第20話:指名依頼セカンド まさかの一件落着!?
俺達は、数百年前の遺構を武器に、恐るべき白銀の水龍を討伐した。
その巨体はミコトとターレルによって引き上げられ、一部の素材を除き、冒険者ギルドを介して地元の漁業ギルドへと寄付された。
その全身は美しい真珠のような輝きを湛えた鱗に覆われており、目が飛び出るほどの高値で市場に卸され、その頑丈な骨は強靭な遠洋漁業船の竜骨となった。
ここの所、思うように船を出せずにいた漁師たちにとっては、思いもよらぬ臨時収入となり、村々は大層潤ったという。
良いことだ。
当然!
かの魚真珠事件も終息。
……しなかった。
漂着する魚真珠の数はかなり減ったものの、未だ数多くのそれが砂浜を彩っている。
中身も、ともすれば少し前まで生きていたのではないかというレベルの鮮度……。
つまり、あの水龍退治後も、真珠は作られ続けているというわけだ。
「何でだろうな~……」
「何でっスかね~……」
俺達はとりあえず、付近の海域を一通り空から偵察し、海流を掴んだ。
そして、色々と探索し、調査をしているのだが……。
未だその尻尾も掴めていない。
流石に滞在も一カ月近くなり、そろそろ成功報酬と皆の駐屯費用が逆転しそうな今日この頃。
俺とミコトは海岸にビーチパラソルとビーチベッド、そして釣り竿を並べ、未だ熱量を帯びている南洋の太陽で肌を焼きながら、釣りをしながら、海岸の見張りを怠らない。
傍から見たら猛烈にリラックスしているだけだが、決して怠ってはいない。
レアリスは、ターレルと共に彼が経営する宿の手伝いに出向き、そこで情報収集をしてくれている。
まあ……。
拾ってくる情報は美味しい食材や、料理のことばかり。
あの小食で生真面目なレアリスが、すっかり南洋の気にあてられ、美食家になってしまっている……。
いかん……。
このままではパーティーメンバーが南洋ギルドの陽気なグータラパーティーになってしまう……。
俺は一刻も早く事態を収拾すべく、気合を入れて海の監視作業を継続する。
見上げれば空はどこまでも青く、海風はさらさらと心地よい。
ああ……。
このまま延々と、釣り糸を垂らしていたい……。
そんな俺の思考を否定するかのように、ポーチがブルブルと振動した。
おっと……。
携帯の着信が……。
ではない!
天界の魚達が俺を呼んでる!!
「行け! ヒゲウバザメ! イシガキデメニギス!」
俺は釣り竿の仕掛けを引き上げると、脈動していた2つのカードを海へと投げる。
巨大な魚影が現れ、海へと突っ込んでいった。
「雄一さん! 敵っスか!?」
「ああ! またコイツらが呼んでた! 多分大物が来るぞ!」
俺とミコトは即座に武器を構え、臨戦態勢をとる。
俺達が纏う装備はパッと見水着だが、これでも立派な防具。
ちゃんと戦う準備はしていたのだ。
俺とミコトは海に向かい、2匹によって追い込まれてくるであろう、天界の強敵の襲撃に備えた。
………。
……。
「来ないっスね……」
ミコトが呟く。
うん……。
来ないな……。
感知スキルにも何のピークが出ない。
どういうこと……?
困惑する俺の目の前を、ヒゲウバザメが大口を開けてザーッと通り過ぎて行った。
小魚を盛大に搔っ込みながら……。
腹減っただけかよ!!!
拍子抜けした俺は剣を収め、暴食の限りを尽くすヒゲウバザメをカードに戻すべく、その魚影にカードをかざそうとした。
が、それをミコトが制止する。
「雄一さん。私達もしかして、ものすごい勘違いをしてたのかもしれないっス……」
「ん? どういうこと?」
困惑する俺の元へ、ヒゲウバザメが泳いできたかと思うと、その口の中身をドシャアと吐き出して見せる。
ほぼ同時に、イシガキデメニギスもまた、巨大な貝を咥えてこちらへ飛んで来た。
「やっぱり……。この子……。私見たことあるっス! 天界の魚類ライブラリで!」
ミコトは吐き出された小魚を一匹一匹指でつまみ「この子も……この子もっス」と、神妙な顔で仕分けしていく。
パッと見は普通の魚だが、ミコトによると、全て天界で正式可決され、こことは異なる世界に送り込まれたはずの種らしいのだ。
そして、イシガキデメニギスが運んできた貝を調べたミコトは「この貝……白蝶貝っス! 遥か昔に雄一さんの世界に送り込まれた種っスけど……明らかにデッカイっス!!」と、声を荒らげた。
ミコトがこじ開けた貝の中からは……。
大量の魚真珠!! 犯人はコイツか!!
ってことは……天界魚類フォースは真面目に仕事してたのか!
ご……ごめんよ皆……バカとか言っちゃって……。
「絶対あの魚頭悪魔のせいっス!! 許さんっス!! ふんがー!!」
怒るミコト。
しかし……。
ラビリンス・ダンジョンも開いてないのにどうして……。
「確かに妙っスね……ふんがー!! しかもコレ、私のラボには置かれてないので……ふんがー!! 別の方法で天界への不法アクセスを行ったのかもしれないっスよ!! ふんがーーー!!」
冷静な分析と怒りを交互に繰り返すミコト。
彼女の様子は最早ギャグだが、事態はギャグでは済まない。
仮にラビリンス・ダンジョンを介さずして天界にアクセスされたとするなら、もうダゴンは天界侵入に王手をかけていることになる……。
一体どんな方法をとったんだ……!?
まあいい!
今は封印が先決だ!
俺がブランクのカードを魚と貝に投げつけると、幸運にもまだ繁殖前だったのか、その全てを封印することに成功した。
これで一件落着……。
で、いいのか……?
「こんな時コトワリさんがいてくれたら……ちょっとは事態が分かるんスけど……」
ミコトが心細そうに呟いた。