第4話:スピード解決? 腐った森の飛竜
不愉快だ……。
「先輩! そっちに3体と5匹!」
不愉快だ……!
「雄一さん! 右の大物は私がやっつけるっス! もう一体お願いっス!」
不愉快だ……!!!
「ユウイチ!! ボサっとしてんじゃねぇ! サイはアタシがヤるからテメェは魚をヤれ!!」
全くもって不愉快だ!!
「メガ冷凍ビーム!!!」
俺の双剣から放たれた十字の光線が、巨大なゾンビの全身を瞬く間に凍結させていく。
ドロアンコウ型ゾンビを……だ。
凍結した魚体は3m級の超大型ドロアンコウ。
こんな個体が潜んでいたなんて……!
俺が……。
俺が釣る前に……。
生態系ごと壊滅状態に陥れるとは……!!
「絶対に許さんぞ!! ゾンビワイバーン!!」
俺は叫びながら、冷凍ビームの連撃で這い寄ってくるゾンビドロアンコウを屠っていく。
内部に込められた魔の魂を破壊しなければ倒せないアンデッドとは異なり、ゾンビは肉体へのダメージで普通に倒すことが可能だ。
特に、体組織を効率よく破壊する俺の冷凍技と先輩の電気技、愛ちゃんの火炎技は特効となる。
無論、聖属性による浄化も有効なため、ミコトの斬撃も効果覿面だ。
なるほど……俺達はゾンビ魔物の討伐にはうってつけのパーティってわけか……。
ギルドもいい采配してくれる……!!
おかげで俺は死ぬほど不愉快な思いをしてるがなぁ!!!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「お疲れさまっス……。ポーション飲むっス」
「ああ……ありがとう……」
森に突入して小一時間。
俺達はこんな調子で群がってくるゾンビ達を始末していた。
森の中はもう無茶苦茶だ。
木は朽ち、大地は腐敗した苔でドロドロ。
様々な生物の腐乱死体が散らばり、その中からゾンビと化した個体が襲い掛かってくる。
水場は毒沼と化し、俺の愛したドロアンコウ達は死骸かゾンビでしか出てこない。
覚悟はしていたが、目の当たりにすると悲しみと怒りが込み上げてくる。
しかし、俺は二つ名持ちの冒険者。
感情的になってばかりではいられない。
調査と報告も大切な仕事だ。
俺は毒沼に溜まった液体、ドロドロになった苔などを採取用フラスコに詰め、ギルドバードに結わえて飛ばす。
この毒に関する研究が進めば、第二、第三の被害を抑える、もしくは防ぐことが出来るだろう。
「絶対仇は取ってやるからな……」
俺は凍結して崩れていく大ドロアンコウに手を合わせ、森の奥へ向かう先輩の後を追った。
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「いたぜ……ワイバーン」
先輩がポツリと呟いた。
その指さす先には、小型飛竜:グラスワイバーンがぎこちない動きで地を這っていた。
あれが依頼文にあったゾンビワイバーンか……。
俺は少し胸を撫でおろした。
ゾンビ~とは、特定の種を指すものではなく、通常の種が何らかの理由でゾンビ化した状態のことを言うのだが、グラスワイバーンは、飛竜の中ではかなり弱い種である。
ジェットワイバーンやレッドワイバーンのような強力種が来たらどうしようと思っていたのだが、グラスワイバーンならどうとでもなる。
感知スキルを全開で働かせても、眼前のワイバーンより大きい反応もない。
つまりアレを倒せばクエスト達成というわけだ。
俺は怒りに任せて攻撃を仕掛けたくなる衝動を抑え、先輩の指示を待った。
先輩はそんな俺の感情を察してか、俺の肩をトンと叩き「アタシらであいつを追い詰めるから、お前が仕留めろ」という指示をくれた。
合点承知……!
「オメーら、見た目はあんなんでも、森一つ枯らした奴だ。油断すんなよ」
「はい! ベストを尽くします!」
「お任せっス!」
愛ちゃんとミコトが先輩の指示通りに展開していく。
全ては俺の仇討ちのため……。
これは責任重大だが……この森を愛した釣り人として、決着を付けねばなるまい。
「いいか、行くぜ……! エレキフラッシュ!!」
先輩が牽制の閃光球を放ち、森の弔い合戦の幕が切って落とされた。
閃光で怯んだ敵の翼にミコトの斬撃が叩き込まれ、腐敗した皮膚に愛ちゃんの火炎投げナイフが次々と突き刺さり……。
ワイバーンはガクリと傾いたかと思うと、そのまま焼け死んだ……。
………。
……。
あれ……?
愛ちゃんの方を見ると、愛ちゃんもキョトンとしながら「えーっと……私何かやらかしました……?」とか言っている。
いや……。
全然アッパレではあるんだけど……。
その……もっとこう情緒的な部分で……。
「あー……えー……。まあ何だ……帰るか?」
先輩も気まずそうに呟き、依頼内容完遂のギルドバードを飛ばした。
まあうん……これにて一件落着……で良いんだよな……?
俺は念のため感知スキルを再び全力で働かせたが、ワイバーンのそれを超える反応はもう残っておらず、森は悲しいほどの静寂を保っていた。