第21話:東方高原 スカラープの街
「うっし! んじゃ行くか。その幽骸龍とやらの調査によ」
先輩が果物ジュースを一気に飲み干し、席を立った。
俺達もそれに従って、残った飲み物を飲みきり、席を立つ。
俺達の腕には、お揃いの腕輪が装備されている。
もちろんそれは、鍛冶屋の女店主にもらったゾラダラーガの端材腕輪だ。
金色に輝く腕輪には、それぞれ赤、黄色、青、紫の魔法宝石、ジュエルジェムが埋め込まれている。
ゾラダラーガの素材には、ヒュードラー素材と同様に魔法防御力を高める作用の他、攻撃に微量ながら龍の力を纏わせる作用があり、ドラゴンと対峙した時に攻撃がより通りやすくなるとのこと。
また、龍の力により、雑魚魔物避けにもなるそうだ。
そして嵌められたジェムには、それぞれが得意とする属性攻撃の威力を一定量強化する作用が付与されている。
シャウト先輩は素でかなり極まったステータスを持っているので、あまり効果は無いかもしれないが、誰よりその腕輪をチラチラ見つめている。
まあ、パーティーお揃いの装備ってだけでなんかアガるよね。
俺達はお互いの腕輪を見つめ合ってニヤニヤしながら、クエストカウンターに向かった。
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「うわ~凄いっス! 凄い針葉樹林っスよ!」
飛行クジラの眼下に見えるのは、辺り一面に広がる森。
植生はバーナクル付近のへリング高地に似ているようだが、その規模は段違い。
広大な高原の森林のど真ん中に突然現れる街、それが今回の中継地「スカラープ」の街だ。
結構アクセスの悪い立地なのに結構デカいな!
「スカラープはその昔、ハーフハイエルフの末裔が作った街でな。年中涼しいってんで、暑いのが苦手な亜人、ハーフ亜人が多く住んでるな。アタシも前何度か来たことがあるが、確かに暮らしやすい場所だったぜ」
シャウト先輩が窓枠に肘をつきながら言う。
シャウト先輩暑がりだもんなぁ……。
ていうかもしかしてこの街って……?
「そうっスよ! レアリスちゃんの故郷っス!」
ミコトが嬉しそうに言う。
なんか妙にソワソワしてるように見えるが……。
ああ……。
そういえばそうだったか。
「ミコト、くれぐれも食べ過ぎるなよ」
「ギクッっス!!」
確かこの街は菓子が名物で、ミコトは以前それを食べ過ぎて球体になってしまったことがあった。
それを楽しみにしてるなこの悦楽天使は……。
別に普通に楽しむ分にはいいんだが、クエストに影響が出ない範囲で頼むぞ?
「勿論っス! あ~でもどのお菓子も美味しいんスよ~。都では食べられないような生菓子もあるらしくてもう……めっちゃ食べるっス!!」
「だから“めっちゃ”は食うな!!」
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スカラープの街は確かに涼しかった。
大陸中央では夏も盛りに突入しようかという時期なのに、初夏や晩春くらいの気温しかない。
夕日を浴びる街は、この地域特有の夕霧に包まれてしっとりとしている。
「なんか、ちょっとだけ私たちの故郷っぽいですね」
「それ思ったわ」
愛ちゃんが言う通り、木造+瓦屋根+土壁+漆喰という、どことなく日本建築を思わせる街並みだ。
愛媛の内子とか、鳥取の倉吉とかでこういう光景見たな。
多分、この高湿度環境に適応するためのものなのだろう。
確か漆喰も土壁も調質性に優れた素材だったしな。
先輩に導かれるまま、今日の宿に入る。
室内の造りはそれほど日本的ではないものの、部屋の中央に囲炉裏のような石かまどが据えられているのが見えた。
どうも、この宿は部屋で食事を提供してくれるらしい。
これはこれは……今日のお食事が楽しみじゃないか!
「雄一さん! 私もう我慢ならんっス! お店がしまる前に生菓子買ってくるっス!」
「あっ! 先輩私も行きます!」
そう言ってミコトと愛ちゃんは宿から飛び出して行ってしまった。
やれやれ……。
「あれ? 先輩は行かないんですか?」
「アタシはそんなに甘いもん食わねぇよ……。しっかしアイツら初見の町でちゃんと戻って来れんのか?」
「まあ大丈夫でしょう……子供じゃあるまいし……」
俺は二人が放り投げていった荷物を整理する。
明日からクエストなのにハメ外しちゃってまぁ……
あ……。
俺が釣りに行ってる間、みんなはこんな気分だったんだろうかね……。
「へへへ……ちっとはメンバーの趣味に振り回されるリーダーの気分が分かったろ」
そう言って先輩はカラカラと笑った。
「ま、アタシのパーティはクエストに悪影響出さねぇ限りはその辺自由だけどな。オメーも時々はありがたがれよな」
「へい親分……。心の底から感謝してやす……」
「ま、これを感謝の証ってことにしといてやるよ。へへへ……」
沈んでいく夕日の残光の中、先輩が満面の笑みで腕輪を見せてくる。
金色の腕輪よりも、その笑顔は輝いて見えた。