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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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第9話:異世界テスター再び ターレルの剛腕メソッド




 とんがり頭の排水塔から、すこし下流に下ると、川は大きく蛇行し始めた。

 同時に、川は透明度を取り戻し、水底一面に繁茂していた藻場にも、砂地の隙間が目立つようになる。

 川のほとりには大規模な農地が広がっているあたり、肥沃な土地なのだろう。

 ということは、定期的に洪水とか起きる土地柄なのだろうか?


 まあ、それは今どうでもいい。

 釣りだ釣り。


 俺は店長から授かったリールを、同じく店長から授かった専用の竹竿に装着し、金属製のガイドにラインを通す。

 このラインに使われている糸は、インフィートから取り寄せたアラクネ糸らしい。

 アオラちゃんの糸こんなとこまで届いてるんだな……。

 知り合いとしてちょっと誇らしい。


 しかしこのセット、何もかも最高級、もしくは特殊な素材を使っていることから、我々一般市民ではとても手が出ない価格になるそうだ。

 まあそれは別に構わない。

 技術の萌芽が高額なのは当然のこと。

 その芽を大きな木に育てれば、いつか多くの果実を実らせ、数多の人々がその恵みを享受できるのだ。

 何十年後になるかは分からないが、この技術を結実させるためにも、俺は真面目にテストしないとね……。



「ユウイチィ~。この釣具本当に使っていいのかい?」



 俺が普段使っている召喚釣具セットをえらく繊細に構えるターレル。

 そんな野に咲く花を摘まむような持ち方しなくても壊れたりしないよ……

 しかしターレル、脳筋に見えて頭のキレる男、少しレクチャーしただけでアッサリと使い方をマスターして見せた。


 今回、彼にはルアーを使ってトップウォーターゲームを楽しんでもらおう。

 彼の竿から練習用のオモリを外し、13cmのポッパーを装着する。

 使い方は至って簡単だ。


 オオビレカワカマスが潜むであろう場所へポッパーをキャストし、ドッグウォーク+ポッピングで弱った小魚が水面でのたうつ様を演出するだけ。

 無論、魚の居場所は自分で考える必要があるし、川の流れを計算してキャスト位置やアクション、リーリングスピードを変える必要がある。

 まあ、そこは彼の釣り人としての技能に任せるとしよう。


 俺も同じように、糸の先にスナップとポッパーを装着、早速キャストしてみる。

 やたら硬いベイルを起こし……ラインに指をかけ、竿にルアーの重心を乗せながら……キャスト! うわ! すごい天ぷら!


 俺の投げたルアーはもの凄い高い弾道を描いて飛んでいく。

 飛距離はそこそこだ。

 スピニングリールのメリットは何といってもここ。

 糸を抵抗なく吐き出す構造のため、作りが荒くても飛距離を稼げるのだ。


 ベイルを返し、リーリングを始める……。

 うーん……。

 硬い!

 抵抗が変化する!

 この時点で現代基準では落第だ。


 おそらく、内部のギアの工業精度の問題だろう。

 まあいい、そこは時がいずれ解消してくれる!


 巻き抵抗のクセを掴みつつ、俺はロッドアクションを付ける。

 コシの無い長い竹竿は、アクションを付けるたびにビヨンビヨンとしなり、明らかにルアーへの力の伝達を阻害している。

 ここは要改善点だ。


 ただ、活性が高いのか、そういう大雑把なアクションでも魚は反応してくれた。

 ジグザグの軌跡を取りながら水面を騒がせるポッパーの前方に、美しいヒレが現れる。

 オオビレカワカマスだ!


 俺はそのヒレを躱そうと必死で成功するベイトを演出すべく、ロッドを細かく振る。

 ビヨンビヨンとしなる竹竿の動きに呼応し、ポッパーがバシャバシャとポップサウンドを立てて暴れだした。

 深めのカップを備えたこのポッパー。

 出す音も、打ち上げる水柱も大きい。


 やがて、ポッパーがヒレの横合いに飛び出した瞬間、ヒレが凄い勢いで水面を突っ走り、暴れていたポッパーが一気に消し込んだ。

 食った!!


 竿がしなり、再現されたドラグがラインを吐……き出さない!!

 やばいやばいやばい!!

 重い! 切られる!!

 俺は慌ててラインを手でつかみ、ドラグから無理やり引き出した。

 ようやく機能し始めたドラグが、ギイイイイイ!と小気味の悪い音を立てながらスプールを回転させる。

 これはドラグとしてダメだろ!!


