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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第1章:オーダー! 恐怖の魔女会議
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第9話:完成! フカヒレメニュー!




 フカヒレが戻るまで1日。

 出来ることなら、この間にスープを完成させたいところだ。

 と、いうことで、俺達はかれこれ数時間、寸胴鍋と対峙している。


 ミコトが作ってくれた丸鶏スープをベースに、他に出汁が出そうな食材、即ち干したキノコ類だとか、魚の焼き干しだとかを加え、数時間じっくり煮てみたところ、スープそのものの味はおおかた纏まった。


 が、これはただの美味しい中華スープだ。

 麺との絡みがイマイチ良くないし、麺を呑み込んだ後で口に残る風味が弱い。

 しかし何が悪いのかが分からない……。



「うま味は足りてる、塩味も必要十分、甘味はこれ以上あったらクドくなるだろうな」


「酸味が合う感じでもないっスしねぇ……」



 煮ては飲み、啜り、煮ては飲み、啜りを続けながら、試行錯誤を続ける。

 だが小隊長が連れて来てくれた皇宮の料理人も唸ったこのスープ、これ以上の改善は多分無理だろう。

 ただでさえ夜更かししている上に、ラーメンもどきの食べ過ぎで頭の働きも鈍ってきて、俺達は何とも気だるい丑三つ時を迎えていた。



「ラーメン屋さんでカウンターの向こうとか凝視しませんもんね……。時々漫画とかでラーメン対決とか見ますけど大体出汁の素材が勝負の決め手になりますし……」



 そう言って麺を啜る愛ちゃん。

 うむ……。

 確かに料理モノのラーメン回ってラーメンそのものの基礎は出来上がってて、大体隠し味とか探す話になるもんね。

 インスタントラーメンから火を噴きあげるとかそういうぶっ飛んだのもあった気がするけど……。


 ………。

 ……。

火とか……上げてみる?



「な……何言ってるんスか雄一さん!?」



 俺が思い付きで口にした言葉に、ミコトがスープの湯気で眼鏡を曇らせながら返してきた。

 だが、睡眠不足で判断力が低下した俺の体は、考えるより先に食材の山へ向かっている。



「いや、ちょっとアリかもしれないぞコレ……」


「お前何言ってんだ……? 疲れで頭イカれたか?」



 ネギのような香味野菜を手に呟く俺に、先輩が呆れたような声をかけてくる。

 しかし脳が思い込んでしまったらもう止まらない。

 俺は一人料理スペースに立ち、細切りネギを作っていく。

 そして涙を目いっぱいに湛えつつ、今度はスキレットでランプレイの穀物油を加熱していく。


 ガンガンに加熱し、油に火が燃え移ったところで、麺とスープとネギが入った器にそれを回しかけた。

 途端に、ブオオ!と火柱が上がり、辺りにネギ油とラーメンの汁飛沫が飛び散った。



「うおおおお!?」

「ひいいい!」

「うひゃああああっス!?」



 3人の驚きの声が木魂する。

 自分のしたことながら、俺もびっくりだ!

 随分前にテレビで見たけど、マジでこんなになるんだ!


 火柱が収まると、そこにはいい感じにしなっとしたネギラーメンがあった。

 ネギの香りが食欲をそそるが……。

 とりあえずは実食だ!


 まずスープを一口……。

 ん……?

 ネギ風味がついただけで特に変わらない……?


 至極真っ当なことだが、疲れた脳では判断できなかったのか……。

 俺は何行き当たりばったりなことを……。

 とか、若干情けなく思しながら麺を啜り、咀嚼し、麺を呑み下す。

 ……ん?


 もう一口……。

 啜り、噛み、呑む。

 お?

 おお?


 いや、今の俺の判断だけでは危険だ。

 セカンドオピニオンを要する。



「ちょっとミコト食べてみ」



 そう言いながらミコトに器を差し出すと、彼女は麺をズズッと啜った後、「ん?っス んんっス?」と、俺と同じようなリアクションでこちらを見つめてきた。



「見えたかも、光明」


「見えたかもしれないっスね」



 味が……風味が……。

 口に残ってる!

 そうか……。

 そうだったのか……。



「油か!」

「油っスね!」



 そうだよ!

 よく考えてみれば、ラーメンのスープには必ず多量の油が浮いている。

 インスタント麺の液体スープにも白い油脂が入ってた!

 これだ!


 改善は要するだろうが、油が最後のピースだったのは間違いない!

 これでいける!

 魔女サマ方に出すラーメンは完成に近づ……。

 あれ?



「俺達ラーメン作ってたっけ?」


「……フカヒレラーメンにするっス?」



 こうやって深夜テンションのまま、魔女会議のメニューがもう一品確定したのだった。




////////////////////




「おお~……! これは良いものっス……!」



 ミコトが恍惚とした表情を浮かべながら箸を進める。


 キーは油。

 それが分かってからは早かった。

 俺達は仮眠を取った後、戻ったフカヒレの下処理を済ませ、試作スープと合わせにかかった。


 よく絡むスープに仕上げるため、フカヒレそのものの味付けは薄めにし、クドさを感じさせない味わいを心がけた。

 フカヒレスープにはキノコと魚の焼き干しから作った香味油が、そしてラーメンにはネギと鶏皮から取った香味油がピッタリとハマり、文句なしに旨い二品がここに出来上がったのだ。


 さらに、この成功でインスピレーションが働いたのか、サイドメニューのアイデアも出るわ出るわ。

 濃い目のスープで煮込んだフカヒレの繊維を大胆に載せたフカヒレの握り。

 生姜系のスパイスを効かせたスープで煮込んだフカヒレを香味野菜と絡めて食べるフカヒレサラダ。


 他にもフカヒレの冷製トマトスープ、フカヒレの焼き餃子、フカヒレナッツミルク等々、特定の味がなく、太くて歯ごたえがしっかりしたヒゲウバザメのヒレは、どんな料理に使っても、裏切ることなく応えてくれたのだった。

 この魔女会議……勝ったな……!



「アイツが今頃いたら、きっとガキみてえに大声上げてバカ食いしてたんだろうな」



 浮かれる俺を尻目に、試作品を試食していた先輩がポツリと呟いた。

 その表情は寂しげで、普段の先輩とは思えない、儚げな少女のようだった。


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