第3話:手合わせ! 皇立騎士団!
生き残って帰ってきた者たちの証言によって判明している魔女会議の概要と手筈はこうだ。
まず、「カラス」が大陸中の都市を飛び交い、その年の魔女会議の日より、時間、場所を触れ回る。
これは多くの場合、会議の7日前とされる。
接待役はその場所へ早急に赴き、魔女からの「オーダー」を確認する。
このオーダーというのがその年の魔女達が望む供物であり、それを大至急取り揃え、彼女達の到来を待つ。
ちなみにこれを揃えられなかった場合、最低でも街一つが一瞬で消滅するらしい。
魔女たちが到着すれば、その供物を捧げつつ、彼女達の会議を邪魔しないよう、静かに聞き耳を立てる。
会議とは言うが、その実態は互いの近況報告程度のものであり、その多くは他愛もないものばかりだそうだ。
ただ、その会話の中に、次の会議までに大陸で起きる何らかの事象、事件、天変地異が混ぜられていることがあるため、そういったフレーズは必ず何かに書き記さなくてはならない。
そして最後は唐突にお開きが言い渡され、魔女たちはどこへともなく去っていくとのことだ。
この時、選ばれし者は何らかの神託の類を受けるらしく、俺達にもそれが巡ってくる可能性が高いという。
「やっぱり結構な理不尽さですね!」
「ああ。だが仕方がない。彼女達は神や悪魔に準ずる存在。決して逆らってはならない」
俺のボヤキに、小隊長が首を振りながら応えた。
どのみち使命も指名も逃れられないことを悟った俺達は、今大人しく魔女会議の準備を進めている。
まあ準備と言っても、「カラス」が来ないことにはどうにもならないので、ひとまずは座学だ。
手始めに前述した魔女会議の概要と、魔女会議の歴史。
それ即ち伝説の時代から、この帝国の歴史書に載っている範囲までをザックリと教わったのだが、昼前に始めてもう空が赤く染まっている。
この行事が帝国や皇立騎士団にとっていかに重要かはよく分かったが、これがもし歴史の試験範囲だったなら、とんでもないクソ暗記項目だ。
何が酷いって面白くない。
人物名は異常に多くて非業にして無意味な死を遂げた人が多すぎる。
これなら平安~鎌倉の元号とその年の出来事を暗記する方がよほどマシだろう。
この世界で歴史の教師にはなりたくないもんだ。
あまりにもつまらないので「この調子でカラス待ってたら体が鈍るなぁ」とか冗談を飛ばしたら、騎士団員が毎日模擬戦の相手をしてくれるよう手配してくれた。
この人の前では冗談は言わない方がいいかもしれない。
そういうとこちょっとコトワリさんに似てるな……。
今どこで何してんだろあの人……。
「今回はこの辺にしておこうか。あまり頼み事と説明ばかりでは君たちも退屈だろう」
そう言うと小隊長は分厚過ぎる教科書をしまい、俺達を部屋の外へと連れ出す。
完全に寝落ちしていたシャウト先輩とミコトも、寝ぼけ眼を擦りながらついてきた。
小隊長の後をついて細い廊下を抜けると、少し開けた中庭があり、そこでは数名の鎧を着た少女達が剣を振るっている。
「さあ、ここが我々皇立騎士団の鍛錬場だ。存分に腕を磨いてくれ」
ああ……。
そういう感じにシームレスで続くんですね……。
さっき口走った言葉が、当然の如く、その日のうちに反映される。
全ては俺達のコンディションを完璧な状態で保つために。
今更ながら、この行事に対する本気度が高すぎる……。
小隊長は、近くで剣技の模擬戦をしていた二人を呼び、俺の元へと連れてきた。
「今日は彼女達を相手に手合わせをするといい。では私は今日の日報をつけてくるので、しばし失礼する」と言って、去っていく小隊長。
凛々しく麗しい騎士団員の戦乙女二人は、俺と愛ちゃんに向かい「よろしくお願いします!」と、お手本のようなお辞儀をしてきた。
こういうことされると、「やっぱやめます……」とは言えないよなぁ……。
俺も彼女達に倣い、頭を下げた。
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当然、訓練に訓練を積んだ騎士団員のこと。
俺などが手も足も出るはずもない……。
とか思っていたのだが、これが意外にいい勝負が出来ている。
「はっ! はぁっ!!」
「せい! やぁ!!」
彼女はお手本のように見事な身のこなしで俺の胴や手首、頭を的確に狙ってくるが、その太刀筋は余裕で読める。
俺はその筋をかわし、木製双剣でいなし、生じた隙を突いて幾度か反撃に転じる。
彼女は固い鎧と小楯でそれを弾き返してくるが、被弾には違いない。
実戦なら時として命取りになり得るだろう。
しかし、この感覚……。
シャウト先輩につけてもらった稽古の賜物だ。
無駄な動きを省き、逆に敵の無駄な動きの隙を突く。
シンプルなようで難しいそれを、俺は今、不完全ながら掴みかけていた。
「やあああああ!!」
一撃も加えられないことに焦った相手が、大きく踏み込んで間合いを詰めてきた。
上段からの斜め切り……をすると見せかけて、シールドバッシュを連打。
そのまま重量を乗せた捨て身のタックルで俺の体を剣の下に組み臥す。
と、相手が挙動を組み立てているのは分かっている。
だから俺は敢えて術中に嵌ったと見せかけ、シールドバッシュの連打を敢えてX字に組んだ双剣守りの型で受け止め、押されるがままに後退する。
そして相手が乾坤一擲のロングソードタックルを仕掛けてきた瞬間、体を瞬間的に横滑りさせ、その射線から離脱した。
「なっ!?」
突然視界から消えた俺に、相手が驚愕の声と共にグラリと姿勢を崩した瞬間、俺は横合いから一気に間合いを詰め、片方の剣を喉元に、もう片方の剣を肩口に軽く押し当てた。
「勝負あり。ってね」
「ま……参りました……」
団の中では実力者だったのか、見守っていた騎士団員達に一瞬ざわめきが起きたが、やがてそれは俺達の戦いを称える拍手に変わった。
あ……。
この感じ、結構好きかも……。
「見事な戦いぶりでした。ありがとうございました」
「君も美しい剣捌きだった。ありがとう」
そう言って握手を交わす。
こうやって手合わせをすると、楽しくおしゃべりしただけとは明らかに異なる、より強い結びつきを感じるから不思議なもんだ。
愛ちゃんは惜しくも負けてしまったが、彼女もまた、清々しい表情で相手と握手している。
戦った相手皆とこう有れればいいのになぁ……。
俺は少し前、影の遺跡ダンジョンで戦った敵の脇腹に双剣を突き立てた時の感触を思い出していた。