第12話:恐怖の凍結猛毒カップル爆誕
「ふんっ!! 超凍結斬!!」
俺の双剣がリトルオークの亜種・ケイブリトルオークの胸に深々と「キ」の字の裂創を刻む。
その傷口が凍り付き、そこから発せられる冷気が敵の四肢や頭部の温度を急激に奪う。
敵はフラフラとよろめきながら逃げ出そうとするが、やがて力尽き、深い坑道へ真っ逆さまに落下していった。
俺が新たに会得した超凍結攻撃は、初撃が致命傷にならずとも、そこから広がっていく凍結部が体温を奪い、凄い勢いで傷口から肉体を壊死させていく。
たとえ致命傷を負わずとも、即座に適切な治療を受けなければ、死を免れることは出来ない。
俺は再生した肉体の鈍りを落とすように、手足をわざと大ぶりで動かし、さらに群がるケイブリトルオーク達をバッサバッサと薙ぎ払っていく。
うんうん! 体の感覚がだいぶ戻って来た!
修理された双剣の馴染みもいい感じだ!
エラマンダリアスの毒酸で錆び錆びになって発見されたコイツだが、流石はインフィート鋼。
妖龍の部位素材を使った特殊な鍛冶で強化修理され、より魔法との親和性が上がって復活してくれた。
初めはその出力制御に戸惑ったが、この感じなら十分実戦レベルで使いこなせていると言えるだろう。
今、俺は腐り溶けていた体のリハビリを兼ねて、ミコト、サラナを伴って難易度中程度のクエストを回している。
そしてここは大陸中央の爆炎石坑道。
ケイブオーク、ケイブリトルオークの群れに占拠されて困っているとのことなので、引き受けさせてもらった。
こうやってクエストを回し始めて気がついたのが、感覚の狂いだ。
見た目だけならほぼ完全に元通りになってはいるが、体を動かす感覚はかなり狂っていた。
まあ言われてみればそりゃそうだ。
20年以上馴染んでいた筋肉に比べたら、どうしても差異は出てくる。
そしてリハビリと同時に、俺は初心に戻って自らの戦法を見直している。
エラマンダリアスとの戦いで久々に体感した、自分の絶対的な魔力量の少なさ。
俺は冷凍ビームを体得してから決め技として多用していたが、本来それは、魔力切れと隣り合わせの大技だ。
特に、一気に魔力を消費するメガ・冷凍ビームはまさしく“奥義”であるべきで、それでしか倒せない相手以外に対してみだりに使うものではないはずだ。
ということで、俺は奇襲斬撃からの永続凍結スリップダメージを中心に据えた、超イヤな戦法に重きを置き、自分でなくてはならない状況下でのみ、冷凍ビームを使うことにした。
初めは以前ほど盛大に敵を屠れない点で若干の不安を覚えたが、いざ体が慣れてくると、これまで以上に効率よく敵を倒せることに気がついたのだ。
思えば、生物は重要な器官の体組織が凍結、壊死すれば無力化され、やがては死に至る。
超強力な魔法で完全凍結まで至らしめる必要は薄いのだ。
これで俺は回避タンクに徹し、パーティを守っていく。
異変が収まるまでは釣りも封印!
もう自分のせいであんな大事にするのは嫌だからな……。
「おっとぉ! PEバインド!」
槍や毒玉を持って突っ込んできたリトルオーク数体の足を蜘蛛の巣型に召喚した極太PEラインで拘束して全員を転倒させ、その背面に凍結氷手裏剣を撃ち込んだ。
ま! 緊急避難的措置として釣具召喚は有効活用させてもらうがね!!!
「ふんっス!! せやっス!!」
振り向けば、ミコトが大剣でオークの亜種・ケイブオークを次々に切り捨てていた。
紫色のラインが入った彼女の剣が閃くたび、赤い血に混じって濃紫色の魔力がザっと宙に舞う。
屈強な肉体を持つケイブオークが、ほんの一閃を撃ち込まれただけで片膝をつき、やがて痙攣を起こしながら倒れ伏していく。
そう、毒だ。
それもただの毒ではない。
エラマンダリアスの毒、龍毒である。
妖龍討伐の報酬として渡されたエラマンダリアスの龍玉結晶で大剣にエレメンタル強化を行い、彼女は龍毒使いとなったのだ。
龍毒を含む毒武器は、扱いを間違えれば所有者の肉体にも悪影響を及ぼすとされているが、妖龍琥珀の中で龍毒への耐性を獲得した彼女は、ノーリスクで毒武器を扱えるのである。
いや……。
何シレッと獲得しちゃってんの……?
彼女曰く、「最初は体が腐って死ぬかと思ったっスけど、なんか我慢してたら平気になったっス」とのことだ。
天使の体が成し得た奇跡なのか、それとも彼女が凄まじいのか……。
まあ、結果として、パーティの戦力は間違いなく上がったので、良いことには違いない。
「いや~。ドン引きするくらいえげつない戦いっぷりだね君たちは~」
ヒーラー兼リハビリ担当として同行してくれているサラナが、ウッキウキの声で言う。
当の彼女も、神経毒や麻痺毒、火傷バブルに窒息バブルなどのえげつない薬学魔法を駆使し、生き残った個体群を的確に始末している。
我ながらこのトリオの相手はしたくない……。
「しかしショックだなぁ~。これだけかかってようやく体が本調子に近づいてきただけだなんて……。私は封印を解いたらもう完全再生、完全復活くらいのイメージで処置したのに」
泡を吹いて痙攣しているリトルオークをステッキソードでザクリと一刺ししながら、サラナのトーンが少し下がる。
どうやら彼女は俺の体の再生具合の仕上がりに不満らしい。
凄まじいことを成し遂げてるのに、相変わらず研鑽を絶やさない人だ……。
「雄一さーん! 大ボスっぽいの討ち取ったっスよ~!」
ケイブオークの亡骸の山を築いていたミコトが、えらくゴテゴテした格好をした大型個体の上で仁王立ちしながら叫んだ。
す……すげぇ……。
と、俺がミコトの猛々しくも美しい姿に見とれていると、刹那、倒れ伏す大ボスオークの片腕が動き、大斧の刀身部をミコト目がけて振りかぶった。
やばい! まだ生きてた!
俺は咄嗟にいくつかの選択肢の中から一つを選び抜き、ミコトの元へテレポートし、敵の腕目がけて渾身の凍結斬りを撃ち込んだ。
スパアアアアアアン!!
坑道に快音が響いた。
「雄一……さん?」
ミコトが驚いた顔を俺に向けてきた。
それもそうだろう。
俺も驚いている。
関節を凍結させて動きを止めようとしたはずが、オークの太い剛腕を斬り飛ばしたのだから。
「なんだ……? 今の力は……?」
俺の双剣のグリップ部には、俺の手の形に握り跡が残り、頑丈な獣皮がバックリと裂けている。
そして俺の指に光る魔力ゲージリングが真っ白に輝き、やがて元の青、薄青色に戻った。