第29話:大討伐!浮遊島嶼群現る! 接近
「見えるかユウイチ……」
「見えます……光が……光が見えます……」
明け方の野営地。
俺は先輩の掌の上を見つめていた。
その上で雷型になる清らかな光。
「視界に発行体が映って妙にチラチラする」と言って先輩を起こしたら、何やらこんな宗教儀式のようなことを始められてしまったのだ。
いや、実際何なんですかコレ……?
「この地に満ちるマナだ……。こいつは驚いたな……」
ええ!
これがマナ!?
って……何やら先輩も驚いているようだが……。
先輩、元々マナ見えるんですよね?
「ああ。だけどな、ここのマナはこんなに聞き分けが良くなかったんだ。少なくとも昨日まではな」
そう言って先輩が手を動かすと、淡く光るマナの粒子がその後を追う。
指を突き出せば、その方向にサッと広がっていくマナ。
おお……。
操ってる……。
って痛っ!!
マナの導線に弱い電流が走り、俺の手に直撃した。
「はっはっは! 悪い悪い。こりゃ多分お前が釣った魚の影響だな。龍のマナはよそ者に対して気難しいんだが、やけに扱いやすくなってやがる。アタシらを龍の仲間だと思ってるのかもしれねぇ」
俺は魔力ゲージ指輪に目を落とす。
すると、魔力のラインが大きく伸長し、見たこともない濃緑色に光っている。
普段は俺の得意属性……即ち青系の色を発しているのだが、それが変色するということは、体内の魔法属性が変化しているということだ。
ドラゴントラウトの食事効果……それは体内の魔力をドラゴン属性に書き換えるものだったのだ。
こ……これ大丈夫だよね?
段々体が龍化していくとかないよね……?
「んなまさか……と言いてぇとこだが、確かに確証は持てねぇな……」
先輩が龍のような顔になったトンボを捕まえながら言う。
ヨモツヘグイじゃないが、ドラゴンのマナを摂取し続けた結果があのドラゴントラウトなら、その変化が俺達の身に起きても不思議ではない。
ていうか既にマナ達に迎え入れられちゃってるし……。
「とっとと済ませて帰ろうぜ。なんか体が……ウズウズすんだよ」
ガチガチと歯を嚙合わせつつ、獣道を進んでいく先輩。
俺はキャンプグッズを召喚解除し、その背を追った。
俺も何か……腕がムズムズする……。
////////////////////
道なき道……のようで、よく見ると道がある道を行く俺達。
エルフの長老は「つい最近使った道」と言っていたそうだが、エルフの言う「最近」は大体50~100年らしい。
そりゃ道もなくなる……。
だが、遥か遠方に見えていた山は確実に近づいていた。
あれが……大噴気孔……。
ぱっと見で高尾山くらいあるんだけど……。
カラスのような鳥が飛び交っているように見えるが、あれらは全て、翼長5mを超えるワイバーンである。
見ると、時折ゴオオオ!という音と共に、白煙が上がっているのが見える。
あの器官は鯨の背にある鼻のようなモノらしい。
あそこにマナ結晶を放り込めばミッションコンプリートってわけだな……。
ところで……どう登ればいいんです……?
「山の向こう側に回れ。山頂へ続くダンジョンの入口があるらしい」
「え……でもこの山の向こうって……」
「オークの領域だ。気ぃ引き締めてかかれよ」
先輩が低い声で言った。
大噴気孔から吹いてきた風音の中に、微かな感知ピークが混じっている。
俺は「食え」と、先輩が差し出してきた携帯保存食を齧り、双剣の刀身に砥石をかけた。