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第4話:コンガーイール南端岬の朝マヅメトップゲーム




 朝マヅメの岬はナブラ祭りだ。

 至る所で巨大な魚が跳ねまわり、水面が雨のようにざわめき、鳥山が生まれ、海鳥が次々と海中にダイブしていく。

 ナブラというのは元々漁師用語で、小魚の群れを追って大型魚が跳ねまわる現象のことを言う。

 鳥山は、海鳥が小魚の群れの上空で山のように群れることである。


 朝焼けに染まる鳥山目がけて、GT用ポッパーをフルキャストする。

 二度、三度とトゥイッチを入れると、すぐに「グン!」と衝撃が来た。



「よっしゃ! ヒット!」



 腰を落とし、引きに耐える。

 ジ――――!とドラグは軽快に糸を吐き出していく。

 デカい!

 ゆっくりとリールを巻き、魚を寄せる。

 しかし相手もなかなかのタフネス。

 少し寄せては突っ走り、また寄せては突っ走っていく。

 激しいファイトで噴き出た汗を、朝の爽やかな海風が拭い去る。

 初夏の朝マヅメはこれが最高だ。

 たまんねぇ!


 ゆっくりと寄ってくる魚影は、朝日を浴びて青く輝いている。

 ギャフを打ち、力づくで引き上げた魚体は、ロウニンアジのようなマッシブボディに、この夏の夜空のように碧く、ラメを散りばめたような輝きを纏った大型魚だった。

 測量すれば、そのサイズ1.7m。

 朝の一発目から幸先のいい釣果だ。

 今日はいい一日になりそうだ。


 収まるどころか激しさを増すナブラ目がけ、2投目を撃ち込む。

 またしてもすぐにアタリがあり、強い衝撃と共にドラグが走り出した。

 先ほどに比べるとだいぶ引きが弱い。

 ロッドのパワーに任せて強引に寄せると、今度は金色の魚影が見えた。

 おお! シイラっぽい魚だ!

 磯の際まで寄せ、ギャフを撃ち込んで取り込む。

 こちらは1m程度で、先ほどの魚に比べるとだいぶ小さい。

 魚体がスレンダーなのもその印象を強めている。


 その後もほぼ一投一匹のペースで釣れ続ける大型魚たち。

 昨日の深海魚の時も思ったが、スレてない魚だらけの海域ってすげぇな。

 釣れすぎて一匹の有難みがねぇ……。


 5匹目の魚を持ち上げ、クーラーボックスに向かおうとすると、一瞬眩暈を覚えた。

 いかんいかん……そろそろ寝ないと疲れが出てる……。

 背後で荒ぶっているナブラを放置して寝るのは後ろめたいが、肝心のクエストに支障をきたすわけにもいくまい。

 テントのすぐ横に置かれたクーラーボックスに魚を入れ、テントに潜り込む。

 ミコトとシャウト先輩の間にちょうどいい隙間があったので、そこで横になり、目を瞑った。




////////////////////




「おーい。ユウイチ。そろそろ起きろー」



 シャウト先輩の声に目を覚ますと、既に日は傾き始めていた。

 うーん……体内時計狂うなコレ……。



「夕飯作るっスよ。雄一さんあのでっかいやつ捌いて欲しいっス。私じゃちょっと重すぎて無理っス……」


「よし、任せろ。キャンプ道具召喚!」



 出来るだけデカいキャンプテーブルを召喚し、その上にアジを乗せる。

 同じく極力デカいナイフを召喚して、捌きにかかる。

 背骨を断ち切れる気がしないので、5枚下ろしだ。

 鱗を削り、腹を裂く。

 すると、内臓がドロリと溢れ出てきた。

 うおっ! 凄い量!


 特にその中でも巨大なのは胃袋だ。

 ちょっと裂いてみると、出るわ出るわ。

 凄い量の魚が詰まっている。



「ん? こいつらは……」



 その中には、昨日釣った深海魚が何種か混じっていたのだ。

 しかも、あの真っ黒いチョウチンアンコウらしき塊もいる。

 それも結構な数だ。

 ハマダイとかタラなんかは浅海でも生きられそうなもんだが……あの体の性質を見るにこいつはそう長く生きられないだろう……。

 それがなんでこんなに多く……?

 このアジ深海も行くのか?



「おい! お前内臓なんかまじまじ見てねぇで捌け! 日が暮れんぞ!」



 かまどで火を起こしていたシャウト先輩に怒鳴られてしまった……。

 ちょっと気になるが、今は捨ておこう。



「フライにするんで、一口サイズでお願いするっス」



 ミコトの指示に従い、5枚におろした身を切り分けていく。

 白く、脂をたっぷり蓄えた身は、見るからに旨そうだ。

 その切り身にミコトが小麦粉、パン粉と香辛料をまぶす。

 シャウト先輩が温めてくれていた油にそれを落とすと「ジュワッ」といういい音とともに、香ばしい匂いが立ち込めた。

 火が通ったのを確認すると、ミコトはそれを手早く網に打ち上げ、油を切った後、俺が召喚した金属皿の上に盛り付ける。



「こいつは旨そうじゃねぇか!」



 シャウト先輩が歓声を上げた。

 先輩は「先に頂くぜ」とフォークを差し、口に放り込んだ。

 熱いのか、ホフホフと頬張り、ゆっくりと咀嚼している。



「うんめぇ!! 噂には聞いてたが、お前らいいもん食ってんなぁ! 昨日のアレも相当だったが、調理器具揃ってたらこんな手の込んだもの作れるのか!」



 山のように盛り付けられたフライを次々口に放り込むシャウト先輩。

 俺達も慌ててフライを食べる。

 うお! これは旨い!

 サクサクとした衣の下には、ホクホクジューシーでほんのり甘みのある身が入っている。

ピリリと辛いスパイスも、そのほのかな甘みとよく合う。



「中華料理のカツオフライをイメージしてみたんすけど、なかなかいい感じっスね!」



 ミコトがニコニコ顔でこちらを見てくる。

 「旨いぞ。流石だな」と頭を撫でると、「えへへへへ~」と可愛らしく微笑んだ。



「おーいこのバカ夫婦。人前でいちゃついてんじゃねぇぞ~」



 先輩に指摘され、俺達は思わず頬を赤らめた。


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