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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第54話:ミコトポインポイン事件




「あぁ!? コトワリが里に帰ったぁ!?」



 俺の報告に、素っ頓狂な声を上げる先輩。



「帰ったって……アタシに何も言わずにか!?」


「え……ええ。なんか所属してる研究機関から突然緊急の呼び出しがかかったとかで血相変えて」


「ありえねぇだろ!? 何事だよ!」


「調査してた案件で、深刻な情報漏洩があったとかで、ヤバいらしいです」


「にしたって……パーティーの長に一言くらい言えよなぁ……」



 「はぁ~……」とため息をつき、ソファーにもたれかかる先輩。

 その目線は夕日が照らす窓の外、コトワリさんが「完成が楽しみだ」と言っていたフカヒレの干し網に向いている。

 パーティーの中で唯一対等にものを言い合える関係だった相手が突然いなくなり、少し寂しいようだ。

 短い間ではあったけど、結構な頻度でご飯食べに行ったりしてたみたいだし。

 いつか二人が窓辺で話していた「近々これで一杯やるか」というのは、恐らくもう叶わないだろう。



「用事が済んだらいつか戻ってくるって言ってたので、縁があったらまた会えますよ」


「そう言って……戻ってきたヤツは一人もいねぇんだよ……」



 のけ反るほどソファーに身を沈め、先輩がボソボソと悪態をつく。

 なんか……想像以上の凹みっぷりだ……。

 先輩って自分の元から人が去るのを執拗に恐れる節があるよなぁ。

 前にボソッと言ってた俺達に対する隠し事ってのに、その理由が隠されてたりするんだろうか。

 まあ、俺は余計な詮索をしない主義だが。



「あ? ってことは、アイのやつ一人っきりになってんじゃねぇのか?」



 先輩がのけ反ったまま、目線だけこちらに向けてくる。



「ええ、部屋が広く静かになったって悲しむやら清々するやらみたいですよ」


「あ~……。あいつ細々したことに煩そうだもんなぁ……。一人で暮らせんのかアイは?」


「まあ一応は。困ったらウチに来るって言ってましたよ」


「そうか……。お前あいつのことちゃんと見てやれよな。コトワリなしでクエスト受けようとしたり、質の悪い奴らと一緒にクエスト受けたりしねえように目ぇ光らせとけよ」



 

「先輩が俺達にしてくれたみたいに、ですか? 痛ぇ!!」



 照れ隠しのノールック脛蹴りを食らい、フロアに沈む俺。

 しかし、シャウト先輩が俺達を一党に無理やり引き入れてから、影でやっていたことはもう知っている。

 ちょっと頭角を現し始めた駆け出し冒険者ほど危うい立場は無い。

 ~自警団だの、~冒険隊など、妙な団体からの勧誘がドッと増え、「まあちょっとだけなら……」で乗ったが最後。

 死ぬほどこき使われて、当てが外れたらポイなどということはままある話だ。

 俺の知り合いもその憂き目にあい、黒い花環を賜ることになった。


 愛ちゃんは俺の正式な舎弟であり、彼女を守る義務は本来俺にある。

 コトワリさんが怖くて尻込みしていた連中が、名を上げていく愛ちゃんを狙わない道理はないだろう。

 俺も先輩として、やるべきことをしないとな。


 ちょっと手始めに、愛ちゃんを夕食に誘うとしようか。

 先輩はもう夕飯食べたらしいし、ミコトは東方高原のお姉さま方にお呼ばれしてるし……。


 と、俺が外出する手筈を整えていると、玄関から「ドン! ドン!」と、重厚感あるノック音が聞こえてきた。

 何だ!?


 覗き窓を開け、外を見ると、なんか、丸い物体が見える。

 その色は、どこか今朝ミコトが着ていた服に見えるんだが……。

 恐る恐るドアを開けると……。



「雄一さぁん……ちょっと食べ過ぎちゃったっス~」



 という声と共に、球体がゴロゴロと転がり込んできた。

 うおぉ……!

 重……!!



「ミコト……! お前……何でこんなことになってんだ……!!」


「東方高原のお姉さん達が取り寄せてくれたお菓子が美味しかったんスよ~……」


「お菓子食べてこんな丸くなんないだろ!!」


「ひぃーん!! 雄一さんが私のこと丸いって言うっス~!」



 俺の上でボヨンボヨンと跳ねながら、嘆き悲しむミコト。

 やめて! マジで止めて!!

 圧死しちゃう!!

 騒ぎを聞きつけて出てきた先輩も「うお!? 丸っ!!」と叫んで固まっている。



「ご……ごめんなさい!! ミコトちゃんがすごく美味しそうに食べるから、ついつい加減し損ねてしまって!」



 丸い体の隙間からわずかに見える玄関扉の外から、東方高原ギルドの女冒険者チームのリーダー「レアリス」が申し訳なさそうな顔で覗き込んでくる。

 よく見ると、他のメンバーもいるようだ。



「一体何食わせたんですか!?」


「いえ……故郷で流行ってる、ムクムクっていうお菓子を……」



 ミコトの下敷きになりながら聞いた話では、そのムクムクというお菓子、栄養抜群で、美味しくて、丈夫な体を作るとかで、東方高原で大ヒットしているらしい。

 某カロリー補給系の焼き菓子みたいな形だが、一片口に含んだだけでブクッと膨らみ、あっという間に満腹感に襲われる。

 小食な彼女達は、それ一本で1週間のクエストをこなせるという。

 これをミコトはしこたま食ったと……。


 大食いの女の子が可愛くてモテるという価値観を持つ彼女達からすれば、自分達が少ししか食べられないこのお菓子を次々平らげるミコトはさぞ美しく、気高く、そして可愛らしく見えたことだろう。

 そして止め時を見誤り、気が付いたらこんなミコトボールが出来上がっていたと……。



「ごめんなさい! でもこの状態は長く続かないわ! 一晩寝れば元に戻るはずよ! でもごめんなさい!! こんなポインポインにしてしまうつもりはなかったの!」



 平身低頭で謝り倒すレアリス。

 悪気はなかったようなので許すが……。

 この子食べた分だけ吸収しちゃうエンジェルボディーなので、あんまりいっぱい食わせないでください……。



「でも美味しかったっスよ~……。今度は私が皆さんに手料理振る舞うっス~」


「み……ミコトちゃん!!」


「うう……ありがたき幸せ……」


「ミコトちゃん……いえ……ミコト様!!」



 ミコトの優しい言葉に感動し、彼女のお腹へ顔を埋めて涙を流す東方高原ギルドの皆さま。

 見かけは気高く高潔なエルフの末裔って感じなんだが……。

 割と真逆なのねあなた方……。


 シャウト先輩が「オラ! いつまでへばりくっ付いてんだ! 散れ!」と、彼女らを追い返すまで、彼女達は恍惚とした表情でミコトの腹を堪能していた。

 くっ……!

 ミコトのフワプヨボディーは俺だけのものなのに……!!


 やがてミコトは「食べ過ぎて眠いっス~ おやすみなさいっス~」とか言いながら、寝室までコロコロと転がっていった。

 ありゃ俺が寝るスペースねえな……。


 ……。

 愛ちゃん家行った後、朝まで釣りでもしてるか……。


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[一言] ミコトかわいい
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