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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第2章:その男 釣神であるゆえに
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プロローグ:二つ名のもとに




「俺名指しの依頼ですか!?」


「その通り。君の二つ名を見込んでの指名だから、存分に君の能力を生かせるはずよ」



 都のギルドマスターに呼び出されたと思ったら、銀箔で加飾を施された、無駄に上質な依頼文を手渡された。

 それこそ二つ名持ち冒険者ならではの依頼。

 そう。

 指名依頼だ。



「ほうほう……。大陸北東の出征港周辺に巨大な魚が住み着いている。物資輸送の商船が停泊中に襲われる被害多発につき、“釣神”どのの力をお借りしたい。でスって! 雄一さんにピッタリの依頼じゃないっスか!」



 ミコトが嬉しそうに依頼文を読み上げる。

 ま……まあ確かに俺に向いた依頼なのは間違いないだろうが……。

 今回ばかりは少し気が進まない事情がある。


 というのも、この依頼に参加できるのは、我らがシャウトパーティーで俺とミコトだけなのだ。

 これはギルドの慣習に由来する問題である。

 冒険者ギルドには、「指名を受けた二つ名持ちは、指名されていない二つ名持ちをクエストメンバーとして迎えてはならない」という慣習があるのだ。


 というのも、二つ名持ち冒険者は、ギルドがその実力、人格、知性を総合的に評価したうえで付与されるもの。

 それに選ばれた者が、他の二つ名持ちの手助けなしでクエストを完遂出来ないというのは、この肩書きの品位を大きく下げることに繋がるので、ギルドはこれを原則禁じている。

 明文化はされていないが、「お前ら、分かってるな?」くらいの圧力を持った慣習だ。


 だから、今回のクエストには、シャウト先輩も、愛ちゃんも参加不能ということだ。

 ミコトと久々の二人クエスト……というのは良いが……。

 しかし、相手は船に損傷を与えるような巨大魚。

 俺とミコトの二人で狩りきれるかと言われると、ちょっと自信がない。


 無論、断るという選択肢など最初から与えられていない。

 ギルドが目を通し、俺の元に来た時点でクエスト受注は絶対の義務だ。

 となると……。

 「雄一さん! 今から楽しみっスね!」などと目を輝かせるミコトには悪いが……。




////////////////////




 小一時間後。

 都ギルド本部、食堂にて。



「ぷーっス……」


「まあまあ……悪く思わないでくれよ。釣った魚に食われるようなことがあったら大変だろ?」


「むーっス」


「それに最近は二人で雑務クエストとかよくやってたじゃないか」


「むっふん! っス」


「ごめんってぇ……」



 ミコトはすっかり膨れてしまった。

 同席しているシャウト先輩と愛ちゃんが「おいおいお前漢気ねぇなぁ」とか「愛する二人の力で全部解決! こそあるべき姿だと思うんですけど!」とか、茶化してくる。

 くっそぉ……。

 気楽な立場から好き勝手おっしゃるじゃないか……。


 結局、俺は特務戦力の見知った連中に協力を要請した。

 彼らは二つ名持ちではないので、誘って連れて行っても何ら問題はない。

 むしろクエストに合わせて最適なメンバーをスカウトするのも、二つ名持ち冒険者のあるべき姿とされる。

 禁じたり推奨したりめんどくさい肩書だな!!。


 ミコトに初の指名クエストは二人きりで……という願望があったのは分かる。

 しかし、失敗して逃げ帰れば、俺達だけでなく先輩やギルドの信頼に関わる事態になるのだ。

 慎重になるのは当然のことだろう。


 まあ、ミコトも拗ねてはいるが、その辺はちゃんと理解してくれているようだ。

 その証拠に、さっきから都ギルドの新名物、「サメガエルの卵巣の皮下脂肪、甘味スープがけ」をモリモリ食べている。

 本気で怒ると激辛なもの食べだすからなミコトは……。



「しかし、ユウイチは割と気さくに臨時メンバー組めるよなぁ。オメーそういうとこはアタシより上手だと思うぜ」


「そうなんス! 雄一さんコミュ力抜群っスもん! そうやって雄一さんは……私との二人きりの時間を他の人との時間に割いていくんス……くすん……」


「あー! 先輩が奥さん泣かしたー!」



 な……何だこの子芝居……。

 あとコラ!

 あんまり大声で言うな!

 周りがヒソヒソ話してんだろ!


 と、俺が3人に弄ばれていると、今度は俺の両肩にトスッと重量が乗ってきた。



「おにゃおにゃミコトちゃん? ダンナに泣かされたのにゃ? どうにゃ? 今夜は僕と……」



 俺の肩に手を置き、マーゲイが会話に割り込んできたのだ。

 「んべーっス! 寝取り間男は一昨日きやがれっスよ! んべーっス!」と、ミコトは舌を出して応えた。

 マーゲイは「にゃふん……」と肩をすくめ、俺の隣に腰かけた。

 俺はすかさずその頭にヘッドロックをかける。


 そう。

 彼こそ俺が呼んだ応援メンバーの一人だ。

 気心の知れた仲だし、俺と同じくスピードタイプなので連携もしやすいだろう。



「に゛ゃ……。ユウイチ……ところでもう一人の……メンバーは……僕可愛い女の子だと嬉しい……に゛ゃ……」



 ヘッドロックされながらもナンパのことを考えているとは、なかなかのチャラ根性だ。

 まあ安心せい。

 もう一人は可愛い女の子だ。

 君に靡く可能性は限りなく低そうだがな!



「ミコトちゃーん! お待たせー!」



 噂をすればなんとやら、レアリスがその長身と長髪を振り乱しながら走ってきた。

 その姿を見た途端、俺の小脇で藻掻いていたマーゲイが、すごい力で俺のロックを外し、「レアリスちゃん。今回のクエストではよろしくにゃ。せっかくにゃし、初日のお宿は僕と相部屋で……」と、身を乗り出した。

 が、ミコトにしか目がないレアリスはそれをスルーし、「ミコトちゃん! 今日は一緒にご飯食べに行きましょうね!」と、鼻息を荒らげている。



「にゃふん……。特務戦力のみんなはガードが堅いにゃぁ……」と涙目になるマーゲイが少々気の毒になり、肩を優しく叩いてやる。

 すると「もう今夜はユウイチでいいにゃぁ……」などと熱っぽく抱き着いてきたので、俺はそんな彼を優しく跨ぎ、ボストンクラブの体制でホールドした。

 俺の現代知識技の前に、マーゲイは「ぎにゃあああ!」という断末魔を残し、やがてガクンと項垂れた。


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