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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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第5話:はじめての指名依頼 黄金の響き




 夜の港に揺れる、緑色の光。

 ウキの上にセットされたケミカルライトだ。

 今の季節は秋、日本なら夜の堤防に、この緑の光が連なって浮いている頃だよなぁ。


 背後のテントでは、ミコトとレアリスが仮眠をとりつつ待機中だ。

 物静かな堤防であの淡い輝きを眺めていると、郷愁の思いが少々……。

 姉さん元気かなぁ……。



「ユウイチぃ。そろそろお夜食食べたいにゃ……」



 情緒もクソもなく、俺の足元で寝転がるマーゲイがゴロゴロと喉を鳴らす。

 おいおい。

 まだ日付も変わる前だぞ。


 二つ名の記念にと、シャウト先輩に貰った魔時針は、俺たちの世界換算で深夜の11時くらいを指している。

 夜釣りではまだまだ序の口の時間だ。

 ただ、自称、夜更かしの苦手な男、マーゲイには辛い時間らしい。

 お前夜の町好きのくせして、生活リズムは健康的なんだなぁ。


 まあ、連れてきておいて雑に扱うのもアレなので、少々早いが、夜食にしよう。

 俺が立ち上がり、コトコトと湯気を吹いていた鍋に近づくと、マーゲイはピョンと飛び、キャンプテーブルに着地した。

 相変わらずすげぇ跳躍力……。


 鍋の中身は、焦げるまで炙った後、水から煮込んでいたシマビラメの潮汁。

 骨髄や身から染み出たうま味成分で、汁は白濁した黄金色になっている。

 キージャ・マで味を整え、器に入れた握り飯へ回しかけた。

 シマビラメの潮汁茶漬けの完成だ。



「にゃほほ~……旨そうな匂いにゃぁ~。ていうか旨いにゃ!」



 注いだそばからがっつくマーゲイ。

 そりゃよかった。


 俺もサラサラと啜ってみる。

 あ~……滋味……。

 潮汁ってどうしてこう優しいんだろうな……。


 「いや~ 体も温もったし、ボクはここらで……」などと言いつつ、テントに入ろうとするマーゲイ。

 まあ、いいや。


 寝不足でフラフラの状態で待機されてても困るしな……。

 と思っていると、「いや、そこは突っ込んでほしかったにゃ……」と言って、俺のキャンプチェアに腰かけた。

 いや、寝てていいんだぞお前。



「大丈夫にゃ。ていうか、お前がこのクエストの要なのに、一番しんどい思いしてちゃダメにゃ。むしろお前が仮眠するにゃ。ボクが見張ってるにゃから」



 眠気覚ましのポーションをグビグビと飲みながら、マーゲイが言う。

 おいおい、そんな優しいとこ見せられても、俺は落ちんぞ。



「誰が落とすかにゃ! ほらほら、あの緑のが沈んだら呼べばいいにゃ? まあ任せるにゃ。さっきから結構な数の小魚が港に入って来てるみたいにゃから、お前の言う通りならじきにアイツも食事に来るにゃ」



 そう言ってニッコリと笑うマーゲイ。

 やだ……落ちそう……。

 んじゃ……。ちょっとお言葉に甘えて……。

 俺はキャンプベッドと寝袋を召喚して、マーゲイの座る横で寝そべり、目を閉じた。


 ………。

 ……。

 いや! ちょっと待てい!!



「うわ!! ユウイチ何にゃ!? ミコトちゃん達起きちゃうにゃ!?」



 いやいやいや!

 今なんて言った!?



