第7話:はじめての指名依頼 クエストクリアの祝勝会
「ということで、まあ正直緩いクエストでしたね」
「まあ流石! それは良かったわ」
都ギルドのマスターに次第を報告する。
指名依頼は、早期にギルドマスターへ報告する義務があるのだ。
めんどくさいな……。
「どう? 二つ名になって初めての指名依頼は?」
「うーん……。まだよく分からないですね」
「まあそうよね~。特にあなたは責任感とか重圧とか、いい意味で感じなさそうだし」
「ま……まあ。あんまり名誉欲とかないですからね俺」
「うんうん。あなたはそれくらいの感覚でいてくれた方が、私たちとしてもありがたいわ。若くして二つ名を賜った子が、重圧に耐えられずに失踪したり無理なクエストを断行して死んでしまったり、時には自ら命を……なんて例も無かったわけじゃないから……」
そう言ってこめかみを掻くマスター。
確かに、俺は釣りっていう一点を強調された二つ名をもらったから、魚関係の指名が回ってきたけど、殆どの二つ名持ちは強さを見込まれて指名が来る。
俺はちょっとしたラッキーパンチで二つ名をもらったに過ぎないし、ギルドもその辺は理解してくれてるから気楽なもんだが。
本来は鍛錬に鍛錬を重ね、難しいクエストを多数こなし、地域に貢献し、二つ名の舎弟になり、ギルドや先輩たちからの推薦をもらい、厳しい審査の末にようやく得られるか、得られないか、というのが二つ名なので、その名にかかる重圧と責任は相当なものになるのだ。
正直、そんな責任の上に成り立つ名誉なら、俺は欲しくはないかなぁ……。
「君のことは、強さだけじゃない、品性や知性、そして極めて優れた一点があれば、二つ名を貰えるっていう、ギルドの良い宣伝材料に使わせてもらってるから、また魚関係の指名が入ったらお願いね」
「うわ! なんかズルい!」
「いや~。最近冒険者の依頼も多様化してきて、ちょっと腕っぷしが強いだけのおバカさんばっかり来られても困るのよね~。それじゃ、受付で指名料の受け取りしといてね。私は商工ギルドとの会議があるから、バイバイ~」
そう言って、マスターは部屋の奥にある手巻き式エレベーターでガラガラと下に降りて行った。
ちゃっかりしてるなぁあの人……。
まあしかし、冒険者ギルドの在り方、というのは、時代と共に移ろっている。
読み書きも計算も出来なくて、喧嘩っ早くて女たらしで野蛮で粗暴、しかし依頼はキッチリこなして義理堅く道理は必ず通す……。
そんな、粋でイナセな江戸っ子気質……のようなものが冒険者に求められた時代も今は昔。
冒険者ギルドもいつかは人材派遣会社みたいな感じになっていくのかなぁ。
それはそれで、ロマンが無くて物寂しいかもね。
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「僕はあんまり役に立たなかったけどにゃあ~。 ゲプッ……」
「何言ってんスか! マーゲイさんのバリスタ捌き凄ったスよ! 一発命中とかびっくりしたっス!」
「にゃはは。ボクみたいな猫獣人の角耳種は、狙い澄ますのが得意なのにゃ。暗殺から砲戦までなんでもござれにゃ!」
「私は光源魔法撃つだけしか出番がなかったわ……。ミコトちゃんにカッコいいとこ見せたかったのに~」
「いえいえ! レアリスさんのおかげで安全にクエストができたっス! レアリスさんの光源魔法、すごい光量でびっくりしたっス! カッコ良かったっスよ!」
「やーん♡ ミコトちゃんにそう言ってもらえると嬉しい! いっぱい食べてね~♡ あーん♡」
「はいっス♡ あーんっス♡」
「ミコトちゃんの胃袋どうなってるにゃ……。ウプッ……」
戻ると、既にメンバーが祝勝会を開いていた。
まあ、大したものではない。
ギルド食堂の秋の名物、「豊穣のマウンテンケーキ」二つを囲み、ミコトとマーゲイがフードファイトしているくらいだ。
あの……。
軽く1mくらいの高さがあるんですけどそれ……。
「お! リーダー殿のお戻りにゃ! ウゲップ……。お前どうにゃこれ?」
「ま……まあちょっとは貰うよ」
マーゲイが腹をボッコリと膨らませながら、取り皿にケーキをこんもりとサーブしてくる。
お前……。
これをダシにレアリスナンパしようとしたな……?
