第13話:復帰クエスト! 嘆きのコーガと赤い凶星
「本当かよ~? 運よく古傷跡に刃が当たったとかじゃねぇだろうな?」
「本当ですって! びっくりしましたもん!」
「雄一さんが私を守るために奇跡の超パワーを発揮したんスよん♡ やーん惚れ直しちゃうっスよん♡」
先輩が指名依頼書をピラピラと捲りながら笑う。
まあそりゃ、半信半疑にもなるだろう。
スキル変化も何も起きていなかったのだから。
ただ、先輩のこの感じ、笑ってこそいるものの、馬鹿にしてる風ではない。
また俺がよく分からないことを起こしたことを面白がっているようだ。
「まあ体質調べても何もなかったし、本当に愛の力とかかもしれないね。ロマンあるぅ」
「羨ましいですー! 私もそういう力欲しいですー!」
「あれ? それじゃあこれとか試してみる? お母さんが開発中の、何らかの魔物の力をランダムで得られるマジカルドラッグなんだけど、人体じっけ……被験者がいなくてさ」
「う……うう……飲み……やめときます!」
「あれぇ~。残念」
臨時メンバーのサラナを加えた我らがシャウトパーティ。
ちょっと癖があるサラナだが、もう結構打ち解けている様子だ。
「さーてと! 飯も食ったし、出発すっか!」
そう言って先輩が席を立つと、俺達もそれに倣った。
今日は久々の5人パーティのクエストだ。
俺の体調を考慮してか、ギルド本部が送りつけて来た指名依頼は以前のような超高難度ではなかった。
なんでも、中型獣脚魔物であるブラッドレックスの異常行動個体として知られていた異名持ち「嘆きのコーガ」が最近、本来の営巣地から離れて徘徊を始めたので、その調査を行ってほしいというのだ。
この個体はこの種としては驚異的な高齢のメスで、本来仲間であるはずの同種だけを狙って食い殺しては、悲しげな鳴き声を上げるという、気味の悪い習性を持っているという。
人を見ても全く襲ってこないことから、討伐対象とはされていないのだが、異常行動個体の異常行動というのは、周辺の住民からすれば恐ろしいことだろう。
必要とあらば、現場判断で討伐するように、とも書かれている。
魔物だし、さっさと討伐して解決すればいいのでは……と言ってもいられない。
この大陸全土に何かが起きている今、何らかの変化があれば、まずは原因究明を行うべきだろう。
それに、コーガは敵だけを殺す敵なので、討伐するよりも泳がせた方が人類には得という声もあるらしい。
それはそれで大丈夫なのか? というところではあるが……。
獣脚魔物の異名持ちとなれば、冷凍ビームを使わざるを得ない状況もあるだろう。
魔力補充のイエローポーションを多めに持っておかないとな。
などと考えながらクエスト出発口すぐ傍のギルド売店を覗いていると、マーゲイが「おーいユウイチィ!」と、小走りでやって来た。
またしょうもないナンパ自慢か下ネタでも言ってくるのかと思いきや、なにやら珍しく真剣な表情だ。
どうしたのかと聞けば、俺に耳打ちしてきた。
「信用の置けない情報筋からにゃけど……その地域、お前が見たっていう赤い凶星が流れるのが目撃されたって聞くにゃ」
「えぇ!? そういうのはギルドに報告しろよ!」
「声が大きいにゃ! だから言ってるにゃ。信用の置けない……まあその地元のゴロツキ連中の言ってることにゃ。 そんなの報告して嘘だったら僕らパーティの信用に関わるにゃ。本当はもっとしっかり調査しなきゃいけないけど、時間が無さ過ぎたにゃ。ごめんにゃ」
「なるほどね……。まあ、そこは俺達がちゃんと調査してくるよ。気遣いありがとな」
「そういう真偽不明の、それでいてある程度内容が似通った情報がゴロツキ連中の間に出回る時は大体、マジの本当か、もしくはその情報の裏で何かを企んでる奴が居るかのどっちかだにゃ。お前らにゃら大丈夫にゃろうけど、くれぐれも気を付けるにゃ」
そう言ってマーゲイは俺の胸元に彼の冒険者カードをトンと置いてきた。
俺もそれに応え、俺のカードをかざす。
「また会おうにゃ」
「ああ、また会おう」
彼から伝わってくる漠然とした不安感に、俺は愛ちゃんが見たという夢のことを思い出していた。
俺は愛ちゃんに焼き殺されて、先輩とコトワリさんは連れ去られ、ミコトもまた愛ちゃんの手によって……。
いや、大丈夫だ。
今回はパーティ構成が違う……。
そもそもアレはホッグの類が見せていた偽りの悪夢……。
だといいんだけど……。
悶々と逡巡していた俺は「オイ! ユウイチ! 何やってんだ早く行くぞ!」という声に急かされ、皆の方へと走った。
悪いこと……。
起きませんように!!