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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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第23話:大討伐!浮遊島嶼群現る! 惨劇の村




 俺達は夜が明ける前に海路で出港し、朝日が見えたと同時に、背の高い草が茂る西側の海岸へ上陸した。

 多くの冒険者パーティが夜明けを待ってから、飛行クジラでパルスター島の中央要塞都市「ペルレ」の増援に向かうようだが、シャウト先輩に言わせれば、それは無用な心配。

 ペルレは帝国との総力戦に3ヶ月耐えた名要塞なので、オークの群れ程度に打ち崩されるほどヤワではないそうだ。


 上陸地点にオークの姿は見えなかったが、海岸線に沿って北上し、避難が終わった無人の村をいくつか横目に通過すると、途中から、何らかの攻撃を受けたと思しき痕跡のある村が目につくようになる。

 そして時折、誰かが焚火をした痕跡と……血だまりが残されていた。

 村人か、旅人か、それとも、昨日夜を徹して上陸を敢行した冒険者なのかは分からないが、俺達の緊張感は高まっていく。


 幸運にも、高性能な索敵要員が2人いる我らがシャウトパーティは、敵との不意の遭遇を徹底的に避けることが出来る。

 俺とミコトを前後に配置し、僅かな敵意を感知し次第、進路を微修正しながら、俺達は北上を続けた。



「いたぞ。随分な有様じゃねーかオイ……」



 強い警戒状態にある複数の敵を感知した俺の報を受け、前に出た先輩が姿勢を低くして囁いた。

 俺達は事前に指示された陣形に移動していく。

 俺は右へ、先輩は左へ、そして、他のメンバーは警戒しつつその場で待機だ。


 しかし……。

 先輩の言う通り酷い有様だ。

 破壊された集落の周りに、殺害された村人や、恐らく夜間に襲撃を受けたであろう冒険者の亡骸が着衣のまま吊るされている……。

 あまり直視したい光景ではないな……。


 凄惨な光景に、少し気を取られていたが、額に当たる光で俺は我に返る。

 先輩が鏡を使って合図を送ってきているのだ。

 俺もまた、その光を双剣の刀身で受け、準備完了の合図を返す。


 刹那、鋭い雷光が集落の入口に立っていたオーク二体のうち一体に命中した。

 一撃で崩れ落ちる巨体。

 同時に、俺が残るもう一体にテレポート斬撃を撃ち込む。

 水剣と凍剣による3連斬が、その胸部をZ字に切り結ぶ。



「ブオオオオオオオ!!」



 胸部と、そこから噴き出した鮮血までも凍結し、裂創と凍傷による痛手を負いながらも、そのオークは雄叫びを上げて仲間に危機を知らせた。

 社会性ある魔物ならではの習性だ。


 その声に呼応し、村の中からワラワラと出てくるオークたち。

 殆どは着の身着のままという状況で、先輩が危惧していたオークの軍隊「ソルジャーオーク」タイプは見当たらない。


 ひと際大きな体を持つ、この集団の長と思しき個体が俺を指さし、何やらブヒブヒと喋りかけてきているが、生憎、俺の脳にセットされた自動翻訳は、人類の共通語にしか適用されないのだ。

 ただ、怒りや悲しみを湛えたその瞳からは、「よくも仲間を!」とか「友の仇よ!」的なニュアンスはくみ取れる。


 感情や知能を持った敵の相手は若干しんどい……!

 だが人類の脅威になるなら情け無用!

 この世界では、種の存亡をかけた生存競争は未だ終わっていないのだから!



「冷凍ビーム!!」


「ブオオオオオオ!」



 薙ぎ払い冷凍ビームに、怯む敵集団。

 だが、俺程度の遠距離攻撃で一網打尽に出来るような連中ではない。

 分厚い脂肪が冷気による肉体中枢へのダメージを低減するのだろう。

体に氷を纏ったまま構わず攻撃をしてくるオークたち。


 剣持ち3、斧持ち4、ハンマー持ち2、盾持ち2。

 真っ向から俺が組み合える相手ではない。

 だが、俺はテレポートと飛行スキルを駆使し、徹底的にヒット&アウェイに終始する。


 まず盾持ちを優先的に削る。

 足元に氷斬撃を撃ち込み、足の腱を凍結損傷させる。

 それで群れを守る力は大幅に削がれた。


 動きの鈍った盾持ちを庇うように密集して陣形を組みなおしたオークたちへ、今度はアイストルネードを撃ち込む。

 ダメージは少ないが、目つぶしには十分だ。

 目に強烈な冷気が吹きつけ、表面が凍結する痛みには、たとえオークでも耐えられるものではない。


 氷の竜巻によって視界を奪われた彼らの胸へ、足へ、腕へ、頭へ、首へ、何度も、何度も、地道に斬撃を撃ち込む。

 そして反撃を受ける前にテレポートで逃げ、再びアイストルネードを放つ。

 致命傷は与えられなくとも、敵の動きを封じ、そして確実にその体力を、戦闘力を削いでいくのだ。


 そしてついに、その痛みと不快感から、隊列を離れるオークが出た。

 右太腿に凍結裂創を刻まれたその個体は、明らかに動きが鈍重。

 さあ! みんな今だ!



