第18話:復帰クエスト! シャークチオステガ VS 金色蛇龍ゾラダラーガ
シャークチオステガが龍に噛みつき、龍もまた巨大ザメの背に食らいつく。
あのマグマ光線を発射しそうになると、鮫は即座に身を捻り、魔力のチャージを妨げる。
土砂と瓦礫、そして冷え固まった溶岩で逃げ道がなくなった大広間で繰り広げられる大怪獣バトル。
「グワッシャアアアアアア!!」
「ぬんっス!!」
視線を下へ向ければ、サメ顔の化け物と、麗しの天使がかち合っている。
ザラタードケロンの時よりも一回り大きく、そしてより凶悪な顔になったレッサーダゴンと正面から戦えるのはミコトだけ。
龍毒の大剣はさしもの悪魔も危険を感じるようで、その両腕を蟹のハサミに変形させて、生身が毒に晒されるのを防ぎながら戦っている。
「ウラァ!!」
「せい!」
ミコトと組み合って動きを止めたレッサーダゴンの左右から、先輩と愛ちゃんが投げナイフと弓矢で攻撃を加える。
その程度の攻撃ではレッサーダゴンの頑丈な鮫肌は貫けない……と、思うなかれ。
ザッ! ザン! と快音を立ててその強固な皮膚に深々と突き立つ二人の攻撃。
予想外のダメージに「ギガァ!!」と吠え、ミコトの剣を離すレッサーダゴン。
「さあジャンジャン行っちゃって! お代は後で請求するから!」
そう言いながら、光り輝く液体をフラスコに詰め、敵めがけて投げつけるサラナ。
フラスコがバリンと音を立てて割れ、レッサーダゴンの体表へ液体がブチまかれる。
「ギシャアアアアアアアア!! コイツァ何だ!?」
激しく白煙を拭きながら、レッサーダゴンの顔面が焼け爛れていく。
サラナが別格の素材を使って調合した、対悪魔用の激毒聖水だ。
これを塗るだけで、お手持ちの武器が瞬く間に対悪魔仕様に!
コワ~……。
おっと。
見とれている場合ではない!
俺は俺の仕事をしなければ!
「行け!! イシガキデメニギス! シャドーメガマウス!」
俺はポーチの中で脈動する2枚のカードを取り出し、食らい合う怪獣2体の方へかざした。
カードが眩く光り輝き、そこから2体の巨大魚が飛び出して行く。
「君らの性質的にシャークチオステガを襲いたいだろうが、ここは一つあのドラゴンを優先して倒してくれないか!」
俺はトレーナーでもテイマーでもないが、申し訳程度に叫んでみた。
前は天界魚退治を優先されてしまったが、今回はラッキーなことに、2体はゾラダラーガへの攻撃を始めてくれた。
あの龍さえ撃破ないし撃退できれば、魔法が使えるようになる。
そうすれば、後は多分何とかなる!
いや、絶対何とかする!
「ジャアアアアアアア!!」
金色の龍の背に食らいつき、その逆鱗を食いちぎって見せるイシガキデメニギス。
シャドーメガマウスは影に溶け、無数の影分身体を伸ばして、比較的柔らかいであろう腹部に突撃を加える。
そのパワーと巨体に押し負け、ゾラダラーガの巨体が石壁に倒れ込んだ。
衝撃で崩壊する石壁。
負荷がかかり、傾いた方向へ崩れていく天井。
数十トンに及ぶであろう瓦礫が、龍の上に降り注ぎ、その姿を完全に土中へ埋めてしまった。
やったか!? あっ……。
「ジャアアアアアアアアアア!!」
当然の如く、瓦礫を粉砕して飛び出てくるゾラダラーガ。
「シュウウウウウ!」という音を立てながら、その体を激しく揺さぶる。
なんだ……!
何が始まるんだ!?
「シャドーメガマウス! イシガキデメニギスを守るんだ!」
地面に広がる影の中から伸びた大口がイシガキデメニギスをパクンと飲み込んだ直後、龍の背に巨大な翼が展開された!
う……美しい……と見惚れる暇もなく、大地が激しく揺さぶられ、「ドン! ドン! ドン!」という音と共に、噴煙が上がる。
そして押し寄せるマグマの柱。
俺はアクションゲームかよと自分にツッコミを入れながら、触手のように地面を走るそれを右へ左へと躱していく。
俺は小さいから何とかなるが、これじゃ流石のシャークチオステガは逃げられまい……!
そう思うよりも早く「ガワアアアアアアア!!」という蛙のような雄叫びと共に、凄まじい水流が俺の横を走り抜けていった。
ダムの放水のような大迫力の激流は、次々に迫っていたマグマの波を一瞬で冷え固まらせ、砕き、龍へブチ当たった。
無論、それを放ったのはシャークチオステガ。
コイツもとんでもない戦闘力だ!
