表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第1章:オーダー! 恐怖の魔女会議
242/348

第6話:オーダー! 砂漠の昼ご飯




 眼下に広がる広大な砂の海。

 ここに生きる者たちの大型渡砂船が、時折白い砂塵を巻き上げ、さながら海原を奔るバショウカジキのようだ。



「意外と近いんスね砂漠って」



 俺の隣で毛布に包まるミコトが呟く。

 その息が、白い尾を引いて窓の外へ流れていった。

 全く寒いったらありゃしない…。


 帝国最速の飛行クジラ「ミガルー」は、他の飛行クジラよりも数段巨大な体躯を持ち、遥か高空を高速で飛ぶ。

 雲の上を飛べる希少な白鯨種の飛行クジラの中でも、とりわけ優秀な個体同士の交配を重ねて生まれたこいつは、大陸をものの半日で横断できる速度を誇るのだ。

 普段は乗る人のことを考慮して、もう少し低いところを飛ぶそうだが、猶予7日の緊急事態とあれば、その本来の実力を遺憾なく発揮してもらうしかない。



「見えたぞ。 あれが砂漠の湖、ウィスター湖だ」



 先輩の指さす先を見ると、白黄色をした砂の海の中に、一点、キラキラと輝いている場所が見える。

 ミガルーが徐々に高度を下ろすのにしたがって、その輝きを発しているのが、三日月のような形状の湖であることが分かった。


 高空からではさほど大きいものには見えなかったが、いざ近くで見ると相当な大きさだ。

 幅だけ見れば、軽く琵琶湖くらいはある。

 え……。

 ここから開催場所探すの……?



「オラ! グズグズすんな! 飛ぶぞ!」



 そう言って先輩が背中を俺の胸に当ててきた。

 そのまま互いの体を皮ベルトで結び、離れないよう固定する。


 段取り通りとはいえ、よく締っていて、かつ柔らかいとこはちゃんと柔らかい先輩の体が密着し、かつ先輩の凛々しく美しい顔が眼下に迫ってくると、なんかこう……男として込み上げるものがなくもない。


 愛ちゃんを同じようにホールドしながら、プーッとフグのように膨らんでいくミコトの顔を横目に見ながら、俺はミガルーの昇降扉を開け、スカイダイビングを開始した。

 程なくして、後ろから「うわあああああああ!!」という愛ちゃんの叫びが聞こえてくる。


 パラシュートも付けずに高空からダイブするなど、耐えがたい恐怖に違いない。

 ただ、着陸することができない白鯨種から降りるには、専用飛行甲板を使うか、この方法しかないのだ。

 流石のシャウト先輩も、俺の腕の中で身を強張らせている。

 あ、ギュッと目をつぶるシャウト先輩、意外と可愛いかも……。


 等と考えているうちに地表と湖面が近づいてきたので、俺は飛行スキルを発動し、フリーフォールから滑空に移行した。

 グン!と身体が宙に吊られるような感覚と共に、背中の魔法翼が風を掴む。

 ミコトも同じように飛行スキルを使ったようで、今度は愛ちゃんの「ぅわぁわぁ!」という、Gを感じる叫びが聞こえてきた。



「このまま西へ飛べ。確か湖の真ん中あたりに小っせぇ島がいくつかあるはずだ」



 普段通りの凛々しい顔立ちに戻った先輩が、方位磁針を手に、俺が進むべき方角を指さした。

 先輩の指示に従い、俺とミコトは翼を並べて飛んでいく。



「壮観ですね……」



 愛ちゃんがため息のような声を出した。

 青く輝く巨大な三日月の周りは全て砂漠。

 日中は恐ろしい熱気が襲い、夜は凍てつくような冷気が走る過酷な世界の中に穿たれた三日月の湖畔には、青々とした緑の湿原があり、低木の林があり、大小様々な生物が息づいていた。


