第10話:指名依頼セカンド 南方の怪異! 真珠ザクザクビーチ事件
「おいユウイチ。また指名依頼来てんぞ。モテモテだなお前」
「あ痛っ!!」
買い物帰りの先輩が、ソファーに寝そべっていた俺の顔面目掛けて指名依頼書の紙ヒコーキ……いや、こっちでは「紙矢」だったか……を飛ばしてきた。
狙い違わず眉間に当たり、半端に痛い。
「えー! またですかー!? 先輩ばっかりズルいですー!」
と、向かいのソファーで寝そべっていた愛ちゃんが吠える。
彼女は二つ名を賜ってから未だに一度の指名依頼も来ていない。
まあ……。
名を上げてこそいるが、彼女の現在の実力はギルドにしっかり把握されているようだ。
「オメーにゃまだ早いってこった。オラ! 今日もアルフォンシーノの外壁見回り行くぞ!!」
「ひー! 私ももっと輝かしい依頼がしたいです~」
「輝きてぇならもっと実力を磨いてから言うこったな!」
愛ちゃんはシャウト先輩に掴み上げられ、最近日課と化しているアルフォンシーノ外周の城壁を周回する見回り兼魔物討伐の依頼に連れられて行った。
若干気の毒ではあるが、彼女がより高いレベルの冒険者を目指したいのなら、致し方のない試練だろう。
実力が不足した状態で高難度のクエストに送り出すほどギルドは厳しい組織ではないし、逆に、容易な依頼で名誉ある指名を出すほど甘くもない。
やる気と度胸はあれど、体力、魔力の制御、スキルレベル、その他諸々が未だ二つ名の域へ達していない彼女にも、いずれ指名依頼の誉れを着せてやろうというシャウト先輩の粋な計らいというやつだ。
恐ろしく長大なアルフォンシーノ外壁の周りを走るなり歩くなりすれば、体力はつくし、それに呼応して魔力も増えていく。
雑魚魔物が相手でも、数をこなせば魔法の制御も上手くなるし、強敵に遭遇しても、先輩が一緒なら安心だ。
いい大先輩です……。
「雄一さん。今回はどんな指名依頼なんスか?」
台所で甘味を漁っていたミコトが、ハニーチュロス的な棒状のスイーツを咥えて歩いてきた。
あ、それ俺にもちょうだいと言うと、彼女は目をつぶり、チュロスを俺の方へ突き出してきた。
俺もそれに応え、片側に齧りつく。
ちょびちょびとチュロスを齧りつつ、お互いの顔が近づき……。
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「魚型の真珠が大量に漂着……っスか。確かにこれば不気味っスね……」
ミコトが汗を拭きながら、依頼書に目を通す。
そう。
最近、大陸南方はマッスル湾の沿岸部で、魚型の真珠が次々と流れ着いているらしい。
しかも、それらを割ってみると、中から魚の死骸が出てきたという。
凶兆か、はたまた海棲の魔物の仕業ではないかと恐れる人がいる一方、漁師達はそれらが上がりだしてから好漁続きで、先祖の霊か、もしくは海の神々による幸運の贈り物だと喜んでいるらしい。
ただ、異変には違いないので、ギルドが誇る釣神殿に調査を依頼したい。
そういう内容の依頼だ。
これは……。
俺の管轄なのか……?
「いいじゃないっスか! 北の次は南! どんな美味しい料理があるんスかねぇ~ ジュルリっス……」
旅行気分ではしゃぐミコトの胸と腹がユサユサと揺れた。
俺は「おいおい仕事なんだぞ」と言いかけたが、内心、俺も南方で釣れる魚に興味津々だったので、その言葉は飲み込んだ。
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「もちろんオッケーだよ~」
南方での依頼なのでターレルを誘ったが、彼は二つ返事で応えてくれた。
現地の地理に詳しい人物がいると助かるし、彼の実力は折り紙付きだ。
ご当地の旨いものも知ってそうだしね……。
「今度はミコトちゃんにいいところ見せるわよっ!」
と、どこからともなく速足で現れたのは、前回のクエストで自称「出番がなかった」レアリスだ。
魔法使いというのは、補助魔法を後ろから打っているだけでも大変重宝されるのだが……。
彼女はそれだけでは飽き足らないらしい。
ていうかアナタまだ誘ってないんだが……。
まあいいか。
どのみち一人は魔法職の人スカウトするつもりだったし……。
こんな感じで、今回のクエストメンバーは決まった。
「うにゃああああ! またユウイチが可愛い子連れてクエスト行こうとしてるにゃ! ズルいにゃ! 職権乱用だにゃ! ボクも連れてくにゃ!!」
「アニキ! 僕らは今日から南東大農園地域で爆裂モグラ狩りっす!!」
「くにゃあああああ!! ユウイチィ! 次はもっと早く依頼を受け取るにゃああああ!!」
とか叫ぶ声が聞こえたが、多分気のせいだろう。
………。
……。
俺もアレくらい私情をクエストに持ち込んでもいいのだろうか……?