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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
1章 釣りバカ異世界生活 春

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第19話:バーナクルの怪




 ブリーム平原西方を騒がせた魔物、猛獣騒動。

 その犯人は陸に上がった巨大イカだった。

 本来の産卵場であるクラム湖で何か異常が起きている。


 そんな旨の報告書をギルドバードに付けて飛ばし、俺達の調査クエストは3日を残して無事終了した。

 こういう場合、残りの日数は現地でノンビリと過ごしてもよいという暗黙の了解がある。

 まあ、帰ろうにも迎えの便が来ないので現地待機しか出来ないわけだが……。

 そしてもう一つ問題がある。



「臭い取れてるっスか……?」


「うーん……まだ何か生臭いです……」



 衝立の向こうから女子たちの話し声が聞こえる。

 俺たちは今、あのイカの激臭墨でついた臭いを落とすべく温泉に浸かっているのだ。

 クエストを終えた昨日の夜、今朝、昼、今晩と、かれこれ10時間超洗っては浸かり、洗っては浸かりを繰り返しているのだが、なかなかにしつこい臭いである。

 ミスト状になったものを浴びた程度でこの臭いなのだから、直に食らえば猛獣でも卒倒するだろう。

 あの高地からイカ以外の生物が逃げ出した理由がよく分かる。



「うぅ……。こんな体じゃ雄一さんに愛してもらえないっス……」



 俺たちが泊っている宿の温泉は男女の湯を仕切るものが衝立しかないのもあるのだが、半分洞窟に埋まるように作られているので、やけに声が響く。

 他のお客さんもいるんだから下世話な話はやめてほしいのだけど……。



「悔しいところだが……今回はお前なしでは解決できなかっただろうな」



 隣の話し声を気に留めず、話しかけてくるエドワーズ。

 俺が神経質なだけなんだろうか……?



「まぐれ当たりだよ。釣り場でヒントがもらえただけだ」



 事実である。

 あの老人に会わなければ俺はイカの産卵シーズンを知ることができなかったし、それがなければ地元の釣具屋に寄ろうとも思わなかっただろう。



「それが凄いって言ってんだよ。普通じゃないところから重要な情報引き出してきたわけじゃん。オレなんか今回イカに斬られただけだぜ? なんの助けにもなれてねぇ……」



 「お前らの助けになるって啖呵切ったのにかっこ悪ぃなぁオレ……」とエドワーズは湯船に沈んでいった。

 そんな落ち込むことでもないと思うんだけどなぁ……。

 俺は一度湯船から上がり、魚臭用ジェルソープを召喚して全身に塗る。

 流石に3度目になると、肌の臭いはだいぶ消えている。

 背中を少し念入りに洗おうと、タオルを背中に伸ばすと、突然腕を掴まれた。



「背中洗いづらいだろ。俺が洗ってやるよ」



 そう言いながらエドワーズが後ろに座ってきた。

 別にいいんだが……。まあせっかくだしお願いするとしよう。

 「やっぱまだ臭うな……」と言いながら彼はジェルソープを背中に塗りたくってくる。

 なんか……ヌルヌルしたものを背中に塗られるのって妙な感覚だな……。



「お前意外と体格いいな」



 背中越しにエドワーズの声が聞こえる。



「そうか?」


「ああ。肩とかだいぶゴツいぜ?」



 エドワーズの手がヌルヌルと肩を撫でる。

 そのまま背中、腰、尻と、一々逞しいだの筋肉質だのと評価を下しながら念入りに洗ってくる。

 本人には自覚がないのだろうが、傍から見たら割とヤバくないかこれ……?

 周りに数人いた他の客も、何やら気まずそうに上がっていく。

 いや、俺たち別にそんなんじゃ……。

 尻を入念に洗うのは流石にやめろと、彼のほうを振り返ろうとした時、「キーン」という感知スキルの警告が脳内に響いた。

 敵か!!

 慌てて立ち上がり、その音が聞こえた方向を向く。



「どうしたユウイチ!?」


「敵か何か分らんが、俺達に良からぬことしようとしてる奴が近くにい……る」



 振り返った視線の先、湯気に煙る衝立の上に、球体……というか人の頭が一つ。

 「うわっ! ヤバいですミコトさん! うわあああああ!!」という声、そしてガラガラと何かが崩れる音。



「コモモのやつまた覗いてたな……。後で注意しとくよ」



 えぇ……。あの子覗き癖あるの……?

 ていうかミコトも手伝ってたっぽいけど……何やってんの……。

 ドン引きする俺だが、エドワーズはあまり気に留めていない。

 こいつ無駄に懐デカいな……。

いや、懐がデカいというか、ちょっと鈍感過ぎないかな……?



「さて、今度は俺の背中洗ってくれないか?」


「お……おう」



 頼まれるがままに、俺もエドワーズの背中を洗ってやる。

 男にしてはだいぶ色白な彼の胸には、痛々しい傷跡が残っていた。

 驚くほど綺麗な斬撃跡。

 極めて鋭利な刃物による傷だ。

 あのイカすごい武器持ってたんだな……。

 俺がジェルソープで彼の白くて細い体をこするたび、

 「あ……」「ああ、そこ気持ちいい」「お前上手いな……」などと無駄に甘い声を上げてくる。

 改めて言っておくが、俺もエドワーズも至ってノーマルである。

 ウィーアーオールメン。

 エドワーズの声に呼応して隣からは「尊い……尊みがありますよ……」などという声が聞こえてくる。

 あの子ちょっと腐ってる……。

 この世界にもそういう嗜好ってあるんだなぁ……



 流石に居心地が悪いので、俺はさっさと彼の背中を洗い上げにかかる。

 すると再び、「キーン!!」という鋭い探知音。

 また覗いてるなあの子……。

 文句の一つでも言ってやろうと視線を後ろに回す。

 白い湯気の向こうには、コモモの頭……ではなく、巨大な人影が立っていた。

 死に装束のような服、細い胴体から伸びた4つの腕、そして、青白い顔に爛々と輝く赤い瞳。

 およそ人間ではない、恐ろしい姿の何かが目の前に浮かんでいた。



「うわああああああ!!!」


「ど……どうした……おわあああ!!」



 俺が思わず上げた悲鳴に釣られ、同じように振り向いたエドワーズも大声を上げる。



 キーン!! キーン!! キーン!!