「いくっスよおおおお!! エンジェル・大一閃っス!!」



 草むらから飛び出したミコトが、視界と脚力を失ったオーク目がけ、大剣を振るう。

 ミコトの声に反応し、その方向へ剣の突きを繰り出すオークだが、生憎、ミコトもテレポート使いだ。

 がら空きになったオークの背後上空に飛んだミコト。

そこから斜め下へ勢いよく振りぬかれた大剣は、筋骨隆々の肉体を深々と斬り裂いた。


 ガクリと膝をつくオーク。

 それに続き、詠唱を終えたネスティが、光の基礎攻撃魔法:フラッシュシュートを見舞う。

 オークの顔面に閃光が走り、激しい爆発が起きたかと思うと、オークは倒れ伏し、動かなくなった。


 激高したオークたちがネスティの方へと歩み寄るが、その足取りはやはり重い。

「悪く思わないでくださいね」と、一体の背に飛び乗ったフェイスが、短く詠唱を行いながらレイピアを突き立てた。

 直後、オークの胸部が刺々しく膨らんだかと思うと、そのまま断末魔を上げる間も無くオークが倒れる。

 え! すげぇ! カッコいい!!


 しかし、接近しすぎた彼に、別のオークが構えていた斧が振り下ろされる。

 危ない!

 と思った瞬間、愛ちゃんが彼を庇って飛び出し、身代わりに斧の一撃を受けた。

 が、その姿は影となって掻き消える。



「ほらほら! こっちですよ! ファイアアローシュート!!」



 3人に分身した愛ちゃんが、斧オークの周りを走り回りながら、魚骨弓から炎魔法を放つ。

 シャウト先輩の猛特訓のおかげか、体内に封じた魔力黒玉の影響か、それともその両方か、愛ちゃんは分身体からでも実体のある魔法を放てるほどにレベルアップしていた。


 強い指向性を持った火矢魔法が、オークの分厚い表皮を突き破り、破裂する。

 あの斧オークが落ちるのも時間の問題だろう。


 見れば、ミコトは剣持ちオークを相手取って一騎打ちに突入し、ネスティとフェイスはハンマー持ち2体へ次々に痛撃を与えている。

 いい流れだ……!


 俺は盾持ち2体の懐に潜り込み、その剛腕に凍結Z斬りを叩き込む。

 盾を持つ手が凍り付き。いよいよその武力が失われていく。

 「ブオオ……」という、悲痛な声を上げて俺を踏みつぶそうとしてくるが、そんな攻撃を食らう俺ではない。


 しんどい!

 そんな目をして睨まれるとしんどい……!

 しんどいが!!



「メガ冷凍ビーム!!」



 俺の双剣を介して放たれた十字の冷凍ビームが、盾オーク2体の体をカチカチと凍結させていき、ついにはその全身を凍てつかせた。

 俺へ向けられていた鋭い敵意はみるみるうちに減少し、やがて、完全に消え去る。

 討伐2……!

 俺は残るオークと戦う仲間たちの援護に向かうべく、再び飛び立った。




////////////////////




「村は全滅だ。女子供1人生き残っちゃいねぇ。代わりにオークの女子供はいたがな」



 そう言って村の中から現れるシャウト先輩。

 俺達が戦っている間に、先輩は村の中へ単独突入し、内部の制圧と生き残りの捜索を行っていたのだ。

 オークはその知能ゆえ、捕らえた獲物は早急に干し肉に加工してしまう習性があるという。

 残念ながら、この村への救援は間に合わなかったらしい。


 せめて弔いのお祈りでも……と、村に入ろうとするネスティを、先輩は「入らねぇ方がいい」と言って、制止した。

 よほどの惨状だったのだろう。

 先輩からは仄かにお香の匂いがした。



「ただ、これで決まりだ。オークどもは戦を仕掛けに来たわけじゃねぇ」



 “いくら野蛮なオークでも、戦いの前線へ妻子を連れてくることはあり得ない。

 それに、彼らがこの島へ持ち込んだのは農耕器具と武器のみであった。

 よって、このオーク集団は帝国への攻撃として強襲揚陸を仕掛けてきたわけではなく、新天地を求めて渡りを行った個体群と判断できる。

 体色が我々が住む中央大陸のそれとはだいぶ違うらしく、もしかすると、いずこかの暗黒大陸から渡来した可能性もある。”


 先輩はギルドバードに簡易報告書を結び、島のギルド支部へと飛ばす。

 気づけば、日は既に真上に登っていた。


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