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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第48話:影の遺跡迷宮 陰謀と エビと サメと




「お兄さん達じゃ……なかったんだね……」


「「!!」」



 血まみれで倒れる青年、都ギルドの二つ名持ち冒険者「瞬撃のシュン」が、ボソリと呟いた。

 まだ生きてる!!

 ていうかこの声……?



「大丈夫か!! 愛ちゃん止血を!!」


「え……あ……はい!!」



 俺は彼の衣服を切り裂き、召喚した釣り用消毒ウェットティッシュで彼の体を拭く。

 うわあ!

 これは……助けられないかもしれない……!!


 ザックリと開いた胸の傷は、見ているだけで卒倒しそうなエグさだ。

 包帯を巻こうとした愛ちゃんは、腰を抜かして嘔吐してしまった。

 俺は彼女から包帯を受け取り、慣れない手さばきで巻き始めるが、どうにもテキパキとはいかない。



「無理だ……僕はもう……」


「喋るな! あと諦めるな!」


「いいんだ……。最期に会えたのがお兄さんで良かった……」



 彼はおよそ重傷とは思えない力で俺の手を掴み、包帯を巻くのを阻止する。

 その鬼気迫る表情に、俺は思わず手を止めてしまう。



「彼らは……! 彼らは悪魔と契約して……! 元の世界へ……戻る気だ!」


「な……! 何をいきなり!?」


「彼らは……そのためにダンジョンを……サメを……! これは……僕たちにしか……止められない!!」



 瞬撃のシュンくんはその言葉を最後に、激しく吐血し、がっくりと項垂れた。

 同時に俺の腕を掴んでいた彼の手から力が抜け、骨にまみれた床に垂れ下がる。

 鳥かなにかの骨が、カラカラと音を立てて転がっていった。

 おい! おいってば!!

 ……。

 ………。

 脈が……もう……。



「せ……先輩……その人……」


「……」



 俺が首を振ると、愛ちゃんは口元を押さえて蹲る。

 背中をさすってあげるが、彼女の吐き気は収まらなかったらしく、骨の山の影へ這いずっていくと、再び盛大に嘔吐した。

 そうか……愛ちゃんこの世界に来て初めて人が死ぬところを……。

 俺は結構慣れちゃったからなぁ……。

 慣れたくはないもんだが。



「あー? なんか騒がしいと思ったら誰か入り込んでるじゃないか」


「誰だ!?」



 俺は双剣を抜き、身構える。

 何か光源を背にしていて、その顔は見えない。

 黒いローブのようなものを纏った相手は、音もなくこちらへ歩いてくる。

 まずいな……。

 この感知ピーク……俺の勝てる相手じゃねぇぞ……。



「あなたがこの人を殺したんですか!? 何の罪もない人を!」



 立ち上がってきた愛ちゃんが声を荒らげる。

 彼女が今出せる最大サイズの短剣を出し。彼女もまた身構える。

 ただ、俺達二人でも勝てる相手ではないことは明白。

 何とか……何とか時間稼ぎと、可能なら脱出を図らないと……。



「罪もない? そいつは俺達の同胞でありながら、皆の悲願を阻止しようとした。死んで当然だ。 なあ、同胞?」


「なっ……。 がはっ!?」



 突然目の前まで移動してきた相手の、蹴りなのか拳なのか分からない攻撃が腹に入り、俺は後方へ吹っ飛ばされた。

 オートガードが作動するも、全く威力を和らげられていない。

 愛ちゃんの「先輩!!」という叫びがはるか遠く感じる。

 程なくして、「よくも! くあぁ!!」という叫びが遠方より聞こえ、彼女の体が俺の上に降ってきた。

 俺はとっさに光源の召喚を切り、闇の中へ逃げ込む。


 小声で「愛ちゃん、大丈夫か……?」と聞くと、「なんとか……」という答えが返ってきた。

 これでも俺たちは一応転生者だ。

 体はちょっと頑丈に出来てる。


 俺は剣をおさめ、彼女を抱きかかえて骨の間の奥へと後退を始める。

 敵の発する後光のような光源は、だいぶ遠い。

 ……同胞?

 俺の心に、敵の発した言葉がまるでのどに刺さった小骨のように違和感を残す。



「それで隠れたつもりか?」


「ひっ……!!」



 今度は背後から衝撃が襲ってきた。

 宙に浮く感覚、そして強烈な痛み。

 頬にべったりと血の感触を感じ、顔を上げると、シュンくんの亡骸が目の前に倒れていた。

 そして、俺たちを見下ろすローブの男。



「お前……いや、お前らはどっち側だ?」



 ローブから微かに見える顔立ちは、同郷の者のそれを思わせる。

 えらく高圧的で、余裕のある笑みを浮かべる彼に、俺は恐怖と、異様なまでの嫌悪感を覚える。

 まるでこの世の全てを見下したかのような目だ……。


 彼は俺と愛ちゃんを交互に見やり、「二人揃ってゴミみたいなチートスキルだな……」と呟いた。

 やっぱりこいつも……!!。



「武器召喚ってのはなぁ。ここまでやって初めて使い物になんだよ」



 そう言うと彼は、手で宙を掴む。

 すると、俺の背丈の数倍はありそうな斧が闇に覆われた空間に出現した。



「あ……あぁ……!」



 小さな悲鳴を上げながら、俺の体にしがみついてくる愛ちゃん。

 同じスキルだからこそ、次元の違う相手というのが分かってしまうのだろう。

 敵はそれを指先に乗せながら、俺たちの方へ倒したり、逆側へ傾けたりと、明らかに遊んでいる。

 斧が俺達側へと振れる度に愛ちゃんは「いやああ!!」と、悲鳴を上げて俺にしがみつく。

 怯える愛ちゃんの様子が面白かったのか、敵はますます憎らしい笑顔を浮かべ、懐から何かを取り出した。



「釣りとか訳のわからねぇスキル持ちのお前には、この方が効くんじゃねぇか?」



 彼が一枚の札のような、カードのようなものを宙にかざすと、そこから黒色の瘴気がモクモクと噴き出す。

 そして、中から激しい瘴気を発する巨大な物体が飛び出した。

 それは骨の山へ着地すると、段々と見覚えのあるシルエットを形作っていく。

 嘘だろ……!?


 俺の目の前に現れたのは、サメ。

 いや、ザリガニのような外骨格に覆われた硬質な体。

 体の下から伸びる複数の歩脚。

 そして、顔の近くについたハサミのある腕。

 え……エビザメ!!



「はっはっは!! なかなか面白い顔するじゃねぇか!! どうだ? 斧で叩き切られるか、こいつに食われるかどっちがいい?」



 勝ち誇った顔で高笑いする敵。

 そして一通り大笑いした後、「それとも?」と、言葉をつづけた。



「俺たちの仲間になるか?」



 そうか……。

 そういうこともできるのか……。

 俺は返事代わりに、脈動するカードを二枚、懐から取り出した。


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