第4話:モテモテ手合わせ
「ユウイチ様! 私とお手合わせをお願い致します!」
「いえ! 僕がやります! こんな機会滅多にありませんのでね!」
「いや待って……。今日はもう体が限界……」
皇都に呼び出されてから5日目。
俺は酷く疲れていた。
本来は、「カラス」がやって来るまでの間、7~10日ほどかけて冒険者向けの知識教育プログラムとマナー講習が予定されていたのだが、そういうところはしっかりしてるシャウト先輩と、俺達転生&天使組は受ける必要が無いものだった。
文字の読み書きとか、テーブルマナーとか、まあ、平均以下の粗暴な冒険者を想定したような講座ばかりで、皇立騎士団の方々が冒険者に対して抱いてるイメージがありありと伝わってくる。
確かに、各地の伝統的行事で冒険者と会う機会がある法王庁や帝国議会の人らとは違い、騎士団や皇宮が冒険者と接する機会は殆ど無いけど、ちょっとステレオタイプが過ぎるかな……。
実際識字率はあまり高くない界隈だが、流石にテーブルに腰かけないとか、そういうレベルのマナーは誰でも知っている。
「てめぇ舐めてんのか!?」とかシャウト先輩がキレるのも已む無しだ。
流石に俺達の程度を図り間違えたと理解した騎士団の上層部は、急遽プログラムを変更したようで、「カラス」が来るまでゆっくりしていてくれとの通達が来た。
それが2日前のこと。
んでその翌朝、俺が初日に下した騎士団の子が俺の寄宿舎を訪ねて来て。
リベンジを申し込まれて。
また下したら今度は別の子が挑んできて。
騒ぎを聞きつけた騎士団の男子たちも挑んできて。
実戦慣れしてない彼らを20人斬りにしてやったら年上の人らも来て……。
あれよあれよの内に、延べ35人斬りしてしまった。
想像以上についていた自分の実力を知ることができたり、誇り高く礼儀正しい騎士団の皆とさわやかな良い時間を過ごせたりで、割と充足感に浸っていたのも束の間。
「冒険者と手合わせで負けたとなっては皇立騎士団の名折れ」と小隊長達からミッチリ説教を食らったらしく、翌日からその手合わせ攻勢は激しさを増した。
4日目、つまり昨日には俺の連勝スコアは50に達し、そして今日、今勝った相手を含めて64人斬りに至った。
このままではカラスが来るまでに100人斬り達成してしまいそうな勢いだ。
そしてそれは何としてでも阻止すべしと燃え上がる騎士団の面々。
もはや祭りのような様相だ。
「雄一さーん! ファイトっスー!」
「負けたら承知しねぇぞ~」
後ろからは先輩とミコトが声援を送ってくるので、俺も負けてはいられない。
愛ちゃんは勝ったり負けたりで、同年代の子達と一緒に和気あいあいと手合わせ、鍛錬に励んでいる。
俺もあっちのが良いんですけど……。
とか思っていると、一人の少女が前へ出てきた。
あ、君は……。
「この一日、ユウイチ様の戦いぶりをしっかりと観察させていただきました。今度こそ一太刀、受けていただきます!」
65人目の相手は初日に俺が下したあの子だった。
ほう……。
模擬戦用の木刀を短めのものに代えてきたか……。
確かにこの子は剣の長さに振り回されて太刀筋が直線的になっている節があった。
武器だけじゃなく、戦い方も工夫してきてるんだろうな。
「よろしくお願いします! それでは参ります! てやぁ!!」
挨拶もそこそこに、一気に間合いを詰めてくる相手。
おっと! おっとっとっと!!
カンカン!ココン!と小気味のいい音を立てて交差する3つの剣。
なるほど、手数で勝負を仕掛けてきたか……。
ただ、数の勝負なら双剣の方がずっと有利だ!
俺は彼女の振るう剣を弾き返し、連撃に次ぐ連撃を浴びせてバランスを崩した彼女の胸元をXの字に斬り結ぼうとした。
直後。
「ウィンドショット!」
「んな!? っと!!」
彼女の左手から突然飛び出した風魔法に驚いたが、俺は冷静かつ迅速にそれを回避する。
その小竜巻は誘導するような挙動を見せたので、氷魔法で即座に相殺した。
しまった……。
魔法速射の指輪が左手の指に嵌っているのを見落としてた!
「くっ……!」
慣れない戦い方をしたせいか、魔法を撃った相手の方がすっ転んでいる。
大丈夫か?
「あれは卑怯じゃないのか?」
「騎士にあるまじき戦法では……?」
等と、相手方からは今の不意打ちへの疑問が飛び交っている。
その言葉に、グッと唇を噛む相手の子。
いや、彼女は間違ったことはしていない。
この手合わせに魔法禁止のルールは無かったはずだ。
むしろ、彼女の勝利への執念は称賛こそされ、批判されるべきものではないはずだ。
「いやー! 悪い悪い! ちょっと面食らったが、魔法禁止のルールは無かったな! 俺の確認不足だ。今の奇襲は見事だった!」
俺はわざと大きい声を上げ、彼女に手を貸した。
相手は驚いたような顔を見せたが、ふっと嬉しそうな顔になり、その手を取ってくる。
俺に勝つことを目標に作戦を練ってきたんだ。
俺が認めてやらないと、彼女の想いは報われまい。
まあ、それはそれとして……。
「魔法禁止じゃない。そうだよな?」
「え……は……はい……。 !?」
彼女の眼には、俺が一瞬で消えたように見えただろう。
いや、実際消えてるんだけどさ。
「勝負あり、だな?」
「は……はい……」
テレポートで背後に回り込んだ俺は彼女の首の下で双剣を交差させ、上下逆のギロチンバサミのようにして見せた。
魔法有りの何でも勝負なら、俺の方が数段上のようだな。
これで65勝、今日はここで止めておこう。
そんなことを考えながら少し勝利の余韻に浸っていたのだが、なんか興奮してる観衆を見て気が付いた。
これ……明日から皆魔法有りで来るんじゃねぇの……?





