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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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エピローグ:暗雲の冬




 浮遊島嶼群騒動、これにて解決!

 とはいかなかった。

 あのザラタードケロンと思われる浮遊島嶼群は、その後、幾度も大陸各地の沖合で目撃され続けた。

 まるで、大陸を見張っているかのように……。


 各地からその調査を求める依頼が届いたが、大陸中央ギルド本部はその全てに「調査済みで無害なので問題ない」と応え、各地方の冒険者ギルド本部にも帝国議会や法王庁を通じて「調査禁止」のお触れを出した。

 まあ、よほど接岸しない限りはオークの上陸はないだろうし、下手に上陸してエルフといざこざを起こされても困るというものだろうが、ギルドが政府中枢まで使って禁止を明言するのは珍しい。

 というのも、これには切実な事情があるのだ……。




////////////////////




「冷凍ビーム!!」



 俺目がけて飛来したレッドワイバーンの片翼が凍り付き、大きくバランスを崩して墜落した。

 その直上にテレポートしたミコトが、その背目がけ大剣を叩き込む。

 ワイバーンは「グゴォォォォォ!!」という断末魔の悲鳴を上げた後、ぐったりと横たわり、動かなくなった。


 よし!

 討伐数1.5!



「いやああああああ!! 助けてえええ!!」



 悲鳴に振り返ると、愛ちゃんが地を這う小型飛竜、グラスワイバーンに追い回されていた。

 ワイバーンは大声を上げて逃げ惑う愛ちゃんを右へ、左へ追い込み、ついにその体を大顎に捉えた。

 あ……愛ちゃ―――ん!!

 ……なんつって。


 咥えられた愛ちゃんの体が発火し、ワイバーンの頭部を激しく燃え上がらせる。

 影分身を発展させた彼女の新魔法、「炎分身」だ。

 頭や口内といった生物の急所を焼かれたワイバーンは、フラフラと後退する。



「やああああああ!! フレイムソード!」



 すかさず愛ちゃんの本体が、燃え上がる長剣を持って突進し、その首筋を大きく斬り払った。

 グラスワイバーンはしばらくのたうち回り、愛ちゃんを襲ったが、すぐに激しい流血によって力尽きる。

 「先輩! 私頑張りましたよ!」と、叫ぶ愛ちゃん目がけて急降下してくるレッドワイバーンを、シャウト先輩の放った雷光が貫き、叩き落とした。



「ボサっとしてんじゃねぇ!」



 そう叫ぶ先輩は、既に2体のレッドワイバーンと、5体のグラスワイバーンを屠っている。

 今もまさに、ひと際巨大な異名持ちのレッドワイバーン「業火のガリアス」と一進一退の攻防を繰り広げていた。


 俺は先輩を援護すべく、敵の翼目がけて氷手裏剣と冷凍ビームを放つ。

 敵は火山のように赤熱した全身から熱波を放ち、氷手裏剣を瞬く間に溶解し、光線を相殺して見せた。

 そこは流石の異名持ちの特異個体と言ったところか……!


 だが、俺もそこで負けてはいられない。

 超高熱には超低温だ!

 俺は双剣を十字に組み、メガ・冷凍ビームを放つ。


 再び放たれた熱波に冷凍ビームがぶつかり、「ジュウウウウウ!」という凄まじい轟音と共に、強烈な霧が発生した。

 敵は翼を激しく羽ばたかせ、熱風を吹きつかせてくるが、俺も負けじと全身全霊をかけて冷凍ビームを放ち続ける。


 そしてついに、その高熱を貫いて、光線が翼の付け根にある赤熱箇所に命中した。

 急激な温度変化により、その部分が固まった溶岩のように硬化する。

 その一撃で、ガリアスの動きが著しく鈍化した。

 先輩今です!



「やるじゃねぇか! グラン・サンダーボール!!」



 俺の奮闘中に魔力をチャージしていた先輩が、雷の光球を敵めがけて打ち込んだ。

 ガリアスは大きくのけ反り、体を覆っていた燃える溶岩の鎧が剥がれ落ちる。

 その下から、胸に煌々と輝く赤い球体が露になった。

 あれこそが、ガリアスを特異個体たらしめている、火竜の宝玉だ。



「そこですね!!」



 愛ちゃんが召喚したトマホークを宝玉目がけて投げつけた。

 それは見事に命中し、真っ二つに粉砕、ガリアスの全身を覆っていた高熱が吹き払われる。



「いくっスよぉおおおおお!! エンジェル・大切断っス!!」



 敵の顎下にテレポートしたミコトが、大剣のフルスイングをぶちかまし、ガリアスの巨大な頭部をズバッと両断する。

 さしもの特異飛竜も、頭を斬られてしまってはひとたまりもなく、巨体をグラリと傾けると、そのままドスンと倒れ伏し、息絶えた。



「ふぅ……。ったく……最近魔物湧きすぎじゃねぇか?」



 先輩がガリアスの宝玉を抉り取りながら愚痴をこぼす。

 そう。

 魔物が湧き過ぎなのだ。


 各地の冒険者ギルドは当然のこと、皇立騎士団や正規軍も少数ながら動員され、大陸各地で魔物との戦いに身を投じている。

 それ故、安全性が保障されているザラタードケロンに対して冒険者や軍のリソースを裂くわけにはいかないのだ。


 各地ギルドの奮闘により、魔物被害は最小限に食い止められてはいるものの、それでも犠牲は出る。

 特に、大陸西方のある村で起きた、住民全滅事件は記憶に新しい。

 大陸西方の、ある小さな村で、一夜にして老若男女、家畜に至るまで全てが魔物に食い殺されたのだ。

 恐ろしくも奇怪なことに、魔物に食い荒らされた遺体は全てミイラのようにカラカラになっていて、村の辺りの森は灰色に枯れ果てていたという。


 大陸西方と聞いてユーリくんの村やため池の村を心配したが、俺が行ったことのある村ではなかった。

 ただ確か……エドワーズだか、レフィーナだかがその村の名前を口にしていたような……。



「これもあのドラゴンが言ってた“呼び声”のせいなのか?」



 先輩が汗を拭い、イエローポーションを飲みながら尋ねてくる。

 いや……。

 どうでしょう……?

 色々と思い当たる不穏な話が多すぎて、どれのせいなのかサッパリ……。


 俺もイエローポーションで魔力を回復させながら、空を見上げた。

 灰色の空にはハラハラと雪が舞い始めている。



「冬には魔物の動きが鈍る。今のうちに狩れるだけ狩っておくぞ」



 先輩はワイバーンの素材を剝ぎ取り終えると、討伐完了報告のギルドバードを飛ばした。

 間も無く商業ギルドの高価値魔物回収キャラバンと、俺達の迎えの飛行クジラ便がやって来ることだろう。


 人魔大戦の予兆ともされる成体龍の異常行動。

 暗躍しているレッサーダゴンと邪悪な転生者達。

 龍が語った「呼び声」の謎。

 魔女が語った愛ちゃんに降りかかる「地獄の苦しみ」

 そして、指名付きの魔女会議が開かれた翌年に起きるという大災厄。


 不安と不満が折り重なりすぎた俺の心を反映するかのように、空の暗雲は、ますます重く低く垂れこめていた。


 ………。

 ……。

 最近、釣り出来てないなぁ……。


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