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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
最終章:釣具召喚チートで異世界を救う
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第6話:腐蝕妖龍




 腐蝕妖龍「エラマンダリアス」

 吐く液は大地を腐敗させ、体から流れ出る粘液は毒沼を生む。

 その毒沼に浸かった生物は、生きながらに肉体が腐食し、食料を求めて徘徊する所謂ゾンビと化す。


 腐肉のような皮膜が波打つ翼は、その巨体を音もなく宙に浮かべ、顔の半分以上を占める巨大な口は、自らが腐食させた全てを飲み込む。

 そして、逆鱗付近に存在するという「エラマンダ腺」から生成される特殊な液体は、浴びた対象を琥珀中の虫の如く固めてしまい、封印状態に陥れてしまうという。


 強力な龍のマナによって形成されたその結晶は、如何なる物理攻撃も、如何なる魔法攻撃も妨げてしまい、封じられた者は生きながらにして体が腐る感覚を永遠に受け続けるのだという。


 ミコトは「妖龍琥珀」と呼ばれるそのおぞましい結晶に囚われてしまったのだ。

 龍の縄張りを荒した者の末路を示す見せしめとして……。



「じゃ……じゃあ……ミコト……は……!?」


「…………っ!」


「うわああああああああん!! ミコト先輩! 目を開けてください―――! こんな結晶……! はっ! はっ!」



 愛ちゃんが泣き叫びながら、ミコトの眠る妖龍琥珀を剣で叩き続ける。

 だが、その表面には傷一つ入らない。

 俺もそうしたい……。

 そうしたいのだが……。

 既に俺の両手両足は赤黒く腫れ上がり、声は枯れ、魔力も尽き、動くこともままならない状態で担架に固定されている。


 俺は封印されたミコトを助けるべく、恐らく早朝から夕刻まで、延々と結晶を叩いていたのだ。

 そして、異変を察知して探しに来てくれた先輩が俺達を発見し、ギルドの皆の力を借りて、ミコトと俺を収容してくれたのだった。



「エラマンダリアス……。先の人魔大戦では一夜にしてデイス規模の都市を丸ごと滅ぼしたと言われています……。まさかこんな事態が起きているなんて……」



 受付のぶりっ子お姉さんが真っ青になり、ワナワナと震えている。

 三白眼お姉さんの方は、先ほどから延々と龍に関する書籍を見漁り、ミコトを開放する手段を探ってくれていた。



「ともかく、都ギルドには事態を伝えておいた。事によっては帝国正規軍の出動を扇ぐことになるかもしれない……」



 ギルドマスターも額に汗を浮かべ、窓からギルドバードが飛来するであろう、東の空をしきりに見上げている。



「ミコト……」



 俺は激痛の走る腕を結晶の方へ向け、愛する天使の名を呼ぶ。

 ほんの少し前まで、俺のもとで笑っていたミコトは……。

 怪しく光る結晶体の中で苦し気な表情を浮かべている。



「先……輩……」



 俺は先輩の方へ手を伸ばす。

 先輩は、怒りや、悲しみや、焦りから激しく貧乏ゆすりをしながら龍に関する古文書を読み漁っていた。



「なんだよ……」


「先輩……」


「魔女の……秘薬を……ください……」



 先輩に没収されていたあの秘薬。

 寿命を著しく縮める代わりに、鬼神の如き強さを得るという、大地の魔女の秘薬。

 あの力を借りれば……。

 もしかしたら……。



「ダメだ」


「どう……して……」


「分かんだろ。自分のせいでお前が命削ったなんて知ったら、ミコトはどう思う」


「でも……」


「でもじゃねぇ! アタシもよっぽど迷ってんだ! だけどな雄一。まずは人としての限界を尽くせ。人類の力は集積された“知”だ。試せる解決策は全て試して、コイツに頼るのはそれからだ」



 そう言って先輩は秘薬をポーチの奥深くに押し込んだ。

 そして、いつになく穏やかな口調で、ミコトと俺の周りに集まっていた人々を移動させ、ミコトが“見せしめ”にされぬよう、俺達のいる一角を衝立で仕切ってくれた。


 俺はボロボロの体で、ミコトに相対する。

 ミコト……。

 俺が不甲斐ないばかりに……。

 くっ……!

 俺は悲しみと悔しさと、その他あらゆる感情が入り混じった涙を流した。




////////////////////




『欲しいのか? 力が』



 どれほどの時間が経ったのだろう。

 疲労と魔力の枯渇で、意識が朦朧としていた俺の耳に、奇妙な声が聞こえてきた。



『人の子如きの力では、貴様の望みは叶わぬ。だが欲すのならば、その封印を破壊しうる力を与えてやろう。だが、その代わり、お前の肉体と魂を我に差し出せ』


「力は……ほしい……」


『ならば言え。肉体と魂を捧げると! この世界へ、我が力を及ぼす礎となると!』


「力は……ほしい……が……俺はまず……人として出来ることを……尽くしたい……」


『てめぇ何寝言言ってやが……』


「先輩!! 見つかりました!! 妖龍琥珀の破壊方法が!!!」



 奇妙な声をかき消すかのように、愛ちゃんが衝立を押しのけて入ってきた。

 目の下には大きな隈が出来ている。

 彼女の背後にある大窓からは、朝日が眩い輝きを放っていた。


 そして、その光に照らされた本部の大広間では、冒険者ギルドの面々から、他ギルドの関係者、そして、屋台街の人たちまでもが、辺り一面に散乱した資料書籍と格闘していた。



「ユウイチくん! 都ギルドからの返答だ! 皇帝陛下と法王様より腐蝕妖龍討伐の勅命が下って、皇立騎士団の第二大隊を向かわせてくれるらしい! 無論、ミコトちゃんの救命支援もしてくれるそうだ!」



 みん……な……。

 俺は言葉にならない感情に身を震わせながら、せめて感謝の一言をと口を開いたのだが、緊張の糸が切れた俺は、安堵するままに意識を失った。

 「チィ」と、不快な声がどこからともなく聞こえたような気がした。


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