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第21話:デイスへ帰ろう




 バーナクルから帰った俺達はギルドの面々から随分と盛大な出迎えを受けた。

 俺達パーティーがヤゴメを撃破し、あろうことか完全に消滅せしめたというニュースがギルドバードによって伝えられていたのである。

 首狩り骸骨くんキーホルダーの真実を知る身としては複雑な心境だ……。


 戦闘の真偽の判定は簡単だ。

 魔物を倒すとその魔物が持つ魔力がギルドカードに吸着される。

 その性質を「鑑定士」が見て、倒した魔物の数、種類を判定するのだ。

 後はそれに応じてギルドカードに魔力のレコードを打ち込むだけである。

 倒し方は鑑定されないので、今回のようなインチキじみた戦果でもれっきとした撃破カウントになるのだ。


 今回の場合、俺のカードにはヤゴメ撃破、そして他のメンバーのカードにはヤゴメ撃破補助のレコ―ドが撃ち込まれているのだ。



「お前マジか! 結構やるヤツだと思っちゃいたが……伝説級の魔物を狩っちまうとはビビったぜ!」



 ホッツ先輩が肩を組んでくる。

 うおぉ!? 酒くせぇ!

 尋常じゃなく飲んでるこの人!!

 どうやら俺達が帰る前から前祝いと称して酒を浴びるように飲んでいたようだ。

 よく見ると誰も彼も赤ら顔で、酔いつぶれて倒れている連中もいる始末だ。



「長年の封印で弱っていたのかもしれないれふね……ユウイチしゃんしゅごいとおもいましゅ!!!!」


「いえいえわらひはゆうひひひゃんがはじめてきたときかりゃかのうへいかんじてまひたよ!」



 うわぁ……ギルドの受付のお姉さんらも随分出来上がってらっしゃる……。



「当たり前だろ! 登録者がデカい功績上げれば上げる程、国からの運営予算が潤うんだぜ!? そりゃ皆飲むわ騒ぐわだぜガハハハハ!!」



 そう言いながら、先輩は俺の口元に巨大ジョッキを押し付けてくる。

 うおぉ……!! 溺れる! 酒に溺れる!!



「テメェは加減を知りやがれ!」



 遠のく意識の中で聞こえてきたシャウト先輩の怒号。

 同時に「ガッ!」という衝撃が顔を襲ったかと思うと、俺を物理的に溺れさせにかかっていたジョッキが宙に舞った。



「ったく……功績者溺れ死にさせようとしてんじゃねーよこのバカゴリラが」



 落ちてきたそれを見事にキャッチしたシャウト先輩が、残った酒をグイっと一気に飲み干した。

かと思うと、「いってぇ……」と、ジョッキを蹴り上げた足に走る痛みに顔を歪ませた。



「おっ! そう言えば聞いたぜシャウトぉ……? こいつらが出発した後ずっと心配だ心配だって色んな奴に愚痴ったり、何かあった時に備えて依頼全部断ったり、報告が来るや否や即クラム湖まで走って行って、その後バーナクルまで不眠不休で走ったらしいじゃねぇか! いや~……俺も猛獣退治の依頼に忙殺されてなきゃ、それを間近で観察できたのになぁ!」


「てんめぇ!! 余計なことバラすんじゃねぇ!!」


「痛て! 痛てて!! いだだだだだ!!! 電撃はやめてくれ!」



 シャウト先輩やっぱりすげえいい人だ……。

 そのあまりにも強い思いやりに、目頭が熱くなる。

 堪え切れなくなったミコトとコモモが「シャウト先輩~!」と抱き着いて頬擦りをする。

 俺も思わず「先輩―!」と抱き着きにかかったが、「やめい!」と電撃のようなビンタをお見舞いされた。

 脳を揺さぶるような衝撃に、酒の過剰摂取も相成り、俺はそのまま意識を失って倒れた。




/////////////////////




 気が付くと、俺はギルドの医務室で横になっていた。

 重い頭を傾けて視線を動かすと、申し訳なさそうな顔をしてベンチに座っているホッツ先輩と、その横でギザ歯をギリギリと言わせて座っているシャウト先輩が目に入る。



「あ! 雄一さん目が覚めたっスか! よかったっス!」



 ミコトの声に振り返ると、パーティーの皆も俺の隣に並ぶ医務ベッドで寝ていた。

 エドワーズ達にはマービーとサラナが見舞いに来ていて、二人の生還と戦果を喜んでいる。

 俺が目を覚ましたのに気付いた二人が駆け寄ってきた。



「ユウイチ! ありがとう! エドを何回も守ってくれたんだってな! しかしお前本当にすげー奴だな!」


「酷い目にも遭ったけど、あなたの大金星を見て、大層やる気が出たみたい。ありがとう! あなたは私達パーティーの救世主よ!」



 手を握られ、ブンブンと激しい握手を交わされる。

 二人とも熱い涙を流しながら、俺を真っ直ぐに見つめてくる。

 やめて! そんな眼差しで見ないで!

 天界のチートグッズのラッキーヒットなの!

 俺全然活躍してないの!


 とも言えず、俺は二人の純粋な視線攻撃を直に受け続ける。

 少しばかり胃が痛くなってきた頃、俺に気が付いた先輩らが「すまんすまん。悪いことしたな」と歩いてきた。

 先輩らに譲る形で、マービーとサラナはエドワーズの元へ戻っていった。



「本当によくやったぞユウイチ。この一件で君の名は各地のギルドに轟いただろう。お前は偶然だと言ったが、名を上げる冒険者の多くは駆け出しの頃から偶然を引き寄せる幸運を兼ね備えてるもんだ。これからも頑張れよ!」



 酔いがさめたのか、真面目なトーンで語り掛けてくるホッツ先輩。

 よく見ると頭から所々黒煙が上がっている。

 今日の羽目の外しっぷりに関して、シャウト先輩から相当な説教を受けたようだ。

 そのシャウト先輩は、いつになく神妙な表情を浮かべている。



「他の3人にはもう言ったんだが、生きて帰ってくれてあんがとよ……マジで」



 俺の肩に手を置き、目をじっと見つめてきた。

 こうして見ると、この人やっぱり美人だな……。

 鋭く、凛々しい目つき、小さく、細い鼻筋、ツンと尖った薄い唇、そして何よりも鮮やかなオレンジ色の瞳が美しい。

 思わず見惚れていると、先輩は「へへ……アタシに直視されて目線外さなかったのお前くらいだぜ」と頬をペシペシと叩いてきた。



「アタシに気に入られた冒険者はどうも運気が落ちるみてぇでなぁ……。何はともあれ良かったぜ……。これからもビシバシしごいてやっから覚悟しろよな!」



 そう言うと、シャウト先輩は「オイ! さっさと猛獣とオークの残党狩りに行くぜ!」と、ホッツ先輩の腕をひいて医務室から出ていった。

 ふと、俺の腕が引かれたので何かと思うと、ミコトが膨れっ面でこちらを睨んでいた。



「雄一さんってば……そうやってすぐ女の子悦ばせるんスね」


「あれ? 今の浮気判定?」


「プーっス」



 結局、ミコトの機嫌は家に帰った後、深夜の組体操第3を完遂するまで治らなかった。


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