第30話:大討伐!浮遊島嶼群現る! ダンジョン突入!
「行ったか?」
「ええ。全く警戒してない様子です」
俺と先輩は、徘徊するソルジャーオークの目を躱しながら、地図に記されたダンジョンの入口へと向かう。
ソルジャーオーク……。
ゴツい重装甲に身を包んだ、厳ついオークたちだ。
その装備は、人類やドワーフの職人が作り出したものに比べると、ボコボコで不格好である。
だが、獣の皮や牙、角、得体のしれない骨などで彩られたそれは、精度以上の強烈な威圧感を放っていた。
中にはエルフのそれと思しき全身骨格を複数個鎧に縫いつけた者もおり、そのビジュアルだけで、見つかればおよそ穏便に済まないことがよく分かる。
俺は先輩をお姫様抱っこして僅かに浮遊し、足跡を残さぬよう、音をたてぬよう、敵の警戒の網をかいくぐっていく。
最近エルフが大噴気孔の頂を目指して来るためか、やたら警備が厳重だ。
言葉さえちゃんと通じれば、俺達の行動がお前たちの為にもなると伝えられるのだろうが……。
いや……。
言葉通じても多分殺しにかかってくるわあいつら……。
「大丈夫かユウイチ。魔力消費がしんどくねぇか?」
「全然大丈夫です。なんか先輩軽いんで」
「……なんかって何だよ」
「いや……本当に何か軽いんすよ。魔女会議の時抱えて飛んだ時は結構重く感じたんですが……。俺も強くなったんですかねぇアハハ」
「オメー後で覚えとけよ……」
ダンジョンの入口は目前。
俺達は丁度いい岩場に身を潜め、俺達はごく短い時間で食事を取る。
携帯保存食がクソマズいが、調合ポーションと合わせて無理やり流し込んだ。
指輪を見れば、未だ俺の魔力は緑色のまま。
いや……心なしか濃くなってるような……。
「ねえ先輩これ……」と言いかけて、俺は咄嗟に先輩の腕を掴み、目線を送った。
脳内に響く複数の感知音。
このピークはソルジャーオーク……それも、高い警戒状態にある個体群だ。
先輩も俺の動きで何が起きたかを理解し、身構える。
ここまで来たら最悪強行突破でも……。
と、俺は双剣を抜こうとしたが、今度は先輩が俺の腕を掴んできた。
動くなとの仰せだ。
ソルジャーオーク達は鼻をフゴフゴと鳴らしながら、岩場の前を通り過ぎていく。
あれがマナの匂いを嗅ぐ動作だ。
人類はそれがごく薄いので、相当の至近距離に来ないとバレない……。
「フゴフゴ……」
バレない……。
「フゴフゴフゴ……」
バレないバレないバレない……!
「フゴフゴ……ブシュン!!」
いやいやいやいや!!
もう駄目だろこれ!!
バレるだろ!!
オークの鼻先が俺達のいる岩場の隙間スレスレまで差し入れられて来たのだ。
もはや戦いは避けられないのか……!!
避けられないだろ!
俺はその鼻先目がけて冷凍ビームを放とうとしたが、先輩はその手を捻り上げてくる。
ちょ!! 痛い痛い痛い!!
俺が苦痛に耐えていると、やがて、その鼻先は引っ込み、感知ピークも去っていった。
あ、よくよく考えたらオークの感知ピーク音でバレたかどうか分かるんだった……。
「強くなってもビビりの性分が変わらなきゃなぁ……」
と、先輩に頬を抓られた。
す……すみまふぇん……。
でもなんであそこまで来て気付かなかったんだ……?
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至って平和的に侵入したダンジョンの入口は、長い長い下り坂の洞窟になっていた。
どうやら、一度地下に潜ってから上に上がるルートらしい。
警戒を怠らずに行っているが、この先にオークの感はない。
先輩曰く、この先がオークにとっておいそれと侵入すべきではない聖域か、もしくはオークでも近寄りたくない危険地帯化のどちらかとのことだ。
うへ~……怖い怖い……。
「しかし……まさか戦闘無しで侵入できるとは……」
「ったりめーだ。つーか、斥候やアサシンの仕事ってのはかくあるべきだろ」
そういえば先輩一応隠密系ジョブスキルでしたっけ……。
乱暴に強いから時々忘れちゃう……。
俺の考えていることを察知し、さっきの体重話の分も上乗せされたビリビリ往復ビンタを食らいつつ、俺は洞窟を進んでいく。
ふと、前方からザー……ザー……という音が聞こえてきた。
これは……水場の音だ!!
釣り人は、水場があるとついつい急いで見に行ってしまう癖がある。
先輩を急かしつつ、早足で抜けた洞窟の先には……。
広大な空間と、天井から無数に伸びる巨木の根。
そして、一面を覆った湖面……。
……。
こ……これは……!
「水没迷宮!!」
俺の声が木の根によって形成されたドームに響き渡った。