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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第49話:影の遺跡迷宮 大魚類バトル




 闇に包まれた骨の広間に、バキバキ! ビキビキ!という音が響く。

 イシガキデメニギスが、エビザメの尾部を齧り取る音だ。

 どう見てもミコトデザインのエビザメだが、明らかに陸上で満足に戦える体つきではない。


 一方で飛行能力を持つイシガキデメニギスは、暗闇を物ともせず、完全に餌を食う要領でエビザメを齧り、逃げ、また齧り……のヒット&アウェイを繰り返していた。

 既にエビザメの歩脚は全てへし折られていて、満足に這うことも出来ない。



「くそっ! 何だこいつは!!」



 そして敵の足元をグルグルと回遊するのはヒゲウバザメ。

 塩の砂底に潜るのと同じように骨の山へ潜り、骨の山を波打たせて敵のバランスを崩しにかかっている。

 どうやらこいつは、鼻先とヒレから放つ振動波で地面を緩ませ、潜行するようだ。

 しかもその振動波を発射することも出来るらしい。

 ミコトなかなか考えた設計にしてたんだな……。


 敵がエビザメを繰り出したカードが俺の持つそれに酷似していたので試したのだが、まさか本当に召喚できて、しかもある程度操れるとは……。


 先ほどまで余裕の表情だった相手の顔が、初めて驚愕に揺らいだ。

 俺はその機会を逃すまいと、双剣を抜き、敵に斬りかかる。

 と、見せかけて氷手裏剣!!


 しかし敵もさるもの、瞬間移動のような挙動で、僅かに位置をずらし、氷の刃を回避した。

 今度はそこに思いきり斬りかかる……。

 と見せかけてアイスシュート!!


 俺は徹底して直接的な激突を避け、相手に嫌がらせのような攻撃を浴びせ続ける戦法に終始する。

 とにかく、相手が俺を全力で攻撃してきたら負けだ。

 あわよくば一太刀でも打ち込み、撤退まで追い込めれば御の字か。



「クソがっ!! 手加減してりゃ雑魚の分際で!! くっ!」



 敵が何かを出そうとすれば、すかさず地中(骨中?)からヒゲウバザメが振動波で妨害し、そこに俺が攻撃を打ち込む。

 いかなるチート持ちでも、呪文詠唱、召喚詠唱中の僅かな時間は無防備だ。

 とにかくその一瞬をしつこく、いやらしく狙い続ける。


 しかし、妙だ。

 敵は俺や愛ちゃんのスキルを見て、雑魚と一蹴できるほどの強さ。

 それがなぜ、俺のやけっぱち戦法でペースを乱されているのか……。

 相手の演技の可能性もあるな……。

 とにかく警戒を怠らず、僅かな兆候も逃さず、接近戦をとことん避けて戦い続けよう……!!


 過去最大級に脳をフル回転させ、技の出を妨害し続ける俺に、とうとう痺れを切らしたのか、敵は骨の間の出口と思しき横穴方向へ後退を始めた。

 後方で一旦息を整え、反撃に転じる気か……!

 させるか!


 俺も飛行スキルでそれに伴って前進し、氷手裏剣を乱れ撃つ。

 最初はオーバーリアクション気味に回避していた敵だが、徐々に、易々と回避し始める。

 読まれだしたか……。

 だけど、一応今押してるのは俺。

 このまま退却してくれればいいんだが……!

 しかし、そんな淡い期待は、やはり裏切られた。



「調子に……乗んなぁあ!!」



 200mは先に居た敵が、目の前に現れ……。

 そして消える……。



「ぐっ!!」



 小さな苦悶の声が上がった。


 敵の。



「どうだ……! まさか反撃が来るとは思わなかったろ……!!」



 俺は双剣を逆手に持ち替え、後ろめがけて思い切り突き立てたのだ。

 そしてその刃先が、相手を捉えた。


 敵が俺の眼前に出現した瞬間、その目は俺の背後を見つめ、その拳は後方へと引かれる最中。

 およそ、そのまま攻撃を加えてくる姿勢ではない。

 となれば、さっき俺に披露した、背後からの急襲が来ると思ったのだ。


 シャウト先輩に教えられた、視線と姿勢で敵の思考を読む訓練の実演である。

 見事俺の読み通りに動いた敵の腹部に、刃が深々と刺さっている。

 だが……手ごたえがない……!

 あとなんか刺さったとこから火花みたいなの出てる!!

 なんか見覚えあるぞアレ!



「ぐっ……クソがぁ!! なんで痛みが……!!」



 敵は悶え、苦しみ、ゆっくりと後退していく。

 同時に、感知スキルの脅威度が急速に下がる。

 それに合わせるかのように、ゆっくりと敵の体が黒い粒子になって消滅を始めた。

 こいつ……! 分身体か何かか!



「後悔……ぞ……お前も……帰……だろうが……」


「顔を見せなさーい!! たああああ!!」



 敵が俺を指さし、何かを言おうとした時、その背後から愛ちゃんの炎魔力弾が飛んできた。

 その火炎はローブを焼き、その下の素顔を……。

 俺が目視できそうなところで、敵は顔を背け、瞬撃のシュンくんの亡骸を掴むと、黒い虚空へと消えていった。



「た……助かったぁぁぁ……」



 全身の力が抜けてへたり込む。

 多分、分身体だったからあんな半端な強さだったんだろう。

 もしかすると、シュンくんの遺体を入手するために強力な魔法が使えなかったのかもしれない。


 どうにせよ、俺と愛ちゃんは一命をとりとめた。

 「先輩大丈夫ですか!?」と駆け寄ってくる愛ちゃんの目には、涙が溢れている。

 怖かったんだなぁ……。

 背中に右手を回し、軽くさすってやると、「う……うわあああ!!」と声を上げて泣き出した。

 よしよし……。


 召喚したヒゲウバザメとイシガキデメニギスをカードに戻し、俺はこの不気味な部屋から出ようと立ち上がる。

 愛ちゃんもしばらくしゃくり上げたのちに落ち着きを取り戻し、俺に続いて立ち上がった。


 あ、そういえば……。

 あのエビザメ回収しないと。

 俺はコトワリさんに預かっていた予備の封印カード一枚を取り出し、エビザメへと投げつけた。

 不利極まりない環境下でイシガキデメニギスにさんざん齧られた痛々しい魚体が光の粒子となってカードの中に消えていく。

 後に残ったのは、齧り棄てられたしっぽの一部と足の一部……。

 ヒゲウバザメといい、切り離された部位は消えずに残るのか…?



「先輩、お腹減りません?」



 愛ちゃんがその残骸を見つめて、ぼそっと呟いた。


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