第40話:魔女会議のウワサ
魔女会議……。
それは数十年に一度開催される魔女たちの会議である。
……いや、魔女の会議って何だよ。
「まー何だ、言ってしまえば今後の世界を占う会みたいなもんだ」
「それが何で一大イベントみたいな扱いなんです?」
「時々世界征服し始めたり魔王誕生を予告しだすからな」
「やべー会議じゃないですか!」
魔女というとウィッチハット被って箒にまたがってオホホホホとか言いながら飛んでるイメージだが、どうもこの世界の連中は人と神の中間みたいな存在らしい。
神がヒトを作った時、手始めに作った者、とか神々とまぐわった原初の女とか色々言われているが、その辺は全く明らかになっていないそうだ。
そんなのが世界の未来について話すとなれば、そりゃ大騒ぎにもなる。
「まあ先代魔王が倒れてからは、適当にお茶して終わりってパターンばっかだけどな。ただ、何が起きるか分からねぇから各地のギルドや騎士団、軍は結構ピリピリすんぞ。大体噂が立ってから1~2か月以内に各地の魔女が動き出すから、そうなったら特務どころじゃねえかもしれねぇ」
「各地……そんないっぱいいるんスか?」
「12人いる。一部を除いて誰も住処を知らねえが、会議の時にはやべぇ魔力流引き連れて飛んでくるんだ。魔物も活性化しやがるし、面倒ごとばっかだぜ」
人間以上神未満が12人とか……。
ただ、人間に害なすばかりというわけでもなく、マナを調停し、大規模な天災を防いだりしてくれているそうで、それこそ畏怖と尊奉の対象というわけだ。
それに、今回の場合は今頻発するラビリンス・ダンジョンや暗躍する謎の集団に関する話題も出るかもしれないので、俺たちにとっても無益というわけでもなさそうだ。
「まあ今のとこアタシらには直接関係しねぇことだ。しっかしおめーらビビらせてやろうと思ってたのに、とんだ肩透かし食らったぜ」
「へへへ……すみません。釣り以外興味なかったもんで……」
先輩は空になった丼を流しに運び、ソファーにゴロンと寝転がり、「寝直す」と言ったっきり、すぅすぅと寝息をたて始めた。
特にめぼしい依頼や、特務はなかったらしい。
ということは、少なくとも今日一日はオフというわけだ。
釣りでも行こっかな……。
今日は現地タックルで運河あたりを攻めてみようか。
などと思い、最近買った竹製竿と、太鼓リールの祖先みたいなものを物置から取り出していると、ミコトに「待つっス!」と呼び止められた。
「釣りもいいっスけど、愛ちゃんとこ行くのが先っス!」
「え?」
「え? じゃないっスよ! 愛ちゃん昨日凄い無茶したじゃないっスか! 様子を見に行ってあげなきゃダメっス!」
そ……そうだよね。
大丈夫ですって言ってたけど、だいぶ疲れてたもんね……。
いかんいかん、油断するとすぐ先輩モードから釣りバカモードになってしまう。
俺は釣竿を一旦置き、ミコトと一緒に愛ちゃんの家がある番地へと向かった。
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「愛ちゃーん。起きてるかーい?」
「差し入れに来たっスよ~」
愛ちゃんとコトワリさんが住んでいるアパートの部屋をノックするが、誰も出てこない。
あれ~?
寝てんのかな。
「あら、アイさんのお知り合い?」
上から声をかけられたので振り向くと、壁に空いた小窓からおばさんがこちらを覗いていた。
管理人さんらしい。
「あの子朝から防具付けて出かけてたわよ。今朝の新聞にも載ってたし、若いのに熱心な子よねぇ」
え! 新聞載ってたの愛ちゃん!?
「あら? 知らないの? ほら、これよこれ! 都ギルド新米冒険者アイ、ラビリンス・ダンジョン2連続攻略! って」
「おお~! 愛ちゃん凄いっス! 地域新聞の3面っスよ!」
目の前で広げられた紙面には、ナイフを構えて水着鎧姿の愛ちゃんがデカデカと描かれている。
おい! これ描いたの誰よ!?
