第16話:復帰クエスト! 廃城の陰謀
やめてくださいっス!
やめてくださいっス!
やめろ! オイ!
やめてください! 酷いことしないで!
「んあ?」
何か叫び声が聞こえる。
同時に、胸にドシドシとした衝撃が……。
「痛ぇ!?」
「はああああああああ!! 目覚ました!!!」
何だ!?
何が起きてる!?
何で俺は石床の上で縛られてんだ!?
ていうか胸が痛ぇ! 物理的に!
チカチカする視界の中で、焦点を何とか合わせると、その先に5人の人影と、そこへ向かって走っていく人影が一つ……。
あ!!
あいつら悪行転生者の……!!
「雄一さん! 大丈夫っスか!?」
という、ミコトの声がする方へ首を回すと、うわ! 大勢!
ミコトも、先輩も、愛ちゃんも、村人の皆も縛られてる!
ていうかウチのパーティ全員裸じゃねぇか!
ミコトは……グルグル巻きすぎて判別がつきにくいが、多分裸だ!
き……貴様ら――――!!
「ひぃ!! じゃない……何を勘違いしてるのか知らねぇが、そいつらは裸でお寝んねしてただけだ。それに俺達は……!」
「そうなのか?」
「はい。多分大丈夫です」
「同じく」
「苦しいっス~! せめて縄の面積半分にするっス~!」
とまあ、パーティメンバーのアレコレは大丈夫そうだが……。
「おいお前ら! 今度は何が目的だ! またろくでもないこと考えてんだろ!」
俺は激しく啖呵を切る。
俺の意思半分、スキル補正半分といったところだろう。
彼らは俺との直接対決を恐れている。
ここで俺が弱気に出ないことが重要だ。
俺は一瞬に全神経を集中し、得られる情報を整理分析する。
ここは、石造りの大広間。
転生者連中は部屋の中央奥に据えられた祭壇のような場所から、俺達を見下ろしている。
その両側には水を吐く龍の石像が2対4体。
地面には妖しく光る魔法陣、恐らく魔法やスキルを封じる類のものだ。
テレポートも、飛行スキルも、冷凍魔法も使えない。
もしかすると、ここはかの廃城かもしれない。
こいつらの存在がコーガを追いだしたのか……?
見れば、連中の後ろには所謂邪神教徒と思しき連中の集団が控えていて、明らかに何かの企みを行ってる。
マーゲイが拾っていたのはコイツらの動向だったのかもしれない。
なにせ邪神教徒はフランチャイズ悪の組織。
地元のならず者が情報を漏らしても不思議ではない。
広場の隅にある箱からは、ミコトの大剣がはみ出していることから、恐らくあそこに俺達の装備が詰まっているのだろう。
後ろで縛られている皆を確認した限り、恐らく村の全員が集められている。
だが、サラナは居ない。
何をされたのか分からないが、彼女さえ逃げ延びてくれていれば、一応まだ希望はある。
今は俺のスキルが繰り出す運を信じて、彼らの企みを暴き出し、時間を稼ぐのが先決だ。
「無駄だぜ? この王の間は今、魔封じの結界が張られている。お前のお得意技も出せないってわけだ」
今更こっちが分かり切ったことを吐く、転生者のリーダー格っぽい奴。
確か……ヒョウノとか言ったな。
随分高慢な口調だが、やはり俺の元へは来ない。
ザラタードケロンでの一件が尾を引いているのだろう。
好都合だ。
「そうか? んじゃ試してみるか? お前らと違ってこっちは魔女に認められてるんでな」
「!!」
明らかな動揺を見せる6人。
「ハッタリだ」とか「あまり刺激しない方がいい」とか「俺達が手を下さなくていい」だのと、ヒソヒソ話している。
恐怖は判断力を低下させる。
あの日、影の遺跡迷宮で俺と愛ちゃんを悠々と手玉に取って見せた余裕はもはや何処にも無い。
「まあいい。どのみちお前らはここで終わりだ。ルカ、食わせろ」
「はい……」
ヒョウノが同じく転生者の……なんか魔女会議で居たような……居なかったような女が前に出てくる。
死んだ魚のような目ってのはコレなのかってくらい目が死んでるんだが……。
その胸に抱かれてるのは……赤子……?
「さあ……たんとお食べ……」
死んだ魚のような声と共に掲げられたその赤子は、フワフワと宙に浮いたかと思うと、突如、見覚えのある赤黒い閃光を発しながら広間の中空に陣取り、凄まじい魔力力場を発現させた。
ぐぬ……!!
体が……痛ぇ……!!
「ユウイチ……!! ヤバいぜ……! コイツは……!!」
「体から力が抜けて……抜けちゃいけないものまで……持っていかれそう……です!」
「なんスかこの汚らわしい魔力は―――!! 痛たたたたたたたっス!! やめるっスーーー!!」
見回せば、村人皆の顔から生気が引いていく。
愛ちゃんも荒い息をしながら、苦しんでいる。
まるでエネルギーを吸い取られているかのように……。
「まさか……ここ最近続いてた村々の壊滅事件は……!」
「今更気づいても遅ぇなぁ!! ダーッシャッシャッシャ!!」
不快な笑い声と共に、レッサーダゴンまでもが現れる。
クソ……!