 血みどろヒグマの時よりも数段大きな音で鳴り響く感知音。

 とんでもない強さの……何!?

 その謎の生物なのか、モンスターなのか分からない奴は、4つの腕にそれぞれ鋭い日本刀のような刃物を携えており、じりじりと近寄ってくる。

 え!? 何!? 何!?



「エアスパイク!!」



 体勢を立て直したエドワーズが風魔法で応戦する。

 しかし、放たれた空気弾は死に装束をハラリと揺らして消えた。



「オオオオオオオオオ……」



 敵は風がトンネルを抜けるような、気味の悪い声を上げながら、4つの剣を天に掲げた。

 ヤバい!!



「エドワーズ!!」



 咄嗟にエドワーズ諸共温泉に飛び込む。

 ちょうど俺たちが立っていたところを、目にも止まらない速度で4つの斬撃が通り過ぎて行った。

 危ねぇ!!



「雄一さん!? どうしたんスか!? エドワーズさんに襲われてるんスか!?」



 衝立の向こうからは気の抜けた声が聞こえてくる。

 ミコトまで何言ってんの!?



「ヤバい敵が来た! テレポートで部屋まで逃げる! お前らも急げ!」


「えぇ!? 私たち全裸っスよ!?」


「んなこと言ってる場合か!! テレポート!!」



 エドワーズを抱きかかえ、転移スキルで宿の部屋にテレポートする。

 僅か数十メートルの距離なので僅かな魔力消費で飛ぶことができた。



「へぶっ!!」



 少し遅れて、ミコトとコモモが部屋のベッドに飛んできた。

 この部屋は今全裸率100%である。

 一瞬感知スキルから敵の気配が消えたが、すぐにまたキンキンとやかましい感知音が脳内で響き始める。

 あっちも俺たちのこと感知してるな……!



「ど……どうするんスか!? ていうか何が来たんスか!?」


「分らんけど凄いヤバそうな奴だ! とにかく武器と防具を!」



 下着から着込む時間など無い。

 全員持っている防具で最も分厚いものを肌着で装着し、使い慣れた得物を手に身構える。



「キャーーー!!」



 廊下のどこかから悲鳴が聞こえた。

 恐らく宿の中にあの敵が姿を現したのだろう。



「廊下側からくる……!」



 エドワーズが前面で縦と短剣を構え、俺を含む残りの3人は魔法を繰り出す準備をする。

 ガリ……ガリ……と鋭いもので木を削るような音を立てながら、その敵は迫ってくる。

 その音は2~3部屋ほど離れた所でピタリと止まった。

 同時に感知スキルの警告音も止まる。

 どうした……?

 不審に思いつつ、俺は勇気を振り絞って恐る恐る扉を開けてみる。

 すると、その敵は忽然と姿を消していた。



「あれ?」



 諦めたのか……?

 そんな楽観的な考えを抹消するかのように、眼前に突然4つの白刃が出現した。



ガン!ガン!ギギン!!



 俺が反応するよりもずっと早く、オートガードスキルがバリアを張り、俺の首が4等分されるのを防いだ。

 だが、彼我のレベル差がありすぎて衝撃までは防ぎきることができない。

 俺は皆を巻き込みながらすごい勢いで部屋の奥まで吹っ飛ばされる。



「ぐはぁ!」

「ひうっ!」

「ふぎゃあ!」



 俺の背後から3つの嗚咽が飛び出してきた。

 体勢を立て直そうにも、皆が慌ててもがくので、互いの手足が絡み合ってうまく動くことができない。

 そうこうしている間に敵はすぐ目の前まで迫り、再び4つの剣を天に掲げ始めた。

 まずい……! 本当にまずい!!

 何とか敵の攻撃態勢を阻止しようと、全員で手近にある物を片っ端から投げつける。

 だが、剣も、盾も、寝袋も、クーラーボックスも、何も敵に通用しない。

 というか、何をぶつけても死に装束がふわりと動くだけで、まるで実体が無いかのようだ。



「オオオオオオオオオ!」


「うわああああ!!」



 敵が吠える。

 俺はもう無我夢中で、サイドポーチを投げつけた。



「ギャアアアアアアアア!!」



 突然、その敵が悲鳴を上げ、フラフラと後退を始めた。

 何だ!?

 今日何度目かも分からない疑問符を投げかけるよりも早く、その恐ろしい敵は全身から煙を吹き出し、やがて跡形もなく消滅した。



「本当に何だったんだ……?」



 本当に何が何やら分からないまま、俺達最大の危機は去った。

 俺が投げつけたサイドポーチには、死神局の窓口で貰った首狩り骸骨くんキーホルダーが無駄にいい笑顔を浮かべて光っている。

 あれ……?

 もしかして死神のご加護とかそういう……?


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