぎ合いを尻目に、ミコトが巣を手で取り、指で磨り潰す。

 彼女の言う通り古いのか、蜘蛛の糸は粘り気もなく、サラサラと崩れていく。

 確かに、ちょくちょく見かける蜘蛛も死骸か抜け殻ばかり。

 ミコトに言わせれば、足元に堆積している蜘蛛の糞も、かなり古いという。



「多分、大きさからしてネズミとかを襲って食べるタイプだと思うっスよ。外骨格が甲殻類みたいに発達してて、お尻にもエビみたいな節があるっス。かなり頑丈な体だからこそ、死後時間が経っても体の形を保ってるんスね」



 ミコトが指で押すと、蜘蛛の死骸はバキバキと虫らしからぬ音を立てて砕けた。

 本当にエビやカニみたいだな……。



「「!!」」



 ミコトの蜘蛛講義を受けていると、不意に、感知スキルのピークが一瞬だけ鋭くなった。

 とっさに身構える俺とミコト。

 その様子を察した先輩と愛ちゃんも武器を抜き、臨戦態勢に入る。


 フッ……フッ……フッ……という、心電図のピークを思わせる一定ペースで、感知音が峡谷の奥から響いているのが分かる。

 だが、そのピークはかなり珍しい。

 「虫系じゃないっス……人でもないっスね……」とミコトが呟く。

 レベルアップした感知スキルは、種によってある程度の癖があるピーク音をより緻密に聞き分けることが出来る。


 虫ならカサカサという、キチン質が擦れるような音。

 鳥ならば羽毛が擦れるような音。

 人ならば、馴染みのある心電図のような音がするし。

 獰猛な獣や獣型魔物ならば、ドクンドクンという、重量感のある音だ。


 しかし、この音は何だ……。

 クッションがモフモフとぶつかり合うような……。

 服擦れやカーテンの擦れるような音も聞こえる。

 何なんだマジで……?



「きゃあああああああああああ!!」



 もっと音を聞くべく、感覚を研ぎ澄ませていると、突然愛ちゃんが叫んだ。



「で……デカグモぉおおおおおお!!」



 どうやら、デカい蜘蛛が出たらしい。

 いやいや……こういう状況で大声出されると困……「でけえええええええええ!!」。

 俺は振り返るや否や、愛ちゃんの数倍の声で叫んでしまった。


 体高2mを超えようかというタランチュラのような巨大ジグモが、中空に貼られた蜘蛛の糸霞をぶち抜いて落ちてきたのだ!

 しかも、なんかフワフワと歩き、愛ちゃんに迫る!

 ……。

 …。


 アレ?

 なんか……ドラゴンに続きコイツの動きにも既視感が……。

 いや!

 今はそんなことを言っている場合ではない!



「エレキスパイク!!」



 俺が動くよりも早く、先輩がクモの尻を真一門に斬り裂いた。

 バキィ! サラサラ……。

 そんな音を立て、崩れる蜘蛛の腹。


 は!?


 ちょっと待って!

 この蜘蛛死骸だ!



 カリカリに乾いた外骨格の割れ方で分かる。

 こいつ、食べ終わった茹でガニの甲羅を記念に取っておいて、窓辺に放置してたら白くなってパリパリに砕けた時の割れ方にそっくりなのだ。

 事実、尻の中身は砂のようになった臓器の中身が崩れ出している。



「死骸が動く……やっぱりここの敵がドラゴン事件の犯人ですよ先輩!」


「んなもん見りゃ分かる!! 来るぞ!」


「は?」



 直後、俺の頬を何かが霞めて通り過ぎていった。

 シャモジか何かで頬を張られたような痛みが遅れてやってくる。


 カラカラカラカラ……

 カラカラカラカラ……


 奇怪な音のする方を見ると、人型の骸骨、獣型の骸骨、鳥型の骸骨、その他諸々の骸骨が骨の山から次々に立ち上がり、こちらへ駆けてくるところであった。

 不可思議なことに、感知スキルのピークは先ほどと同じ布の擦れるようなものがたった一つだけ響いていた。


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