第24話:大討伐!浮遊島嶼群現る! 上陸
「思ったよりデケェな……しかもこの島……妙な魔力を感じるぜ……」
一旦最寄りの砦へと向かい、そこで一夜を過ごした後、俺達は浮遊島嶼群が漂着したという北の海岸まで向かった。
そこにあったのは、文字通りの島並み。
海岸からものの数百メートル沖合に島影が複数見えている。
驚かされたのはその大きさだ。
全部合わせればそれこそ、淡路島とか対馬とかそれくらいのサイズ。
普通に地図が書き換わるレベルだ……。
「これ全部探索するんですか? 何か月かかるか分かったもんじゃ……」
「オメーは馬鹿か! こんな島アタシらだけじゃ年単位かかるわ! だからこその大討伐なんだろ。ホレ見ろ」
先輩に促されるまま振り返ると、冒険者達が、大挙してこちらへ向かってくるのが見えた。
あれは……パルレに向かった連中か!
恐らくだが、彼らはオークが戦争を仕掛けてきたものと踏み、パルレの要塞でそれを迎え撃とうとしていたのだろう。
それを僅か6人のパーティによって討伐され、戦争ではないという調査報告まで上げられてしまったとあっては、彼らのプライドには盛大に傷がついてしまったに違いない。
となれば、第二の大目標である島の調査では我こそが!といきり立つのが冒険者の性というものだ。
そして彼らに随伴してやって来るのは、巨大なサイ型動物5頭が牽引する砦のようなモノ。
シャウト先輩によると、アレこそがかつて帝国の侵攻を大いに遅滞させたという、パルレ自慢の移動式要塞らしい。
それを海岸に据え、大討伐の拠点にしてくれるようだ。
これは……ありがたい……。
なにせ島には何が潜んでいるか分からない。
何か起きた時、海岸まで逃げ延びれば生還できるというのは、心理的な余裕が段違いというものだ。
「オイ。当然だが、二つ名持ち3人いるパーティはアタシらンとこだけだかんな? 恥かかせられちゃ困るぜオメーら」
と、防具の乱れを直し、使用したアイテムをサブポーチの中身と入れ替えながら、先輩は笑みを浮かべて見せた。
「ガッテン承知っス!」
「頑張ります!」
「分かりましたわ!」
「精進します」
同じように身なりを整え、アイテムを整理しながら、皆やる気に満ちた答えを返す。
俺もまた、アイテムを整理し、双剣の刃を研ぐ。
刀身に映った俺の顔は、いつになく高揚感を帯びていた。
俺は猛進してくる冒険者勢に背を向け、先輩達の方に向き直って応えた。
「よし! いっちょやりますか!! 釣具召喚!!」
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小型ボートで上陸したのは、岩だらけの海岸。
出来れば砂浜が良かったが、いくらボートを走らせても、見えるのは岩の海岸線ばかりだった。
浮遊島嶼群と言うくらいだから、砂浜が定着しないのだろう。
俺達は早速ベースキャンプを設営し、シャウトパーティーを表すオレンジ色の旗を掲げた。
これであとから来た冒険者達は俺達の上陸地点を知ることができ、既に探索した場所の二重探索を防ぐことが出来るというわけだ。
それに、もし仮に、あくまでも仮にだが、俺達がこの地で全滅したとして、遺体や遺品の捜索も楽になる。
クエスト先で全滅したと思しき先客の痕跡を見るのは決して稀なことではないが、あまり気分のいいものではない。
俺達がその対象にならないよう気を付けなくてはなるまい。
そんなことを考えつつ、岩の隙間にテントのペグを撃ち込んでいると、内陸の方を見張っていた先輩が俺の元に飛び降りてきた。
「おい、とりあえず周りの安全確認すんぞ。ユウイチ。ちょっと付き合え」
などと珍しく、俺を斥候に誘ってくる。
普段は知らない間に済ましてきてんのに……。
「あー! 浮気現場じゃないですかアレ!」
「うえええんっス! 先輩が雄一さんを寝取っていくっス~!」
などという子芝居を背中で受けながら、俺達は巨木が生い茂る森の中へと足を踏み入れた。
同時に「やっぱり……妙な気配がある……」と、先輩が妙にソワソワし始める。
俺の感知スキルには何も無いんだが……。
マナとか使える人ならではの感覚なのか……?
「なあユウイチ。お前何ともねえのか?」
「え……ええ。少なくとも俺達に敵対するような気配は……。ちょくちょく魔物っぽい気配はありますけど、俺達に危害加えそうな感じのもいませんし……」
「そうか……。さっきからずっと、デカい魔力が動いてるのを感じてたんだよ。それこそ……ドラゴンか、それに準じるような規模の何かがいるかもしれねぇ……」
「えぇ!? ヤバいじゃないですか!?」
「あくまでも可能性だ。浮遊島嶼群って言うくらいだから、魔力鉱物を多量に含んでる可能性もある。ただ今の時点でどうだこうだ言うのはアイツら不安にさせるだけかと思ってな……」
いつになく舌が回る先輩。
……。
…。
一番不安になってるの先輩じゃないですか……?
「あぁ!? と、言いてぇとこだが、実際妙な胸騒ぎ覚えてんのは間違いねぇ。あの二人組の勝手もイマイチ分からねぇし、愛は魔女に妙なこと言われてやがるし、南方で龍が出た直後にコレだぜ? 経験上、あんま気分がいい状況じゃねぇな」
そう言いながら、島の地表に生えたコケや木々の実、生物の糞等を保存瓶に採取する先輩。
えーっと、つまりは……。
不安がいっぱいだから俺にそれを吐き出したかったと。
出たよ出たよ天然のあざとさが……。
こういうとこあるからズルいよ先輩は……。
「大丈夫ですよ先輩! 何たってヒュードラーを討伐した釣神がついてますから! 先輩は安心してカッコいいパーティーリーダーやってくれれば万事OKです!」
「……。ケッ……。幼龍一匹くらいでイキッてんじゃねえっての。まあ、ありがとよ」
そう言って微笑む先輩だが、声にはやはり覇気がない。
あ、駄目だ。
結構ガチ目に不安覚えてるこの人……。
何かせめて、何かせめて心に響くような言葉を……。
等と逡巡していると、刹那、俺の脳裏にキン!という、鋭い感知のピークが立った。
それとほぼ同時に、ガキン!という音を立ててオートガードに細長い飛翔物が命中する。
これは……矢!?
「サンダーウィップ!!」
俺の体が動くより早く、先輩の光の鞭が、森の上空へと伸びていく。
そして、「バチン!!」という音と共に、その矢を放ったと思しき弓が落下してきた。
だが、射手は森の風に掻き消えるかのように、行方をくらませてしまう。
「チッ……マナが濃すぎて狙いがズレちまった」と言って、弓を拾い上げる先輩。
弓矢をマジマジと見つめた後、先輩は険しい表情でこっちに向き直る。
「オイ。この島、エルフがいるかもしれねぇぞ」
先輩の緊張感に満ちた声が、ザワザワと揺らぐ森の中に、はっきりと響いた。





