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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
第1章:オーダー! 恐怖の魔女会議
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第1話:皇都入城




 色々あって、俺達は今法王庁の馬車に揺られて帝国議会と皇宮のある、「皇都」と呼ばれるアルフォンシーノの中心部へと向かっている。

 なにせ巨大な都のこと、ギルド本部から馬車で2時間余りかかるらしい。

 一応国家の戦力に当たる冒険者ギルドだが、直轄の軍組織に比べると都の隅の方に位置しているのは、多分クーデターなどを警戒してのことだろう。



「依頼の承諾感謝する。仲違いは解消できたようで何よりだ」



 あの依頼文を持って来た皇立騎士団の小隊長が、腕組み脚組みで対面から話しかけてきた。

 まあ、一応は……ね?



「ぷーっス」


「けっ……」


「わ……私はああいう事情なら仕方ないとは思ってますよ……?」



 俺の視線にそっぽを向くミコトと先輩。

 そして顔を引きつらせながら笑って見せる愛ちゃん。

 皆「魔女から直の依頼とあれば受けないとどうしようもない。受けないと最悪でも俺達の皆殺しは避けられない」という一点だけは了承してくれたのだが、ミコトは俺が散々鼻の下を伸ばしていたこと、シャウト先輩は先輩の了解も得ずに即答した俺の態度が気に食わなかったようだ。


 二人の考えは分かる。

 いくら魔女パワーがあったとはいえ、胸を堪能してしまったのは事実だし、いくら身の危険を感じたとはいえ、リーダーに相談もせず勝手に命を捨てにかかるのは、パーティーメンバーとしては駄目駄目だ。


 亀裂……。

 とまではいかないまでも、ちょっとパーティー内の雰囲気はよろしくない。



「わ……わぁ~……街の中なのにこんな広い緑地もあるんですねー」



 空気に耐えかねた愛ちゃんが、車窓から見える景色を実況し始めた。

 見れば、確かに街の中に不自然なほど広大な平野が広がっている箇所がある。



「ああ。ここは皇立騎士団の演習場さ。ここで整列や行軍の訓練を行うんだ。今の世では使う機会もすっかり減っているがね」



 小隊長が少し寂しそうに言った。

 なんでも、遥か昔の大陸統一戦争、そして先代魔王との人魔戦争より後には長く平和な時代が続いたため、皇立騎士団を始めとする帝国軍は縮小の一途らしい。

 少々の小競り合いなら軍を動かすよりも冒険者ギルドに外注した方が安上がりという理由で、騎士団も正規軍も仕事がすっかり減っているそうだ。


 まあ確かにこの大陸は帝国が支配してるし、その帝国というのも看板だけで、実権の多くを掌握するのは帝国議会。

 旧貴族院と、選挙によって選ばれる民生院があるが、旧貴族院の議員たちとて戦争とも、貴族特権とも縁の薄い世代だ。

 実質、小金持ちと平民しかいない。


 大体世の中がそうなると、市民生活向上がモットーになってくわけだが、その際、財源の捻出先として、財政負担の大きい軍事関連は絞られるのがお約束だ。

 旧貴族出身者の誉れとされた皇立騎士団も、彼女が14歳にして入団した時に比べて、規模も設備も、何なら日々の食事さえ年々貧相になっているそうだ。


 そんな愚痴をタラタラと話した小隊長だが、不意にハッとした顔になり、「い、いや決してこの誉れ高き帝国に不満があるわけではないのだぞ!?」とあたふたし始めた。

 良かった。

 この人にもちゃんと俗な部分あるんだ。



「んじゃ、お前らとしてはこの件は大層腹に据えかねてんじゃねぇのか?」



 それまで無言で窓の外を眺めていたシャウト先輩が口を開いた。

 小隊長はドキッとした顔をし、そしてすぐ、気まずそうな表情で「ああ……」と小さく呟いた。

 え?

 そりゃ一体どういう……?



「そりゃそうだろ。今や戦もねぇし魔物も少ねえ。大討伐だって冒険者ギルドで事足りる。ただでさえお飾りだの金食い虫だの言われてる中、命を賭けて接待役をするのが騎士団だったんだろ?」



 ああ……。

 そうか……。

 彼らからすれば、そういう儀式的な慣例さえも、とうとう冒険者ギルドに持っていかれた形になるのか……。



「正直、団の士気はガタ落ちだ。数十年に一度とはいえ……あまり言いたくはないが、我々の中から魔女の犠牲が出ることで、世間へ存在意義を誇示出来ていた節がある。生きて彼女らの話題を持ち帰れば、それこそ英雄だった。我々騎士団はそういった儀式のため、身なり、学識、礼儀作法、そして規律ある集団機動を日々訓練していたのだ。それが我々の代においては無駄になるというのだからな……」



 無骨な正規軍に対して、騎士団は極めて煌びやかな部隊だ。

 議会の承認を持って動く正規軍とは異なり、古式ゆかしくも皇帝の一存をもって動くわけだが、そこには皇帝の威厳だとかこの国の力の象徴を見せるという儀式的要素が含まれる。

 この一件は、そんな騎士団の権威に、ひいては皇帝の威厳にさえ影響が出る案件というわけだ。



「しかし我らは誉れ高き陛下の命の元に生きる部隊。陛下の命とあれば、貴様らの接待を全力をもって支援させてもらうつもりだ」



 小隊長は組んでいた手足を解くと、ビシッと背筋を伸ばし、俺を直視しながらそう言った。

 その言葉と表情の迫力に、俺は少し気圧されてしまう。

 小隊長は「ただしかし……」と言葉を続ける。



「我らの無念と皇帝陛下の権威をその肩に乗せて臨んでいただきたい!」



 と、深々と頭を下げてきた。

 ほら!

 そうやって責任増やすじゃん!!

 そんなこと言われたら真面目に職務全うするしかないじゃん!


 大学の頃、大きな力にはそれに比例して大きな責任が乗ってくるとか、歴史だったか政治だったかの教授が言っていた覚えがある。

 俺が与えられた力に対して乗ってくるであろう責任、使命を無視して釣りを続けた結果がこれだとしたら、大した揺り戻し効果もあったもんだ。


 そんなことを考えていると、馬車は厳重に警備された分厚い壁内砦をくぐり、この国の脳であり心臓である、皇宮、帝国議会、そして法王庁が軒を連ねて聳え立つ皇都へと入った。

 背後から石と鉄で作られた扉の閉まる音が、嫌に大きく聞こえてきた。


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