「え? いや、だかにゃ、結構な数の小魚が入って来て……」


「何で分かったんだ? 海真っ暗だろ」



 この港には常夜灯などない。

 港湾ギルドの事務所や魚市場の周りにはガス灯があるが、海面を照らせるほどの光量などないのだ。



「え? お前聞こえないのかにゃ? さっきから魚の群れが泳ぐ音が聞こえてるにゃ。ほら、“サーサー”って感じで」


「いや全く……」



 俺はハッと思い出した。

 そういえば、小さいころ見た釣り雑誌の月間特集で、「釣り場の音を利用して釣る」みたいな企画があった。

 そのうちの一つに、「筆者には聞こえるが、その父母には全く聞こえない、小魚の群れが漁港内で泳ぐ音」みたいな一説があった。

 聞き取れる人間が殆どいなかったため、その音による攻略法がその後紹介されることはなかったが、事実として、小魚の群れが泳ぐ音、というのは存在する。

 もしやこいつはその音を……?



「あにゃ。お前聞こえてなかったのかにゃ。 めっちゃ釣ってるから聞こえてるのかと思ってたにゃ。とすると、お前ヒント無しであの……ソーダ?とかいうの釣ってたのかにゃ。凄いにゃお前」


「ってことは……。お前もしかして、あのデカい魚が入ってきてないのずっと知ってたわけ?」


「えにゃ? そりゃそうにゃ。ミコトちゃんがお前に全任するべきって言ってたにゃから、何か凄い特技かなにかで魚をおびき寄せるのかと思ってたにゃ。だから黙ってたにゃけど……」


「ホウレンソウの出来ないのはこの耳かァ~!!」


「ふにゃぁ! ホウレンソウって何にゃ!? やめっ! ダメにゃ耳弄っちゃ……! ボクそこ……弱っ……」



 マーゲイの頭から生える第二の耳に掴みかかり、こね回す。

 飾りかと思ってたマーゲイの第二の耳は、結構凄い聴力をしてたらしい。

 確かに、結構しっかり猫の耳してるこれ……。


 そうか……確か、こいつが率いる猫耳パーティーは斥候や偵察を得意とするって言ってたな。

 ハーピィとかアラクネに比べると人に近くて地味な感じがする猫獣人だけど、便利な能力備えてんだなぁ!

 「ふにゃぁぁぁ~……。汚されたにゃ……ユウイチに汚されたにゃ……」とか言って転がるマーゲイ。

 その第二の耳が、ビクンと伸びた。



「ユウイチ。デカい音が聞こえたにゃ。水中で長いものを振るような音にゃ」



 ナヨナヨとした声が、途端に真面目なトーンに変わる。

 おっと。

 お遊びはここまでか。


 俺はマーゲイと位置を代わり、釣竿を握る。

 「港に完全に入ったにゃ。泳ぐ向きは……お前の仕掛けが浮いてるほうにゃ!」という、マーゲイの声に連動するように、ウキが暴れはじめる。


 そういえばかの雑誌にも、大型魚は弱った魚の出す音を聞き分けるみたいなの書かれてたな……。

 泳がせ始めてもう1時間近くなる活き餌のソウダのこと、もうだいぶ弱っているだろう。

 格好の獲物が光を放っているのだから、完全に据え膳というやつだ。


 そして、ウキが勢いよく消し込み、同時に竿が満月のごとく曲がった。

 勢いよくアワセを入れると、激しい引きが始まる!


 いや!!

 やべえこれ!!

 とんでもないスピードだ!!


 いつもはジィ~という音で糸を送り出すドラグが、チィィィィィ!と、悲鳴のような音を上げて唸る!

 なんだよこれ!

 こんなスピード経験したことないぞ!?


 俺はアングラースキルを全開にし、その引きを止めにかかる。

 が!

 全然スピードが緩まない!


 これは……一旦耐えるしかないか!

 シマビラメ飯の効力で、魔力には十分余裕がある。


 耐える……。

 耐える……。

 そして耐える……!



「ユウイチ君! 光源いくわよ!!」



 マーゲイに起こされたレアリスが港内めがけて光源魔法を乱射してくれる。

 光のマナを介して放たれたそれは、小さな太陽のごとく煌々と海面を照らしだした。

 ……いた!


 海面の一角が白く光り、バシャバシャと水柱が上がっている。

 デカい!

