第26話:大討伐!浮遊島嶼群現る! 2人きりのおつかい
あの奇襲エルフに手渡された地図をもとに、朝日に照らされた獣道を歩く俺達。
俺達はあのエルフが放った睡眠マナ魔法によって瞬く間に眠らされてしまったらしい。
マナ魔法が使える先輩とネスティは瞬間的にマナ魔法で防御をしたそうだが、やはりエルフの本拠地のマナの性格は大陸のそれとは勝手が違ったそうで、最終的には押し負けてしまったのだという。
マナに性格とかあるんだ……。
いや、それよりも驚いたのは、この島の正体だ。
「この島がドラゴンの背中とは……なんかスケール凄いですね……」
「ああ。群島海亀龍・ザラタードケロン……聞いたことはあるが、こんなクソデカいとは思ってもみなかった」
エルフ達が語った話によると、ある日、いつもは西方暗黒大陸の周辺を回遊していたザラタードケロンが突然東…即ちこの大陸の方へ泳ぎ出したのだという。
その航行の途中、蟹に似た巨大龍「島蟹龍・ガンダランタ」と思われる龍と激しく食らい合い、最後は頭部をかみ砕いて撃破したものの、ザラタードケロンもかなり手酷い傷を負ったようで、それ以降、泳ぐ速度が目に見えて遅くなり、海流によって流され始めたらしい。
そして、ある嵐の夜が明けると、現在の海域で座礁していたとのことだ。
「なんか気味の良い話じゃないですね……」
「ああ。成体龍の異常行動はな、昔人魔大戦の直前に起きた現象なんだ。まあ、愛がいる限り魔王の復活はあり得ないとは思うが……。やっぱ引っかかるよな。っととと……」
よろける先輩を受け止める。
先輩まともに寝れてないんじゃないですか?
「ああ……。あの村の長老の説得に時間がかかってな。最近オークの侵攻が多いからってカリカリしやがってよぉ……」
立ち眩みを起こしている先輩を一旦座らせ、水魔法で発生させた水を、召喚したコップに入れて手渡す。
先輩は「ああ。悪ぃ……」と言ってコクコクと飲み干した。
目の下に隈できてる……。
「先輩。ちょっとひと眠りしたらどうですか。いつになくコンディション悪いですよ」
「生意気言ってんじゃねぇ……。と言いてぇとこだが……。悪ぃ……ちょっと戦いで魔力使い過ぎちまった……。甘えさせてもらってもいいか……?」
何か今日の先輩おしとやかだな……。
俺は少し開けた場所にテントと寝袋を召喚し、先輩を寝かせる。
すぐに寝息を立て始めたあたり、相当消耗してたんだな……。
人質として置いてきたミコト達が心配ではあるが、先輩のコンディションが悪かったらオークと遭遇した時危ない。
先輩によると、エルフは高慢だが、自らの品位を貶める行為…即ち約束を破るようなマネを嫌う。
少なくとも、俺達が失敗して戻らない限りは、皆の身の安全は間違いないとのことなので、ここはスピードよりも確実性を取ろう。
なにせ、俺達に課された使命は随分な難易度だからな……。
俺はポーチの中に押し込んでいた青い球体を手に取る。
これはザラタードケロンを活発化させるためのマナ結晶で、ザラタードケロンの背にあるひと際巨大な山、通称「大噴気孔」へ放り込んでほしいそうだ。
そうすれば、ザラタードケロンは再び元の海域へ戻る力を得られるはず……らしい。
最初聞いた時は飛行スキルでパパッと済ませられると喜んだのだが、大噴気孔周辺には各種ワイバーンの群生地があり、空から近づこうものなら、瞬く間に包囲されて終わりとのことだ……。
しかも、ザラタードケロンの放つ龍の魔力風が渦巻いており、テレポートでも接近出来ないという。
そのため陸路で向かうことになるわけだが、エルフの村から大噴気孔までは徒歩で2日かかる上に、山を挟んで龍の甲羅の後ろ半分に生息しているオークが、座礁した日から続々と侵攻してきており、ソルジャーオークとの遭遇戦も覚悟しなくてはならない。
全くもって厄介だ……。
エルフも何度か調査チームを送っているらしいが、多くが未帰還、もしくはオークないしワイバーンによる重傷を負って逃げかえってきたそうだ。
なんでも、成体エルフは大地のマナを大量に纏ってしまう特性があり、異質なマナを嗅覚で知覚できるオークやワイバーンから身を隠す術がないらしい。
奇襲に失敗し、強襲になったとしても、初めのうちは強力なマナ魔法でその群れを突破できるのだが、疲労と共に扱えるマナが減ってくると、フィジカルに勝る敵の攻撃を凌ぎきれなくなり、最悪は包囲殲滅されてしまう。
そうやってほとほと困っていた彼らのもとに、マナを殆ど纏わない連中……即ち俺達がやって来たので、都合よく小間使いに利用したというわけだ。
上位種気取るくせにちゃっかりしてんなぁ……。
「ま……。俺は少々自由時間……と」
俺は一息ついた後、安眠する先輩が入ったテントを木や枝で擬装すると、周囲の探索に乗り出した。
流石にあの高慢な連中のお使いをこなして島外へ脱出では面白くない。
一回くらい釣り竿を出さねば釣り人の名が廃るというものだ。
俺は先輩のテントが目視出来ないのを確認してから、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れた。