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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第45話:深夜の二人酒




「おうユウイチ。遅い帰りじゃねぇか」



 家に戻ると、先輩はまだ起きていた。

 ちょっと良いお酒を開け、チビチビやっていたようだ。

 蝋燭を前に置き、静かにグラスを揺らす先輩は、黙っていれば雑誌の表紙のモデルさんみたいだ。

 「ちょっと氷くれ」というので、成形したアイスショットで球体氷を出してあげた。



「ほう……気が利くじゃねぇか」


「ありがとうございやす親分」


「おう……苦しうない。へへへ」



 先輩は氷とお酒をカラカラと回し、俺に空のグラスを手渡してきた。

 ああ、俺も飲めと。

 同じように氷をグラスに出し、自分の分のお酒を注ぐ。

 匂いからして、葡萄系かな?



「お前が出てった後アイが来てな。これ、土産だとよ」



 先輩が指さしたのは台所の流し台。

 薄暗くてよく見えなかったが、目が慣れるにつれてそれが山菜の類であることが分かった。

 ゴブリン退治を終えた後、依頼主の村で貰ったらしい。



「オメーらがアタシと出会った頃みてぇなことやってんな」



 そう言って笑う先輩の表情は柔らかい。

 お酒が入って少し陽気になっているようだ。

 確かにほんの1~2年前、俺達は釣り時々村の依頼受注みたいなことをやっていた。

 緩くて安全で釣りし放題だったあの日々……。

 いつか戻ってくるのだろうか。



「なあユウイチ。オメーはアタシの一党に加わったこと、後悔してねぇか?」


「何ですいきなり?」


「いや、お前らがヤゴメ倒した後、親切心のつもりで一党に入れたはいいけどよ、その後なし崩しでここまで連れて来ちまったわけじゃねぇか? 腹で何思われてるか分からねぇって思ってよ」



 この人定期的にブルーになるな……。

 確かに、いつの間にか一党にされて、いつの間にか一党の仕事が増えて、いつの間にか法王庁の特務メンバーにまでなってしまったわけだが……。

 だって先輩押しが強くて断れないんだもん……。


 まあ、今更先輩に文句を言うつもりはない。

 力不足から色々と怖い思いをした身としては、先輩の一党のメンバーという肩書はこの上なく安心感がある。

 手に余る事態に見舞われても先輩を頼ればいいと思えるしね。


 それに、強引で乱暴な先輩にも、繊細だったり、弱かったり、可愛いらしいところがあることを知ってからは、むしろ放っておけなくなった。

 多分、ホッツ先輩が言っていた、「シャウトをお前らが支えないといけない時」というのは、このことなんだと思う。



「俺は何も悪く思ってないですよ。多分ミコトも。なんやかんや先輩と一緒にいて楽しいですし、それに、先輩って時々頼りない時ありますもん。逆に放っておけませんって。大体、先輩って俺達くらいしか一党に加わる人いなかったわけでしょ?」


「そっか……。ふふっ……そうかぁ……」



 あれ……?

 「生意気言ってんじゃねぇ!」とか「悪かったな不人気パーティーで!」とか言いながら膝か肘が飛んで来ると思ったんだが。

 先輩最近丸くなった……?


 などと考えていると、向かいに座る先輩がガバっと立ち上がった!

 すみません先輩! 生意気言いました!!

 ビリビリアイアンクロ―が来ると思い、全力で謝ろうとしたが、先輩は腕ではなく、全身で俺に突っ込んできた!

 うっ! ビリビリホールド!?

 しかし、俺の技読みは2重に外れた。



「そうかぁ~。そうなのかぁ~ユウイチぃ~」



 フニャッフニャの笑顔を浮かべながら、先輩が俺に抱き着いてきたのだ。

 うわ!! 先輩ベロベロじゃねーか!?

 よく見れば、先輩の足元には空いた酒瓶が4本……5本……いや7本!

 この人どんだけ飲んでんだよ!



「ユウイチが遅いから飲み過ぎちゃったぁ……」


「遅いからって……いつから飲んでたんですか! しかもこれ違う種類のお酒こんなに飲んだら悪酔いしますよ!」


「ちょっと前だよぉ……。ユウイチィ……。お前良い奴だよなぁ……」


「今日はどうしたんですか……。何か嫌なことでもあったんですか……?」


「なんもぉ?」


「んじゃ何でこんな深酒ちゃんぽんを……うぉわっ!?」



 俺は先輩の細腕にヒョイと持ち上げられ、ソファーに投げられる。

 痛てぇ!!

 俺が痛みに顔を歪ませている間に、先輩がノソっと俺の上に跨ってくる。

 何だ何だこの状況!?


 困惑していると、先輩がその鋭い目をぎらつかせながら、顔を近づけてきた。

 お酒と……仄かな石鹸の香り……。



「お前があんまり遅いから、アタシに嫌気がさしてもう帰って来ねえんじゃないかって不安になった」


「そ……それだけのことで……?」


「“それだけ”じゃない! お前が居てくれないとダメだろ!」



 そう言って俺の胸に顔を埋めてくる先輩。

 な……なんか冬に先輩の家で飲んだ時も最後の方こんな感じだった気が……。

 甘え絡み酒なんだなこの人は……。


 こうなったらもうさっさと寝てもらうに限るので、とりあえず先輩の頭を撫でる。

 撫でてあやす。

 「どこにも行きませんよ~。俺もミコトもずっと先輩パーティーにいますよ~」と、言いながら、サラサラの金髪を撫でおろすと、「へへへ……10年後も……100年後も……?」とか聞いてくる。


 いや、10年はともかく、100年後は無理っス!

 思わず突っ込みたくなったが、寝かしつけるためにグッと堪える。

先輩はそのまま「1000年後……10000年後……」という言葉を最後に、ガクリと脱力し、グーグーと寝息を立て始めた。


 はぁ……。

 まあ、出来るだけ命を大事にしようとは思った。

 この人俺達が先に死んだらめっちゃ悲しみそうだもん……。


 俺は寝ている先輩を抱き上げ、彼女の部屋へと運ぶ。

 ベッドに先輩を下ろすと、彼女は二つの抱き枕をギュッと抱き寄せ、「ユウイチ……ミコト……」とか言ってる。

 何ですかこの可愛い先輩。


 部屋を後にしようとすると、また何かごにょごにょ言っているので、少し耳を澄ませてみると、「ユウイチぃ……明日ラビリンス・ダンジョン攻略だからぁ……」とか言ってる。

 ははは……。

 寝ぼけて特務が来たと思ってる……。


 と、リビングまで戻って蝋燭を消そうとしたところ、愛ちゃんが持って来た山菜の山の中に、ダンジョン攻略特務の依頼書が挟まっていた。

 ……。

 …………。


 ダンジョン行く前日に酒飲ませんなよ!

 俺は時々頼りない先輩を恨みながら、満面の笑みで眠るミコトの隣に滑り込んだ。

 どうせまた偵察行けと言われそうなので、酔い覚ましハーブと快眠ハーブをコレでもかと頬張り、俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。


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