 かなりデカい!!

 だが……!

 ラビリンスのサメ連中のがデカくてパワフルだった……ぜ!!


 俺は相手の引きが弱まった一瞬の隙をつき、竿を立ててリールを全力で巻いた。

 いける……!

 これなら捕れる!!


 今度は方向転換をした魚が、急激にこっちへ迫ってくる。

 うおおおお!

 こういう時は糸を弛ませたが最後、針が外れてしまう!

 俺は超高速で迫る魚に合わせ、リールを回しまくる。

 

 ヒラメ系の魚を食ったとき特有の、瞬発力補正が、そのリーリングをアシストしてくれている。

 と、今度は岸壁付近で、そのスピードが鈍った。

 バテたか……?

 と、思った直後、海面が凍り付き、その海中から白銀の剣が飛び出した!

 一直線に向かってくる!


 マズい!

 今オートガードで魔力消耗したくはない!

 回避を……。



「お任せっス!!」



 俺の前に立ちはだかったミコトが、盾を構え、その刃を受け止めて見せた。

 「うわ! 冷たいっス!!」と叫ぶミコトの盾が、白く凍り付いている。

 氷の刃飛ばしてくるのか!

 俺と属性被ってるぞ!



「ミコトちゃん! こっちに盾向けて!」



 レアリスが小さな火球を飛ばし、ミコトの盾にまとわりつく氷を溶かした。

 「ありがとうっス!」というミコトに、レアリスがウィンクを返す。



「ユウイチ! バリスタいつでも行けるにゃ!」



 銛がセットされたバリスタにマーゲイがとりつき、旋回させる。

 俺の目からは水中に没した魚影は見えないが、彼の耳はその動きを捉えているのだろう。

 あとは俺がこいつの動きを一瞬でも封じればフィニッシュだ!


 ぐぬぬぬぬ!!

 再び飛来した氷槍をミコトが再び防ぎ、その隙をついて、俺は勝負をかけた。

 思いきり上半身をのけ反らせ、竿を垂直に立てた。

 竿のバットパワーが魚を大きく引き上げ、ついにその頭部が海面に現れる。


 うわ!

 カジキだ!!

 頭が氷に覆われたカジキだ!!

 れ……冷凍カジキ!



「今だ! マーゲイ!!」


「行くにゃあああああ!!」



 マーゲイが発射した銛が、その巨大な頭部にズバァ!!と突き刺さった。

 その直後、冷凍カジキの魚体が、白色から鮮やかな黄金色に輝く。

 決まった!!

 カジキは致命傷を受けた瞬間、体が特有の色に輝き、そして、黒っぽい色に変わってく。

 こいつはその色が金色ってわけか……!

 美しい……!



「引き上げるっスよ! ふん! ふん!」



 ミコトがその銛が繋がっているロープを引っ張り、巨体を岸壁の上に横たえる。

 金色の魚体はビクビクと痙攣した後、やがてくすんだグレーに変色し、その命が失われたことを示した。

 10mはあろうかという巨体の、ヒレや口吻の周りを厚い氷が覆っている。

 鰓からは恐ろしく冷たい冷気が溢れ、濡れた地面を凍り付かせた。


 すごい……。

 無茶苦茶カッコいい……!

 氷を操る上にカジキだなんて……。

 こんなん釣り人のロマンの結晶だろ……!



「ユウイチ! ナイスにゃ!」


「おう。お前もナイスバリスタ!」



 マーゲイとハイタッチを交わし、ミコトとレアリスとも同じようにタッチを交わす。

 いやはや……。

 思ったよりもずっと早くクエスト完了だ……!


 冷凍カジキ、もしくはゴールデンマーリンは、自身から漏れる冷気によって見る見るうちに凍り付き、俺が何をするでもなく、良い感じに保冷された。

 とりあえず、解体と報告は明日の朝にしよう。

 俺たちはシマビラメの潮汁で身を労わったのち、テントでぐっすりと眠った。


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