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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第1章:オーダー! 恐怖の魔女会議
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エピローグ:天の楔




「なんか、今日は食いが悪いですね」



 愛ちゃんがふと呟いた。




////////////////////




 魔女会議は無事に……いや、結構危うい目に遭いながらも終了した。

 殆ど振り回されていただけではあったが、俺と愛ちゃんは、この大役を成し遂げたのだ。

 しかも、魔王の復活を目論み、会議を襲撃した一味を撃退し、復活のキーアイテムも愛ちゃんがその体に封じ込めた。


 機嫌を害さず、生きて帰ってきただけでも収穫と言われる中で、この成果。

 俺達の名はギルドお抱えの新聞社や吟遊詩人たちによって、都市から村々まで、大陸全土に響き渡った。


 魔女会議円満終了の大祭。

 帝国議会での表彰式典。

 法王庁における二つ名の授与式。

 そして皇帝陛下による褒賞式。


 二ヶ月にも渡って続いたお祭りムードの中で、街を迂闊に歩けない程に俺達は祭り上げられ、しばらくは褒賞として宛がわれたアルフォンシーノ郊外の屋敷で巣ごもりを余儀なくされたくらいだ。


 ただ、季節と人の心は移ろうもの。

 流石に秋虫の声が聞こえだした頃には、普通に街を歩いていても、「よお英雄」だの「あら釣神サマ」だのと、声掛けされる程度に収まっていた。


 そう。

 俺は二つ名の冒険者「釣神ちょうしん」のユウイチになってしまったのだ。

 いや、この二つ名は……。

 いやぁ……どうだろう……。



「先輩の方がカッコいいです……。私『天楔てんせつ』ですよ……。何でしょうこの……あの黒い玉ありきな感じ……」



 俺の隣で愛ちゃんが呟く。

 響きや字面は君のがよほどカッコいいと思うんだがね……。

 魔王復活を封じる天の楔とは。

 まあ、腑に落ちないのも理解はできるよ……。



 あの後、愛ちゃんは俺に全てを打ち明けてくれた。

 少し前から俺達だけでなく、悪の転生者連中とも交流があったこと。

 彼らが魔王を復活させ、それを討つことにより、元の世界への帰還を目指すという信じがたいマッチポンプを目論んでいたこと。

 そしてやはり……あの剣技講習会には、転生者が複数人いたこと。


 愛ちゃんの言うことには、最初は何事もなく講習が実施され、その後、個別に講師の男が転生者の元へ訪ねて回っていたのだという。

 そしてまんまと勧誘され、2回目の講習に向かった彼女は、志を共にする5人のメンバーと顔を合わせることとなった。

 そのメンバーこそ、魔女会議を襲撃した5人組である。


 彼らを取りまとめるのが、「豹野」と名乗る男。

 剣技講習の講師を務めていた男だ。

 彼はどうやら俺や瞬撃のシュンくんも勧誘しようと狙っていたようで、俺が時折街中で感じていた奇妙な敵意は、どうも彼のそれだったらしい。

 特にシュンくんは、かなり前からつけ回されていたようだ。


 シュンくんはそれを俺と勘違いし、威圧しに来たり、恐怖を覚えていたりと、敵意を持ってしまっていた。

 彼の誤解が早期に解けていれば、強力な味方になっただろうに……。

 無念だ。



 だが、彼の死は、愛ちゃんに大きな心境変化をもたらした。

 利用できないとあれば、同郷の同胞をも手にかける残忍な姿勢。

 そして、自分以外を見下しているとしか思えないその思想。

 魔王を復活させ、それを討つという計画も、何か裏があるように思えて仕方がなくなったという。


 そして、闇の魔女さんはそれをお見通しだった。

 俺が席を外した間に、彼女は愛ちゃんへ、彼ら側に着くか、俺達側につくか、会議の最後で選択を迫ることを告げた。

 そして、そのどちらを選んでも、愛ちゃんは地獄の苦しみを背負うだろうとも。


 ……。

 選ばれたのは、俺達でした。



「地獄の苦しみ……。私……どうなっちゃうんでしょう……」


「大丈夫だよ。俺は神をも欺き、悪魔をも惑わすトリックスターだぞ? 多少ヤバい運命くらい、いい感じに躱せるって」


「あはは……。そうですよね! なんたって魔女サマのお墨付きなんですから!」



 愛ちゃんが浮かぶウキを眺めながら、ため息をつき、俺が柄にもないことを言って励ます。

 もう何回目かもしれないやり取りではあるが、最近、彼女の笑顔から嘘が抜けてきたのを感じる。


 欺瞞を薄氷の如く打ち抜き、真実を霧中に隠すという、俺の持つトリックスター:神欺スキル、真理掌握と絶対欺瞞。

 知らず知らずのうちに俺を助けてくれていたこの力……。


 流石に世界を救うだの、人々を守るだの、そんな大仰なことには役者不足な力だが、せめて愛ちゃんを、ミコトやシャウト先輩を、そして仲間たちを、守るくらいには役に立ってくれると嬉しいな……。

 俺は掌をジッと見つめた。



その日の釣りはボウズだった。


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