このままだとまずい……!!
サラナの助けが間に合ったとしても、迂闊に飛び込んで来たら返り討ちにされる……!
どうする……どうする……?
「オイテメェら。なんか臭くねぇか?」
高笑いしていたレッサーダゴンが、突然冷静なトーンに戻った。
ど……どうした?
ん……?
なんか……体が湿って……ヌルヌルする……?
「おいどういうことだ!? 魔封じの結界が……!?」
ヒョウノが叫ぶ。
俺の視界に、水に変わって泡を吹く龍の石像が目に入った。
そういうことか!
「ふん!! 冷凍ビーム!!」
テレポートが発動し、俺は体を縛る縄から逃れる。
同時に指を広間の中空で光る赤い凶星に向け、冷凍ビームを放った。
激しい凍結光線が赤い魔力を押しのけて命中し、「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」という、人間の赤子のような、おぞましい魔物のような鳴き声が響いた。
同時に皆を苦しめていた力場が消える。
「ま……魔王様が!!」
「いやあああああああああ!!」
誰かが叫んだ。
魔王だぁ!?
「セイクリッド・バブルスプレッド!!」
大混乱に陥る広間に、サラナの声が響いた。
石床を覆っていた泡がバン!という音と共に炸裂し、辺り一面に微細な泡をまき散らす。
その泡から逃れるように、広間の天井の方へ浮遊していく謎の赤子。
そのおぞましい泣き声はいよいよひどい。
全身を悪寒が走り抜ける。
だが、この好機を逃すわけにはいかない。
俺はミコトの剣を目印にテレポートし、即座に武器と防具を皆の元へ取り戻した。
既に先輩は電撃のナイフで縄を切って脱出し、愛ちゃんとミコトの開放に成功している。
先輩に鍛えられた早着替えで、防具と装備を装着していく俺達。
「ごめん! 地下で迷って遅れた!」
と言いながら、石室の床に嵌められた金属蓋から這い出てくるサラナ。
ナイス助っ人だ!
「あなた達の目論見通りにはさせませんよ!!」
愛ちゃんが火炎分身を形成しながら声を上げる。
「薄汚い悪魔と魔物は滅びるっス!!」
ミコトが龍毒で輝く大剣を構える。
「アンタたちがレフィーナちゃんの故郷を……絶対に許さない!!」
サラナが明らかにヤバい色をした薬品のシリンダーを杖にセットし、
「アタシの舎弟に随分な接待してくれたじゃねぇか! 礼をしてやらねぇとなぁ!!」
先輩が辺りの大気を雷鳴で震わせながら啖呵を切る。
「雷刃戦隊!」とでも俺が叫べば、皆でポーズでも取れそうな勢いだが、俺は無言で氷手裏剣を乱射する。
既に総崩れの様相を呈していた敵陣営に無差別で降り注ぐ氷刃が、彼らをさらなる混乱へ陥れた。
よっしゃ斬り込む!!
俺は「どういうことだ! 何をしている!?」と叫ぶヒョウノの眼前にテレポートし、直後、その背後に回り込んで双剣の3連撃を叩き込んだ。
「ああああああああああ!!」という悲鳴が上がり、彼の背中から赤い氷が突き出る。
こいつ……分身体じゃねぇ!
これは好機!!
「やめろ……俺を殺したら……」
それが彼の最期の言葉となった。
振り返ったその胸へ、俺は双剣を深々と突き立てた。
「ゴフッ……」という声を上げ、彼の瞳から生気が消える。
南無三……!!
転生者達は一瞬で及び腰になった。
シャウト先輩は逃げ惑う邪神教徒達へ次々と電撃を叩き込み、愛ちゃんは転生者の一人と激しい斬りあいを展開する。
サラナは逃げようとする赤子を泡で攻撃していたが、妨害に入った死んだ魚の目の女と魔法の撃ち合いを始めた。
その隙にも、レッサーダゴンの元へテレポートしたミコトが、激しい毒斬撃を叩き込んでいる。
皆が手分けして解放してくれたのだろう。
既に村人は皆広間から逃げていた。
今この場に、大陸に異変を起こしている元凶が複数いる。
ここで俺達が全員を屠れば、多分大体解決だ!
「メガ・冷凍……」
俺は今こそ使い時だと思い、双剣を十字に構える。
狙う先には、戦意を喪失してうずくまる転生者×3。
光線が彼らに向けて放たれた瞬間、「ドーン!!」という音と共に、大広間が激しく揺れた。
十字の光線は狙いを大幅に逸れ、床を凍結させる。
何だ!?
「チィ! 全員一旦引け! ドラゴンだ!!」
先輩が電撃鞭で俺達を一気に引き戻す。
大広間の床をぶち抜いて現れたのは、黄金色の鱗を纏った、蛇のようなドラゴンだった。
ドラゴンは赤子を守るように俺達の前に立ちはだかり、激しく咆哮する。
そうか……あれが……!
呼び声ってわけか……!!