しかし、激流程度で死ぬ龍ではない。
即座に体制を整えると、再び翼を広げ、マグマを地表へと誘う。
そうはさせるか!!
俺の思いと連動するかのように、大地から多数の影が伸び上がり龍の翼に食らいつく。
あの翼が超常現象を引き起こしているのなら、そこを封じ、破壊すればマグマ攻撃は止むはずだ!
「お前の出番だ!」
俺は鼓動を続けていた2枚のうち、1枚を取り、ゾラダラーガへかざす。
「キシキシキシ……ギギ……」と、イセエビのような鳴き声を発しつつ飛び出したエビザメが、金色の翼の付け根に食らいついた!
地に満ちる影の中から飛び出したイシガキデメニギスも、逆側の翼に食いつく。
「ジャアアアアアア! ジャアアアアアア!!」と激しく威嚇するゾラダラーガだが、大技を放った直後だけあって動きとパワーが僅かに鈍っている。
行け! 頑張れ!
応援する俺の背後にズシン! という音と共に四肢を踏ん張り、大口を開けたシャークチオステガが陣取る。
おっ! こいつは!
「ガワアアアアアアア!!」
凄まじい咆哮と共に放たれた激流ブレスが、今度は溶岩の壁で減衰することなく、龍の胸のど真ん中に直撃した!
激しく吹き飛ぶ金色龍。
ついでに吹っ飛んでいくエビザメ。
ガッキイイイイイン!という、およそ生物の部位が出す音とは思えない金属音を立てて、千切れ飛んだ龍の翼が廃城に落下した。
ゾラダラーガは激しく身を捻り、地中へと逃走していく。
よっしゃあ!!
シャークチオステガもやるじゃん!
へい!
ハイタッチ!
「ガワアアアアアア!!」
「どわああああああああ!!」
……とはいかないのが魔獣と化した天界魚だ!
さっきまで俺が立っていた位置に大穴が空く。
あんな激流食らったら死ぬぞ!
だが、もう食らわん!
俺は空中で身を翻し、双剣を十字に構えた。
「メガ・冷凍ビーーーーーーム!!」
「ほいキタっス!!」
俺の動きを一瞬で把握したミコトが、短剣と弓でハリセンボンのような姿になりながら大剣に食いついていたレッサーダゴンごと剣を大きく振りかぶり「龍毒斬・おろしっス!!」と叫びながらフルスイングした。
大剣から吹き出た龍毒を帯びる聖属性の風魔法に吹き飛ばされ、レッサーダゴンの体が宙へ投げ出された。
ちょうど俺から伸びる十字の冷凍光線のドンピシャ真正面だ!
「ギシャアアアアアアアア!! く……そ……があああああああ!!」
と叫びながら、レッサーダゴンは凍結し、砕け散った。
手負いとはいえ、バフなしでの初撃破だ!
「グラン・サンダーボール!!」
「ボルカニック・アローボルト!」
シャウト先輩と愛ちゃんの放った魔法光弾がシャークチオステガに2発、3発と命中する。
「ゲアアアアアアアア!!」という断末魔と共に沈む超古代両生鮫。
「雄一さん!」
「了解!」
俺はブランクのカードをシャークチオステガ目がけて投げつける。
その巨体が光となってカードの中に吸い込まれていき、俺の手元に戻ってきた。
そこには、はっきりと「シャークチオステガ」と書かれている。
あれ……?
このカードこんなにはっきり日本語だったかな?
ていうか……アレ!?
他のも完全に読めるようになってる!!
天界のサメ達をカードに戻すのも忘れて、そのカードテキストを読んでいた俺だが、シャウト先輩の「オイ!? あのガキはどこ行った!?」という叫び声で意識を引き戻された。
ハッとして見上げると、遥か上空に輝く赤い凶星。
しまった!
俺は即座に飛行スキル全開でその後を追う。
だが、地に満ちる魔力を掴んで身を浮かせる光の翼は、上空に行けば行くほどか細くなっていく。
まだ遠い……!
もっと高く……!
もっと高くだ!
頑張れ! 俺!
だが、そんな俺の意志に反して、ある一点を境に、全く上昇が効かなくなってしまった。
そこへ突如、遥か上空から放たれる黒い光弾。
その直撃を食らい、俺は激痛に顔を歪めながら落下していく。
「くそっ……! ま……待てえええええ!!」
俺の叫びを嘲笑うかのように、凶星はその輝きを増しながら、遥か北東方向へと飛び去って行った。