第15話:指名依頼セカンド 孤島の人面
「ひゃ~! これは速い! ユウイチの国の道具は凄いなぁ~」
「気持ちいいわねー! 海風のマナが気持ちいいわー!」
俺は小型ボートを召喚し、美しい南洋の海を駆ける。
昨日、ターレルに案内された酒場で漁師達に事情聴取を行ったところ、とある孤島付近での魚真珠目撃情報が多数寄せられた
潮通しのいい好漁場で、事件前は大層多くの漁師の漁り船が並んでいたという。
今では一部の恐れ知らずや、変わり者を除いて、その海域に近づこうとする者はいないという。
魚真珠が見つかるのは海流の関係か、それとも、まさしくその海域に標的が潜んでいるのか、どちらかは分からないが、何らかの手掛かりはあるだろう。
あと、ある老素潜り漁師が言っていた、その海域に沈む「海底遺跡群」というのが気になる。
だってほら、そういうとこってよくボスが潜んでるじゃん?
ゲームでそういうラスボス狩ったことあるし!
……。
アレの新作結局プレイできなかったな……。
「ユウイチ~。あのカニのハサミみたいな形の島がその場所だよ~」
「凄いっス! 本当にカニみたいっスよ!」
ターレルの指差した先、水平線からグングンと伸びてきたのは、2本一対の半月型の細く縦長な山を湛えた島。
海底火山の噴火でできたのだろうか、深い青に染まったドン深の海に、まるで浮かんでいるかのように島がある。
白い砂浜に青々と茂るヤシの木や、マングローブのような植物、普通、こういう情景には遠浅のサンゴ礁がつきものなんだが、ここにはそれがない。
おかげで俺のようなヘッポコ操舵でも容易に上陸できた。
砂は粒子が細かく締まっていて、能登のなぎさウェイみたいな硬さだ。
そして、その砂に混じって、多数の魚真珠が散乱している。
ライザさんが見せてくれたそれよりも、サイズも形状も多種多様で、
半島突先に比べると、真相に近づいている感じはするね……。
「この島の北側に海底遺跡群があるんだよ~。古代に魚人が築いた文明があったって言われてるねぇ~」
ああ、沈没したとかじゃなく、もとから海中に作られてた系なのか。
それはそれで中々にファンタジーロマンがあるな。
ていうか魚人の文明って……彼ら魔物だよね?
「違うよ~。それは半魚人だよ~。魚人はれっきとした亜人種の人だよ~。まあこの大陸ではずっと昔に絶滅しちゃったって聞くけどね~」
「下半身に魚の特徴を備える亜人“メロウ”のことね。私たちのご先祖と同じく、人魔大戦の頃に絶滅してしまったって聞くわ」
「でも僕ら大陸南方出身者の中にはその血を引いてる人もいるんだよ~。というかライザがそうなんだ~。泳ぐの上手いんだよ~」
ふむ。
俺の世界で言うとこの人魚のことか。
そっかぁ……。
絶滅してんのかぁ……。
ちょっと残念だな……。
そんな他愛もない話をしつつ、ベースキャンプを設営する。
漁師さん曰く、この島には危険な生物も魔物の類も生息していないため、開けた場所に設営しても大丈夫とのことだ。
ちょうどU字型の岩があったので、そこの中央にテントを張り、煮炊きのできるファイヤーピットを設置する。
その矢先、何やら黒い塊がモゾモゾと目の前を横切った。
それは丁度、人の頭くらいの大きさで……。
そしてその物体と、目が合った。
……。
「いやあああああああああああああ!!!」
俺は自分でもびっくりする悲鳴を上げ、後ろで食糧庫用の穴を掘っていたターレルにしがみ付く。
「出た! 出た出た出た!!! 生首―――!!!」
俺が指さした先には、ものすごい形相でこちらを睨む、髪を乱れさせた顔面がいた。
いやいやいやいや!!!
そういうダークなファンタジーはいらないって!!!
「どうしたんスか―――!」
「ユウイチくんどうしたの!?」
少し離れたところで薬草や木の実を採取していたミコトとレアリスが大慌てで戻ってくる。
そして、俺の指さす先、つまり俺と彼女達の間に存在するその怪奇物体を見るや否や、ミコトが声を上げた。
「食材っスーーー!!」
と。
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「もー! 死ぬほど怖かったぁ!! 腰抜けたもん完全に!!」
俺達は今、顔面を焼いている。
怒りの顔面を背に纏ったカニを……。
「はっはっは~! これはイカリガニだよぉ~。 ミカヅキガニと同じくこの辺の名物なんだ~」
イカリガニ。
それは、甲殻に怒り狂った人面型の皺をもつ大型の草食蟹だ。
ヘイケガニの巨大版とでも言おうか……。
しかしこのカニ、趣味の悪いことに甲殻側面から黒く長い毛を生やし、さらにモクズガニのごとくハサミに長い藻屑を備えている。
それがちょうど乱れた毛髪のようで……。
これはどういう進化の結果なんだよ……。
「まあ、こういう姿で生き残ってるわけっスから、このお顔にも何か意味があるんじゃないっスかね?」
そう言いながら、藻屑付きの爪から身をほじくり出し、真っ赤になって怒っている人面甲の中に入れるミコト。
その甲殻の中からは、ほのかに甘い匂いがする。
なんかココナッツみたいだな。
「そうっスねぇ! 多分、ココナッツみたいな木の実を主食にしてるんスよこの子。辛味と酸味を合わせたらいい感じのエスニック料理になりそうっス!」
ミコトは人面甲に持参した現地の辛味スパイスを入れ、スティックレモンを刻んで投入する。
さらに現地で愛用されている香草を散らし、茹でた乾麺を投入した。
おお!
ミーゴレンみたい!
「じゃーんっス! ミーゴレン風焼きそば、激怒風っス!」
めっちゃ怒ってる人の顔の裏側で、甘辛スパイシーな焼きそばが出来上がった。
一口食べると、ココナッツを思わせる甘い風味と共に、程よい酸味と辛味が舌を刺激する。
汗腺が開き、暑い南の島を渡る潮風が、心地よく体を冷ましてくれる。
これは味もさることながら、防暑にもいいかもしれないね。
「美味しい! ミコトちゃんやっぱり天才ね!」
「いや~、ライザがヤキモチ焼きそうな美味しさだなぁ~」
と、メンバー二人もあっという間に麺を完食し、後にはいい感じに赤くなった人面甲だけが残った。
よく洗って先輩への土産にでもするかコレ。
見上げると太陽は遥か高く、空はどこまでも青い。
「あの空の向こう側に、私達の世界はあるんでしょうか」
「雄一さん、この世界で偉業を成し遂げて、何度も私と転生してほしいっス」
何となく、愛ちゃんやミコトと話したことを、頭の中で反芻する。
………。
……よし!
ひと仕事やりますか!