 柔らかい竹竿は満月のようにしなるが、しかし、いい素材だけはあり、破断する気配は全くない。

 ドラグの不甲斐なさを十分に補ってくれている。

 魚の強い引きを、竿の特性を生かして耐えていると、ギッ……ギギッ!と悲鳴を上げていたドラグが停止し、竿の描く弧が浅くなり始めた。

 今だ!


 俺はリールを力いっぱい巻き始めた。

 ……やべえ!! 全然トルクがねぇ!!

 ハンドルが魚の引きに完全に負けてる!!

 強引に寄せるとかもってのほかだ!


 しかし……。

 道具が負けても俺は負けん!!

 俺は右腕に全力をかけ、リーリングを開始した。

 暴れる魚の動きは竹竿がグニャグニャに曲がるに任せ、俺はリーリングマシンと化す。


 竿が引きを吸収してくれる分、がむしゃらに巻けば糸フケが出ず、バラシのリスクは低そうだ。

 しかし……如何せんこのトルクレスはいただけない!

 逆立ちして自転車に乗り、手漕ぎで急坂を上っているような重量感に襲われながらも、俺は必至でハンドルを回す。

 回す。

 回しまくる!!


 やがて、澄んだ水面を裂いて、美しいヒレが現れた。

 続いて、ポッパーをガッチリと咥え込んだ鋭い歯の並ぶ細口が激しい水しぶきを上げる。

 うーむ……。

 サイズはまあまあか……。


 俺は長いフィッシュグリップを召喚し、魚の下顎にかけ、ランディングした。

 緑と銀色に輝く美しい魚体にしばし見とれる。

 水底の藻場に擬態して潜み、近づいてきた小魚を襲う……。


 ヒレがデカい以外は、パイクに似た習性だ。

 やはり大きな川に潜む肉食魚というのは、ナマズ系、パイク系、コイ系に収斂していくものなのだろうか。

 生存するに足る能力というのは、案外どの世界も同じなのだろう。



「ユウイチ~。この釣具やっぱりすごいねぇ~。ほらほらー」



 声のする方を見れば、ターレルが俺のそれより二回り以上デカいのを鷲掴みにして走ってくる。

 すげえ握力……。



「ちょっと軽く振っただけですっごい飛ぶし、シゃクリも軽いし、硬いのにしなやかで頑丈だねぇ~。ちょっと振り回しにくいけど~」



 ターレルはそう言いながら、魚を俺のクーラーボックスにしまい、12fのショアジギングロッド+3500番のリールのセットを、見たこともないグルグルスイングでフルスイングし、すごい飛距離を叩きだしている。

 ん?

 俺が使ってるこっちこそターレルに相応しいのでは……?




////////////////////




「ユウイチ~! この竿いい感じだねぇ!」



 ターレルが投げ縄のように竿を回し、荒々しくルアーをキャストする。

 そうか……。

 あの投法なら、しなりすぎる竿のクセを殺し、かつ、弾力が生きる。

 だだっ広い場所以外では出来ないだろうが……。


 ターレルはやはり釣りを嗜む者、水草の森や沈んだ岩、倒木など、水底のストラクチャーを意識しつつ、長い竿を手首だけで操ってポッパーを激しくアクションさせている。

 すぐさま大きなヒレが現れ、水柱が上がり、ファイトが始まった。


 すると、ターレルは即座にリールのベイルを返し、出ていく糸をむんずと掴んだ。

 え! 何やってんの!?

 驚く俺を尻目に、彼は出ていく糸の量を握り込んだ拳の中で操りっている。

 に……人間ドラグ!


 そうか……。

 ターレルは手釣りで巨大魚を仕留める男。

 俺がやったら掌がズタズタになるだろうが、彼の硬く締まった掌はその程度で傷つかないらしい。


 彼は手動ドラグで魚の動きを制御し、弱ってきたと見るや、即座にベイルを返し、すごい勢いでハンドルを回し始めた。

 ギアのトルク不足を腕力で完全に補ってる……。

 いや……補って余りある……。

 もう完全にパワーの世界だ。

 俺にはとてもできない……。


 ズババ!という水面が弾ける音が響き、デカくて長い魚がずんずん寄せられてくる。

 ターレルは使い古された立派なギャフを手に取り、魚の頭に打ち込んで引き寄せた。

 見る間に、俺が釣った魚よりもデカかったさっきの魚より、さらに1周りはデカい、今日一番の大物が、岸の大岩にドサッと転がる。

 す……すげぇ……。



「ユウイチ~! この釣具ならすぐにでも売れると思うよ~!」



 満面の笑みで笑うターレル。

 うん……。

 要改良だこれは……。


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