第23話:幽骸龍襲来
「ドラゴンだ! 骸骨のドラゴンだ!!」
誰かが叫んでいる。
んなもん言われなくても見りゃ分かる。
「なんだありゃあ!? あんなドラゴン見たことねぇぞ!?」
並んで走っている先輩も、見たことがない謎の龍。
それが幻想的な鬼火を纏いながら空を飛んでいる。
街に据えられた自慢の防衛兵器、火砲「ハナビ」が火を噴くが、命中箇所がバラバラと揺れ動くだけで、明らかに効いている風ではない。
何なんだあいつは!?
「ユウイチ! あいつ本体は後まわしだ! あの火球を落とせ! 街に火が回るとやべぇ!!」
「がってん了解っ!!」
俺は空中に飛び上がり、龍が飛んだ後から舞い降りてくる鬼火にウォーターシュートを叩き込む。
……。
よかった消えた!
消えなかったらどうしようかと思った!
「ヒョヒョ!? ナンデキエルノ⁉」
「んあ!?」
誰かがえらくピョロピョロした声で叫んだ。
何で消える……?
この騒動の犯人の気配がするなぁ!!
俺は高度を上げ、飛ぶ龍とほぼ同高度に達する。
速度はえらくゆっくりで、俺でも容易に追跡できる。
首から尾にかけて伸びるラインを波打つように揺らし、翼はおよそ空を飛ぶ生物の動きには見えないほど緩慢な動きだ。
何よりも異質なのが、足がない点だろう。
がっしりとした肩から胴体に続く骨格はいかにも西洋龍だが、そこから伸びる尾は蛇龍や海竜のようだ
着地することもなく、延々と宙に舞っているのだろうか。
ドラゴンは俺と同じように魔法で飛ぶ種もいるって聞くけど……。
それにしたって……。
ていうか……なんか……あんな動きどっかで見たような……。
何より奇妙なのは、感知スキルのピークだ。
ヒュードラーのような、頭が弾け飛ぶほどのピークでも、エラマンダリアスのような全く感無しでもない。
獣脚竜やワイバーンくらいの強めのピークが延々とこちらに向いているのだ。
強敵ではあるのだろうが、およそドラゴンのそれではない。
市街地の直上。
すっかり鬼火が消えて物寂しくなったドラゴンの後を、一定の距離を保ちながら追尾する俺。
ハナビは市街に向けては放てないようで、えらく静かな追跡戦だ。
しかしハナビはまだしも、なんでドラゴン側は鬼火を撃ってこないんだ……?
ここは一発……仕掛けてみるか!
俺は地上の先輩にハンドサインを送る。
先輩もそれに「やれ」という許可のサインを返してくれた。
俺は両の人差し指と中指を額に置き、叫んだ。
「ロングレンジ冷凍ビーム!!」
俺の眉間から一直線に伸びる細く、青白色をした光線。
龍の左尾部から肩にかけて光線が横切り、その一線を凍結させる。
俺は魔王追撃戦の時にした悔しい思いをバネに、冷凍ビームの新技を編み出したのだ。
威力はメガに大きく劣るが、その射程は実にメガの10倍以上になる。
目線とほぼ同調していて、射線も細いため精密射撃も可能となる。
「アギャアアアアアアアア!!!」
突如、およそ龍とは思えない絶叫が聞こえると同時に、龍の頭上に大きな鬼火の輪が現れたかと思えば消え、宙に浮いていた龍骨格がバラバラと弾け飛ぶ。
え!?
倒しちゃった!?
「雄一さーん!! 助太刀するっスーーー!!」
と言って、鎧を表裏逆に着たミコトが舞い上がって来た時にはもう、幽骸龍であろうそのドラゴンは辺り一面に散乱していた。
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「流石二つ名持ちの冒険者様だぜ!」
「アレが雷刃どの……麗しい……」
「東方宿営地の帝国軍の腑抜けどもとはワケが違うな!」
などと、明らかに割に合わない称賛を浴びながら、俺達は骨を拾い集める。
幸運にも、落下した骨による被害は無かったようだ。
やはりと言うべきか俺だけでなく、先輩もミコトもあのドラゴンには妙な違和感を覚えたらしい。
愛ちゃんは……。
あの子この騒ぎで起きてこなかったの冒険者として大丈夫かな……?
「んー……? こいつは……」
「先輩これドラゴンの骨じゃないっスよ!」
「オイこれ頭明らかにおかしいだろ。レックス系の上あごに嘴の下顎付いてんぞ」
骨が集まれば集まるほど、その歪な姿が明らかになっていく。
暗くて気付かなかったが、よく見れば翼も左右で異なる形状をしているし、何より背中側に翼の関節との結合部が見当たらない。
まるで既存の生物を寄せ集めた骨格標本だ。
何だこりゃ!?
「こいつぁドラゴン事件じゃねぇ。とりあえずギルド本部と依頼主に報告して、続報を待ってから動くぞ」
先輩が早くも簡易報告を書き上げ、ギルドバードを飛ばした。
「さて……。指示が来るまで待機だが気を抜くんじゃねぇぞ。あの寝坊助にゃ明日一日稽古つけてやらねぇとなんねぇな」
先輩は街のギルド職員を骨の処理に関して軽く話した後、バチバチと電撃鞭を指先から伸ばしながら宿へと戻っていった。
あ、先輩が何言おうとしてたか聞きそびれちゃったな。