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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
最終章:釣具召喚チートで異世界を救う
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第22話:望む未来




 宿の夕食は、やはりというべきか囲炉裏料理であった。

 ただ、それっぽいビジュアルというだけで、日本のそれとは結構差異がある。

 石造りの囲炉裏の中央に炭を置き、その周りに石のプレートを置き、そこに食材を並べて遠火で焼いていくのだ。

 無論、恐らく近場で獲れたであろう魚も串焼きでそこに並ぶ。



「風情があるっスねぇ」


「胡坐かきながら食えるのも何かいいよな」



 ミコトが魚を、先輩が肉を裏返しながら言う。

 食材が運ばれてきて、後は俺達が自由に焼いて食うという、焼き肉屋スタイル。

 実はこのパターンの宿は少なかったりする。


 この魚はマスかな?

 目の色からして鮮度はかなりいい。

 鮮度がいいマスが獲れるってことは、海と繋がる川が近くにあるということだろう。

 騒動が終わったら、絶対釣りに来よう。



「お? ユウイチお前珍しく目つきが違うじゃねぇか。いつもならもっと血走った目で魚見てるのによ」


「そんなにですか!? まあ……確かに前ほど貪欲に分析はしてませんが」


「別にいんだぜユウイチ? ちっとくらい……」


「いえ。俺なりの責任ですんで。それに、こんな大陸中バタバタしてる中で釣りしても楽しくないですよ。魔王が倒されて、あの連中締め上げてから、また皆で来ましょう」


「そうですね! それに世界中にはもっといろんな景色や環境があるんですよね!? 私、コトワリさんが戻ってきたら大陸中……いえ、世界中を回っていろんな景色が見てみたいんです!」


「へへへ……いいじゃねぇか。そん時はアタシも付き合ってやるよ」


「私達もお供するっス! ね! 雄一さん!」



 ミコトがよく焼けた魚を俺に手渡しながら笑った。

 俺も「そうだな」と微笑み返す。

 しばらく皆で微笑み合っていると、シャウト先輩が「おうお前ら、もう肉も魚もいい具合に焼けてんぞ。さっさと食って明日に備えんぞ」と、食べ始めた。


 俺もそれに倣い、ミコトにもらった魚に噛り付く。

 お!

 旨い!

 鮎っぽい感じの味だ。


 特に背中に脂がのっていて、炭火で焼かれ、パリパリになった皮と相成って何とも香ばしい。

 ほろ苦いワタもいい感じだ。

 ありきたりだが、凄くホッとする。


 肉の方はと……。

 ふむ。

 旨い。


 これは何肉だ……?

 かなり強い甘みのある脂がどっしりと乗っている。

 臭みとかはないけど、どこか野趣を感じる風味だ。



「こりゃモグラグマ肉だな。この辺や大陸北方で獲れる野獣肉だ」


「モグラグマ……。そりゃ穴掘って潜るんですか?」


「ああ。お前が狩ったニシチミドロヒグマってのがいんだろ? アレと同じくらいのデカさでよ、こう……短くてスコップみてぇな手足しててよ。こうワサワサ穴掘ってちっさいワームとか掘り起こして食うんだ」


「ぷふっ……先輩なんですかその物まね!」


「んなっ!? アタシはちょっとでも分かりやすくしてやろうと……!」


「でも確かに今の先輩すんごい可愛かったっスよ!」



 モグラグマの動きを手と顔で表現しようとした先輩の姿に、愛ちゃんとミコトが笑いだした。

 うん……。

 確かにかなり可愛くはあった。



「よーし……オメーらモグラグマ肉抜き!」


「あー! それはダメです!」


「お許しくださいっス~」


「んじゃお前らもモグラグマやれ! おうユウイチ! オメーもだ」


「なんで俺まで! 俺ギリ耐えたのに!」



 そんな子供のようなやり取りで笑い合いながら、その日は暮れていった。




////////////////////




「お。ユウイチどうした。眠れねぇのか」



 この街の夜は半端に冷える。

 どうにもトイレも近くなる。

 夜半に目が覚めて用を足した帰り、暗い廊下で空を見上げる先輩がいた。



「いえ、割と寝れてたんですが、どうもここはうすら寒くて……ちょっとトイレに」


「そうか……」



 そう言ってまた月を見上げる先輩。

 どうしたんです?



「ああ。ちょっと思い出の中で見た月と似ててな。どうもこの街はアタシを望郷気分にさせるらしい」


「望郷……そういえば先輩ってどこ出身なんですか?」


「ああ。アタシはちと寒い地方出身でな。まあ、アタシがガキの頃に戦火で焼けて無くなっちまったが」


「え……」


「あ……ああ! そんな重い話でもねぇよ。ただまあ、色々あってデイスに流れ着いたのさ」



 いや重い話だろそれは……。

 俺は気の利いた言葉とか出てこず、沈黙が流れる。



「そんなこんなでアタシにゃ家族ってもんの記憶が薄っすらしか残ってねぇんだ。オメェは親孝行してっか……? ってもアタシも何すりゃ孝行なのかも知らねぇんだがな」



 先輩はそう言いながらクルリと向きを変え、窓に腰かける。




「ただ……。オメーらがアタシにしてくれることが、まあ似たようなもんなのかって、最近思えるようになってな」



 先輩が右腕に嵌った金色の腕輪に視線を落とす。

 夜くらい外しててもいいだろうに……。



「ユウイチ。アタシはお前やミコト、アイやコトワリのことを家族だと思ってる。これまで長く付き合いのあった連中やパーティはあったが、こんな……居るだけで心が休まって、温けぇ気分になるのは初めてだ。多分、そういうのを家族って言うんじゃねぇかって、自分なりに解釈してんだ」


「ええ。俺は先輩のこと、家族みたいに思ってますよ。頼れる長女って感じで」


「けっ……おふくろじゃねぇのかよ。ってまあ……アタシはおふくろではねぇか……」



 この人はさっきから何にそんな感傷的になってんだ……?

 今更家族みたいってこと意識するまでもあるまいに。



「い……いや……ちょっとよぉ。今日皆で将来の話しただろ……? こう……オメーとミコトが結婚したり、アイやコトワリのやつもそういうので抜けて行ったらよ、アタシ一人取り残されんじゃねぇかって、妙に気味が悪くなってな……」


「んなまさか~。そんくらいで離れて行ったりしませんよ。それに先輩も良いお相手見つかるかもしれないじゃないですか。冒険者引退したって20年後も40年後も一緒に飯食ったりお酒飲んだりするオッサンオバサン、爺さん婆さんになりましょうよ」


「……まあ、そうだよな」



 なんで凹んでんだよアンタ……。

 熱でもあるんじゃないですか?



「そろそろ……お前には伝えてもいいかって思ったんだが……」



 先輩が突然、すごい真面目な顔で俺の方を見つめてきた。

 え!

 なになに!?

 凄い怖い!?




カンカンカンカンカンカンカン!!!




 先輩が何かを言おうとした瞬間、敵襲を知らせるけたたましい半鐘と共に、バン!バン!という、花火のような轟音が街に響いた。


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