そう耳打ちすると彼は「にゃふん……。これ平らげたら振り向いてもらえるかなって思ったにゃ……。甘かったにゃ……ケーキも考えも……」と、猫耳を垂らした。
「あ、雄一さんの食事がテーブルに乗らないっスね。ちょっと待つっス。少々お下品っスけど……」
ミコトはそう言って、ケーキを「スウウウウ!」という、何かどっかで聞いたことのある吸入音と共に、一口で平らげてしまった。
一瞬にしてポイン!と膨らむ体。
そしてレアリスの黄色い歓声。
ねえ君本当に天使なのかい……?
片付いたテーブルの上に、オードブルの類が運ばれ、俺たちは弱めのお酒で杯を酌み交わした。
まあ大したクエストではなかったので、それほど盛り上がるでもないが、和気あいあいと、クエストに関する話だとか、日々の雑談などを交わして、和やかに時が流れていく。
「よぉ。盛り上がってんじゃねーか。二つ名さんよぉ」
「ひゃいいいい!!」
不意に背中にビリっという電撃が走り、思わずビクッとしてしまう。
いや、やめてくださいよ先輩!!
「ひひひ……悪い悪い。お前ら、こいつの初指名依頼、どうだった?」
シャウト先輩が俺の横に腰かけ、肩を組んで頬をぐりぐりとしてくる。
……。
ちょっと酔ってるこの人……。
「ちょっと最初は行き当たりばったり感があったけど、問題なくこなせてたと思いますにゃ。咄嗟に考えて動けるメンバーが付けば、A級のクエストでも十分働けますにゃ」
「確かに行き当たりばったり感はありましたね。作戦が“俺が魚を釣るから、かかったら柔軟に対応して”でしたから。でも、魚釣りがそういうものである以上、仕方ないですよね。自分で考えて動けるメンバーが必要というのは、マーゲイくんに同意します」
シャウト先輩は彼らの言葉を聞き、「そうかそうか」と、満足げに相槌を打つ。
そして俺の頬をグリグリビリビリしてくる。
はい……。
雄一、めっちゃ行き当たりばったりでした……。
現場判断で何でもこなせる優秀なメンバーで助かりましたマジで……。
「まあ、ウチの頼りない舎弟が世話になったし、初指名祝いだ。これはアタシの奢りにしとくぜ。飲むだけ飲んどけよ」
そう言って、立ち去ろうとする先輩。
あ、そうそう。
「先輩! 出征港のボルツさんっていうノームのお爺さんが、“シャウトによろしく”って言ってましたよ」
帰り際にボルツ爺さんから預かった一言を伝えておく。
こういうのは後に回すと忘れかねないからね。
すると、先輩の背中がビクンと震えた。
「……。お……おう。それ以外何か言ってたか?」
「いえ? お知り合い何ですか?」
「ああ……。まあちょっと昔……いや、昔ってほどでもないんだがなハハハ……。クエスト頼まれたことがあったくらいさ。よく覚えてんなあの爺さん」
そう言って、こちらに振り返るでもなく、先輩は足早に去っていった。
……?
変な先輩。
その後は美人の奢りだと調子に乗ったマーゲイがべろんべろんになるまで飲みまくり、「にゃあぁん……。ボクもあんな美人先輩の配下につきたいにゃぁ~。あの人の電撃鞭で打たれてみたいにゃぁ~。飼い猫でもいいから雇ってほしいにゃぁ~」等と言いだし、あろうことかクエスト用ポーチの中から私物のベル付き首輪を取り出し、それを装着して俺の膝の上で丸くなって寝始めたので、彼のパーティーメンバーを呼び寄せ、引き取ってもらった。
彼くらいのノリで生きてる人の方が、新しい冒険者像としてふさわしい気がせんでもない……。