 水浴びに興じる大型哺乳類の数十m後方では、同種と思しき生物の白骨化した亡骸が砂に埋もれかかっている。

 まさしく生と死の境界がそこにあった。



「言っておくが、釣りしようとか考えんなよ?」



 湖面についつい魚影を探してしまう俺に、先輩が釘を刺してきた。

 へい……。

 気を付けます……。


 この緊急事態にも魚を追う釣り人の悲しき性を感じつつ、西へ西へと飛ぶ俺の前方に、ポツポツと島影が現れた。



「ああ、あの辺だ。島とはいうが、実質湖面から突き出た岩の先っちょみてぇなもんだ。魔女の奴らが卓を囲めるとなりゃ、かなり絞り込めるはずだぜ」



 なるほど、確かに島々の殆どは、逆さに生えた鍾乳石のように尖っていて、その上で12人の究極生命体が宴会を開くにはあまりに狭い。

 ある程度の平面を持った島、例えば上部の尖りが削られたものなどが好ましいだろう。


 しかしこの島々、これまた恐ろしく壮観だ。

 深くまで澄み渡った湖底から数十mはあろうかという岩が聳え立ち、その岩には苔や木々が自生し、鳥やサル、そして蜘蛛のようなカニのような謎の生き物が岩肌を這いまわっている。

 仙人とか住んでそうな雰囲気だ。



「先輩! 雄一さん! あの島なんかお誂え向きじゃないっスか!?」



 目の利くミコトが、蜃気楼揺らめく彼方に何かを見つけ、指をさした。

 俺も目を凝らして先を見つめると、なるほど確かに平らな島がある。

 ちょうど、ビルの屋上のヘリポートみたいな幅があり、卓を囲んで話すくらいなら丁度良さそうだ。


 だが近づいてみると、その島の異質さに気付かされる。

 あまりにも綺麗すぎるのだ。

 上底は磨かれた黒御影石のごとく光っていて、自然の岩が浸食で平らになったとかでは絶対にない。

 まるで恐ろしく鋭利な一閃をもって、先端部が切り落とされたかのような……。



「止まれ!!」



 早く着地してオーダーを探してみようと思い、スピードを上げて降下を始めた時、先輩が俺の胸に肘を撃ち込んできた。

 痛ぇ!?

 なんですか!?



「見ろ。“カラス”が陣取ってやがるぜ」



 先輩の視線の先、黒光りする岩の上底の中央に、それはいた。

 黒い床と同化してよく見えなかったが、特徴的な鳥型と赤い目がその存在を知らしめている。

 闇の中から赤い目に何もかも見透かされているような、気味の悪い感覚が背筋を走る。

 間違いない。

 魔女の眷属だ。



“キタレ ヒトノコ ワガコトダマニ マジョノノゾミハヤドル”



 空を覆って現れた時ほどではないが、相変わらず恐ろしい重圧を持って発された言葉に、俺は一瞬たじろぐ。

 今回は目を見ながら言われているもんだから、迫力は前よりもある。

 先輩に無言で指示を仰ぐと、「行け」と短い指示をくれたので、俺はとミコトはカラスの目の前に着地した。



“マジョノノゾミ ヲ オマエタチニ オシエル”



 俺達が固定ベルトを解く間も無く、オーダーを喋り始めるカラス。

 「ちょっと待って!?」と言っても、全く反応を返してくれない。

 こいつ、喋ってるわけじゃなくて録音した声流してる感じか?



「オイ! メモ取れ! これか!?」



 そう言いながら俺のポケットに手を突っ込んでくる先輩。

 いや、そっちのポケットは空で……痛たたたたたた!!

 やめて! 引っ張らないで! それ俺の大事な……!



「ちょっと先輩二人静かにしてください!」



 と、即座に手帳を手に取った愛ちゃんに説教されてしまった。

 彼女の後ろでは、ミコトの頬がバランスボールほどのサイズまで膨らんでいる。



“コノ タイリクニ イキルモノ ナンピトモ イマダ クチニセザルモノ ソレヲタズサエ エンセキノ ゴサントセヨ”


“コノ タイリクニ イキルモノ ナンピトモ イマダ クチニセザルモノ ソレヲタズサエ エンセキノ ゴサントセヨ”


“コノ タイリクニ イキルモノ ナンピトモ イマダ クチニセザルモノ ソレヲタズサエ エンセキノ ゴサントセヨ”



 大事なことだからか、それとも騒ぎ立てる俺達を見兼ねたのか、カラスは複数回言ってくれた。

 無駄に古風な言い回しなので、即座には理解が出来なかったが、シャウト先輩はえらく緊張した面持ちでその言葉を反芻している様子だ。


 えーっと……。

 つまりは……。

 あれ……。

 今だ誰も食べたことのないランチを提供しろってことかい……?


 シレっとお出しされる無茶振りに俺達が固まる中、カラスはバサッと翼を広げ、中天でその輝きを増した陽光を浴びながら、どこへともなく飛び去って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