こんな人の舎弟を性的な目で見るかのような絵かいてくれちゃって……。
でも割とよく描けてるなこれ……。
腰回りとか太ももとかいい感じに強調されてセクシーで……。
そうなんだよね、愛ちゃん胸は控えめだけど足とお尻が良いんだよ。
などと思いながら、挿絵をまじまじと見つめていると、ミコトが背後で「ぷーっス……」と呟きだしたので、新聞を早急にお返しした。
俺たちは愛ちゃんへの差し入れ、即ち生鮮食品類や石鹸などを管理人さんに預け、俺たちはギルドの方へ足を向ける
「愛ちゃん朝からギルドに行くって、クエストっスかね?」
「かなぁ? クエスト明けからやる気満々で凄いな」
「っスねぇ。まさに今をときめいてるっスよ」
愛ちゃんの家はギルド本部からほど近い。
雑談交じりに歩いていくと、すぐにギルドへ到着した。
ギルドのメンバーボードを見ると、愛ちゃんとコトワリさんの木札にはクエスト中の赤札がかかっている。
受付で聞いてみると、初級者向けのゴブリン討伐に行っているらしい。
ダンジョン攻略の大金星を挙げておきながら、オフでは基礎から勉強しているとは感心だ。
前も剣技の講習会に自主参加してたし、本当に俺の舎弟として置いておくにはもったいない熱心さだよ。
ま、この調子なら今日は放っておいても大丈夫だろう。
と、いうことで俺は釣りに……。
「待つっス!」
「こ……今度はなんだ?」
「むっ……ス……」
ミコトは俺の袖をつかみ、口をへの字にして物欲しげな顔で俺を見上げてくる。
あ~。
なるほどね。
「分かったよミコト。今日は一日お相手するよ」
「むふふっス……。合格っス」
「何がよ」
「私の気持ち読解テストっス」
「全く……一緒に過ごしたいなら素直にそう言ってくれたらいいのに」
「二人きりの時以外はちょっと照れくさいんス……。だって今夜は……じゃないっスか……? 少しは意識……しちゃうっスよ?」
そう言って頬を染めながら微笑むミコト。
もう……。
死ぬほど可愛いなこいつはぁーーー!!
このまま抱きしめて宿場街にダッシュしたいところを、熱い抱擁までにとどめておく。
「ひゅーひゅー。 お熱いにゃ~」
ハッと振り返ると、世界樹ギルドの猫獣人「マーゲイ」が苦笑いを浮かべて立っていた。
しまった! ギルド本部でイチャラブしてしまった!!
「ユウイチぃ。お前常識人っぽい見た目して意外と破天荒にゃ」
「す……すまん。ちょっと見苦しいものを見せた」
「別に見苦しくないにゃ。愛は美しいものにゃ。にゃへへへへ……」
「笑ってんじゃん!」
「にゃひひひ……。まあ今それはいいにゃ。これ、ユウイチに差し入れにゃ」
そう言って、竹びくを俺へ放ってくるマーゲイ。
うおっと!
「にゃははは。にゃいすキャッチ」
竹びくの中から出てきたのは……何か変な形の魚!
頭がなにこれ!?
ボウガンみたいになってる!!
「変な魚集めてるって聞いたから、ダンジョンで捕まえてきたにゃ。こいつ口から魔力の光弾撃って来てマジビビったにゃ」
ほえ~。
それは確かに珍しいかも。
ただ、ミコトは俺の背中に小さくバツ印を書いてきた。
彼女のライブラリではなく、原生生物のようだ。
ただ、魚の募集はあくまでも俺が出した依頼。
俺からの駄賃を楽しみに、手と舌を出して喉を鳴らす彼には、ちゃんと礼をしなければ。
「ありがとな。ありがたくいただいておくよ」
「にゃひひひひ……ありがたくもらっておくにゃ」
そう言って彼は、俺の手渡した銀貨を手に、ギルド食堂のカウンターへと走っていった。
さて……この魚だが……。
どうしよっか?
ミコトに目線で尋ねると、
「とりあえず食べてみるっス!」
という、元気のいい返事が返ってきた。