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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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第8話:異世界テスター再び オオビレカワカマスを釣りに行こう!




「おおユウイチくん! いや……釣神殿!」


「もー! その呼び方やめてくださいってば!」



 俺は久々の休日を使い、都の釣具屋を訪れていた。

 特に用事があるというわけではないが、釣り人は何となくで釣具屋に足を運ぶものである。

 いい釣具屋は、全体的な雰囲気はそのままに、季節やトレンドに合わせて品ぞろえが変わっていくので、それを眺めるだけでも結構楽しいのだ。


 ところで目につくのは、「釣神殿プロデュース!」と書かれたポップである。

 描かれた似顔絵は……「天楔殿画」って書かれてる……。

 愛ちゃん割と絵心あるな……。



「いや~。ユウイチくんが監修してくれた疑似餌の改良版が大売れでねぇ! 商工ギルドからも発注が入って来るもんだから作っても作っても品切れさ!」



 ああ、あの獣皮疑似餌か。

 結局、テールをカーリーテールグラブのような形状に改良し、そして、専用の貫通ワイヤー入りシンカーを頭部に集中させ、太刀魚用のリトリーブタイプジグヘッドリグ+カーリーテールグラブのような形状に収まった。

 シンカー大、中、小で3つのタイプがラインナップされていて、求める飛距離によって使い分けるようになっている。

 この世界のリールはまだ遠投性能が低いので、多くの人は港のテクトロで使っているという。



「そりゃ良かったです。また言ってくれたら監修しますよ」


「はっはっは! ぜひ頼むよ釣神殿! ああ! そうそう。これを見せようと思ってたんだ」



 そう言って、店長が持ってきたのは、銀色に輝くリール……。

 スピニングリールだ!

 形状は現代のそれにかなり似てる!



「いやぁ~。君に借りたリールの構造を僕なりに解釈してちょっと試作してみたんだ。ほら、一応いい感じに回るように作れたよ」


「ちょ……ちょっと触ってみていいですか?」


「ああ、もちろんさ」



 随分と自信に満ちた表情……。

 これは「ちょっと」とかいうものでは決してない。

 商工ギルドの漁具部長として、威信をかけてきてる……。

 相当数の試作を重ねたに違いない。


 手に取ると、ずっしりと重い。

 これは金属の材質の問題だろう。

 アルミニウムやマグネシウム、プラスチックが未だないこの世界のこと、重量は仕方がない。


 ハンドルを回してみると、ちょっと重い……。

 ただ、回転は思ったより滑らかだ。

 ギアがどうなってるのかは知らないが、一応、ベイルは上下に動いて、糸をフラットに巻く構造にはなっているらしい。


 これが実用化されれば、この世界の釣りは格段に進化するだろう。

 その萌芽が、俺の手の中にある……!



「ユウイチくん」


「任せてください!!」



 俺は問答無用で、テスターを引き受けた。




////////////////////




「いやぁ~。釣神様は凄いなぁ~。釣具を開発する側になっちゃうなんて~」


「いやいや、凄いのはあの釣具屋の店長だよ。あの人は俺が居ても居なくても、何か革新的な釣具作ってたと思うぜ」



 俺はターレルを誘い、先日立ち寄り地として利用した町、アーチンを訪れていた。

 この町は湧き水の街で、町を流れる運河から海へ続く川があるという。

 そして、そこで釣れるのが、あの旨い大型魚、オオビレカワカマスだ。


 あの時は指名依頼だったからスルーしたけど、めっちゃ釣りたいと思ってたんだよね。

 ファントムの日誌によると、この水系と、近隣の湖の水系にしか生息しない種らしい。


 町の外に出ると、確かに町の直下にある水門から、豊かな水が放出されている。

 ファントムの日誌曰く、ここから少し北西に上がった場所にある水源の伏流水が、この町の直下で川になっているようだ。

 大雨降ったときとかどうなるんだろこの町……?


 川に沿って歩いていくが、この川、幅は広いが辺りに散乱する岩などはかなり大きい。

 中~下流域のような川幅、水量であるにも関わらず、まるで渓流域のような光景だ。

 確かに、湧き水によって川が形成される場所という点では、ここは渓流域に似た状況だ。

 ろ過された水の中には、砂や土砂などは極端に少ない。

 川辺の大地から流入する土砂も、あっという間に澄んだ流れに押し流されていくのだろう。


 白河の清きに魚の~の一説で始まる狂歌のごとく、澄んだ流れの中に魚影はまばらだ。

 澄んだ川というのは栄養に乏しく、数多くの魚を養う環境は形作られない。

こんな環境で、あの大型肉食魚はどうやって生きてるんだ……?

 少々疑問を感じつつも、俺たちは川に沿って歩く。



「お~? ユウイチ~、あの建物は何だろう~?」



 ターレルの指さす先、とんがり頭の建造物が小山の後ろから姿を現した。

 目を凝らしてみると、相当年季の入った取水塔のようだが……。

 そして驚いたことに、とんがり頭を境にして、川の色がすんだ白青から濃緑の緑色に変わっている。

 何だ何だ?



「……なんか、変わった臭いがするねぇ」


「だな……。なんか生臭いような、青臭いような……」



 秋風に乗って、独特な臭いが漂ってくる。

 俺はこの臭い、ちょっと心当たりがあるぞ……。

 夏の東京湾奥がこんな感じに……。


 そのとんがり頭の傍に寄ると、その臭いは一層強くなった。

 耐えがたい臭いとは言わないが、決して気分のいいものではない。

 うん……。

 完全に下水ですねこの臭いは。

 あのとんがり頭、取水塔じゃなくて下水の処理施設だわ……。


 ただ、それは釣りにおいて忌避するものではない。

 下水は豊富なリンを含み、藻場を育成し、多くのプランクトンや貝類を育む。

 実際、排水口を境目に、川底の環境は激変していた。


 濃緑色に見えたのは、川底に青々と茂った水草。

 そして、やや白濁りしている水面には、多くの魚が群れを作り、その周辺では巨大なヒレが……。

 オオビレカワカマスだ!!


 美しく光るヒレが水面を切るように横切ると、小魚の群れは右へ左へと逃げようとする。

 運悪く頭側に逃げてしまった小魚の一軍目掛け、鋭い牙を湛えた細口が閃く。

 ほ~……。

 ヒレを使って獲物を誘導するんだなあの魚……。


 釣るか……。

 と思ったが、黒々と口を開けた排水路から白濁した液体が流出し、水を濁らせた。

 その汚水に紛れる野菜カスや生ゴミに、小魚や、コイのような魚が群がり、オオビレカワカマスも獲物を求めてそこへと突っ込んでいく。


 人間の暮らしは、数多くの有機物を廃棄する。

 行き過ぎなければ、それは魚の住みかねる白河に養分に満ちた濁りを生み、河川や海を豊かにするのだ。

 こういう、人が生態系の形成に一役買っている環境は元の世界でも多くの例があるわけだが、不思議と心安らぐのは、自分を含む人類が、自然の中での役割を果たしていると思えるからなのだろうか……。

 それとも、人の暮らしさえも生きる糧として利用し、繁栄する自然の強かさを体感できるからなのだろうか……。

 もしくはその両方か……。


 し……しかし……。

 うぐ……。

 結構キツめの臭いが……。



「これはもう少し下ったほうが良さそうだねぇ~」



 ターレルが鼻を摘まみながら言った。


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