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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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エピローグ:悲しい命の季節




「かかったよ~! みんな~! アシストお願いだ~!」


「「「アラホラサッサー!!」」」


「お手伝いします!」



 ターレルの握る綱が、ビン! と張り、海面でバシャバシャと巨大なヒレが躍る。

 彼が掴む縄に連なり、応援にかかるターレルの仲間たちとレアリス一行。


 ここは干潟と運河の境界部にせり出した即席ヘッドランド。

 土属性魔法使い数十人を導入し、一晩でこしらえたものらしい。

 俺達の為だけの、今日の特設ステージだ。



「さあ! 記者諸君! ガンガン描いて、書いて、刷りまくってちょうだいよ! 大陸全ギルドで配布だからこんなに美味しい話ないでしょ!」



 後ろの方では都ギルドのギルドマスターが新聞記者達へ発破をかけている。

 そのさらに後ろには、物見遊山にやってきた野次馬たちが人の山を作っていた。

 あ! マーゲイの奴! チーム揃って物販してやがる!



「ねぇ……何か私達良いようにコキ使われていませんこと?」


「まあ、いいじゃないですか。我々は法王様直属の戦力ですから」



 ターレルの縄に引っ張られ、徐々に近づいてくる特徴的な背びれ目がけて、それぞれ杖と剣を構えるネスティとフェイス。

 あっちは放っておいても大丈夫そうだな。


 おっ!

 こっちにもアタリが!


 俺は竿を大きく煽り、アングラ―スキルを発動させる。

 むむっ! 結構いい引きじゃないか!

 だが、これまでの化け物に比べれば大したことないな!



「先輩! お願いします!」


「うーい……」


「やる気ないですね!?」



 ロッドを寝かせて、暴れる背ビレの主の動きを抑え込みつつ、強引に寄せてくる。

 運河から干潟へと伸びる、深く掘られた船道の水底から現れたのは、デップリとしたサメの頭部に、ニョロニョロと伸びる長い尾を持った魚影が浮かび上がってくる。


 サメガエルの幼体……サメジャクシだ!

 「うーわ……気持ち悪っ……」と言いながら、俺の竿の先で暴れるサメジャクシへ指先を向けるシャウト先輩。

 先輩ニョロニョロヌルヌルしたもの嫌いなんすね……。



「エレキショック!」



 先輩の指先から放たれた細い電流がサメジャクシに命中する。

 直後、ビクンビクンと痙攣して白い腹を見せて浮かび上がる丸い魚体。

 そこへ「せいっス!」と、ミコトがギャフを投げ込み、愛ちゃんと協力して砂浜へとずり上げた。


 幼体のブヨブヨとした身体は、陸に上がった途端に潰れ、溶け、グズグズに崩れてしまった。

 うわぁ……こりゃ食えないわ……。

 「うえぇ~……」と舌を出す先輩。


 それとほぼ同時に、隣のターレルチームのサメジャクシにも、ネスティのサンダーシュートとフェイスの斬撃が命中し、ぐるりとひっくり返って浮かび上がった。

 客席(?)からは歓声が上がり、その様子を、後ろに並ぶ記者達が大急ぎで写生していく。

 なんか非常に大仰なことになってるが……。

 これにはちゃんと理由がある。


 全ての発端は瞬撃のシュンの死。

 そして、彼の残した言葉と、コトワリさんの推測。

 ダゴンと悪の転生者が目論む「サメ魔物の恐怖によるダゴンのこの世界に対する影響力強化」

 これを阻止するための第一歩が、このスクープなのだ。


 あのサメガエルはどうやっても封印が出来なかった。

 それはつまり、既にこの世界の魔物として存在が確定してしまっているということ。

 その証拠に、サメガエルの巣には卵が孵化した痕跡があり、繁殖活動が行われていたことが確認されたのだ。


 となると、もう拡散前の封印というフェーズは過ぎ、このサメガエルが……いや、ミコトのライブラリにいたサメたちの何種かが大陸へ拡散していることを前提とした対策を講じなくてはならない。


 その手段として法王庁が下したのが、この「サメは普通の魔物 怖くない」作戦である。

 「サメと呼ばれる新種の魚型魔物がこの世界に生まれ、水辺で活動している、それをギルド特務戦力が早速撃破した」というニュースを、恐怖の広まりに先立って流してしまおうという寸法なのだ。


 未知の恐怖に対して人は脆いが、それが対策可能と知れば、恐怖心は大幅に減衰する。

 サメ映画の影響により恐怖の対象とされ、絶滅寸前まで狩られてしまったシロワニが、近年本来の温厚で好奇心旺盛な愛らしい性質を持つと知られたことにより、今ではダイビングの人気者になっている例など顕著なものだろう。


 何ら普通の生物や魔物と変わらない、冒険者が狩れる獲物と大陸中に知れれば、ダゴンや悪の転生者達の目論見が大前提から崩れる。

 そのため、俺達は今、わざわざ見世物のようになりながら、仲良くサメジャクシ駆除に勤しんでいるのだ。



「ほっほっほ……いやはや、まさに魚のこととなれば君は百人力じゃのう」



 突然背後から話しかけられ、俺はビクッと跳ねる。

 シャウト先輩は悲鳴を上げながらもっと大きく跳ねた。

 ほ……法王サマ……!? いつの間に!。

 何のご用件で……?



「ワシも釣りを嗜む身、新種の魚型魔物発見と聞けば来たくなるのが普通じゃろうて」



 そう言って笑う法王サマ。

 相変わらず驚異的に軽快なフットワークだ。



「法王サマ。これが依然言ってた、俺が何かを成すときなんですか……?」


「さあのう?」



 この爺さん肝心なことははぐらかしやがる!

 ていうかこの人割と対策後手後手だし、実際には何も分かってないのでは……?



「ほっほっほ……。じゃが……。まだまだ君の出番は終わっとらんのう」



 法王サマはそう言うと、悪戯っぽく笑って見せ、そして小声でボソリと呟いた。



「君はもう、後戻りできない域に入った。おめでとう」



 そう言った時の法王サマの顔は、これまで見たことがない、心底嬉しそうで、そして、どこか不穏な雰囲気さえ漂わせていた。

 この人は……一体……。


 法王サマはそれっきり普段の柔らかな笑顔に戻り、先輩と愛ちゃんに一瞥を交わすと、特務戦力のメンバーや記者達を激励して回り、数人の護衛を引き連れて野次馬連中の元へと歩いて行った。



「この子も、こんな形でこの世界に生まれたくはなかったはずっスよ」



 ミコトが悲しげな声で、無残な姿を晒すサメジャクシに向かって呟いた。

 俺は彼女の肩に腕を回し、頭を優しく撫でる。



「俺も、こんなただの駆除みたいな釣りはやりたくなかったな」



 蜃気楼さえ見える熱気の中、俺は再び、キバスズキの泳がせ仕掛けをキャストする。

 今年の盛夏は、不穏と、もの悲しさを孕んでやって到来したのだった。


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