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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第39話:ヒレ干し日和




「くくく……」


「フハハハハっス……」


「「はーっはっはっはっは!!」っス!!」


「朝からうるせぇぞ!! クエスト明けはゆっくり寝ろ!」



 戦利品を前に高笑いする俺達のもとに、先輩が頭を掻きながらドタドタと歩いてきた。

 「ったく……目が覚めちまっただろうが……」とか言いながら、木の繊維で作られたブラシで歯を磨く先輩。

 先輩はそういうケアは怠らない人である。



「しかしお前らそんな気味の悪いもん何に使うんだよ」



 先輩が台所いっぱいに置かれた戦利品をつつきに来る。

 「うわぁ……ザラッザラだこれ……」とか言いながら、延々とスリスリしているあたり、手触りは気に入ったらしい。

 サメ肌って意外と癖になる手触りしてるよね。


 そう、あのダンジョンから持ち帰った戦利品。

 それはかの高級食材、フカヒレである。

 愛ちゃんが見事トドメをさしたヒゲウバザメはその後、ダンジョンキーを抜き取ってコトワリさんが封印したわけだが、なぜかミコトが切り落としたヒレの部分だけ消えずに残っていた。


 コトワリさんは首をかしげていたが、こんな幸運そうそうないと、俺とミコトは二人で持ってもなお余るほどのヒレを抱え、ダンジョンから持ち出すことに成功したのだ。

 ヒゲの有無はともかく、ウバザメのフカヒレといえば、元の世界では漁獲が規制され、まず手に入らなくなっている、フカヒレの中でも最高級の一品。

 キングオブキングフカヒレというわけだ。

 そりゃ朝から高笑いも出る。



「んじゃ、作るっスか! 乾燥フカヒレ!」


「よっしゃ! 今日一日作業になるな!」



 ミコトと一緒に袖まくりをし、大きすぎるヒレを切り分けにかかろうとしたところで、先輩に肩をガシッと掴まれた。



「おめーら、朝飯は?」




////////////////////




「しかしヒレが旨いなんて珍しいな、このサメ……?だったか?」


「ヒレが旨いだけじゃないですよ、身もすり身にして蒸したら美味しいんですよ。あと、今回は大人しい種でしたけど、凶暴な奴は人食いますからね」


「今回の子は砂に潜るくらいの能力でしたけど、種によっては空飛んだり頭が増えたり竜巻を呼んだり霊体化したりイカタコと融合したりするんスよー!」


「ああ!? とんでもねえヤツじゃねぇか!?」


「先輩、それは話半分でいいですよ」



 ミコトはサメ映画とか嗜むタイプだ。

 天界でどうやって見ていたのかは知らないが、無駄にいろいろ知っている。

 ……。

 まさか映画で出たようなサメおおかた設計済みとかないだろうな……?



「ところで、コトワリの奴が“封印”とか言ってたけどよ、あれは結局何が目的なんだ? なんか逃げ出したのが云々とか言ってたが」


「そ……それはですね、どうも暗黒大陸からラビリンス・ダンジョンを通じてこの大陸に居ないはずの生物が流れ着いてるらしいんですよ。それを暗黒大陸へ還す作業らしいですよ」


「んあ? あいつ暗黒大陸出身だったか?」


「あ……あああ暗黒大陸の天使族の街出身なんでスって! なんか暗黒大陸のお偉いさんに生物の流出管理を任されたらしいっスよ!」


「……なんか隠してねぇ?」


「「いえ、全然」っス」


「……まあアタシもおめーらに何もかもおっぴろげてるわけじゃねぇけどよ、重要なことなら教えてくれよな。なんか最近アタシだけ知らねぇことが増えてる気がすんだよ」



 そう言ってちぎりパンスープを啜る先輩。

 あ、ちょっと傷ついてる……。

 先輩にならバラしてもいいかもしれないけど……。

 そうなると今度はエドワーズに、タイド達に、ギルドの面々に……とか話が広がっていきそうなんだよなぁ……。

 当事者だけで済ましておくのが一番無難な気もするのよね。



「おい何だよ、ジロジロ見つめやがって」


「え!? あ、すみません。先輩がまだ俺たちにおっぴろげてない事って何だろうなって思ってました。もうよっぽどの部分以外は見ちゃったもんで……ハハハ……」


「まあいつか……。いつか気が向いたら教えてやるよ」



 あれ……。

 「何だテメェオラー!」とか来るかなと思ってたのに、なんか神妙な顔を……。

 代わりにミコトの鉄板を曲げうるアイアンクローが脇腹に炸裂し、俺は悲鳴を上げて飛び上がった。




////////////////////




「さて! じゃあ早速作るっスよ! 干しフカヒレ!」


「おー!」


「おーう。がんばれよー」



 ギルドに顔出しに行く先輩を見送り、俺たちは巨大なヒレに対峙する。

 5m×3m程度の二等辺三角形を描くその胸鰭は、現地で即席解体され、今はいくつかのぶつ切りになっている。



「いろんな干し方があるみたいっスけど、ご家庭で簡単にできるのはスムキ干しっスね。皮を剥いで天日で干して、その後陰干しにするんス」



 そう言いながら、ミコトはヒレを沸き立った大鍋に突っ込み、さっと湯がく。

 これによって皮が剥ぎやすくなるそうだ。

 取り出したヒレをタワシ的な植物ブラシでシュシュっとこすってやると、なるほど、表面のザラザラとした皮が剥がれ、下から美しい筋線維が現れた。

 これがフカヒレかぁ……。



「この繊維の太さったら無いっスよ! フカヒレって繊維が太いほど高級らしいので、こりゃ雄一さんの世界で売ったらとんでもない値段付きそうっス!」



 確かにすごい太さの繊維だ。

 出石の皿そばと同じかそれ以上はある。

 早く食べてみたいなぁ……。


 ……。

 一口くらいはいいか……。

そっと、ミコトに内緒で破片をちぎって齧ってみる。


 ……。

 ………。

 歯ごたえはいいけど……。

 そんなに美味しいもんでもないな……。

 やっぱ味付けてこそか……。



「雄一さん手が止まってるっスよ! しっかり皮取り除かないと食感最悪になるっスから、集中してお願いするっス!」



 と、ミコトに怒られてしまった。

 そのままひたすら皮を擦り続けること3時間余り。

 日時計が正午を指すごろ、ようやく皮むき作業が完了した。


 テーブルを占領する、美しく白い生フカヒレ達。

 ばらばらのそれを組み合わせると、ヒレの輪郭っぽくなった。

 おお~。

 壮観。



「少しだけ切り取ってスープで煮て、お昼はフカヒレおじやにでもするっス!」


「おお! いいねぇ!」



 ミコトはヒレの一部を包丁で切り取り、鍋に入れ、鶏ガラと塩麹、そして生姜系スパイスでスープを作り、コトコトとヒレを煮込む。

 その間に俺はアジ干し網を召喚して残りのフカヒレをベランダの物干し竿にかけていく。

 かなりの量だが、3段の干し網10個に収まりきった。


 今日はいい天気なので、夕方まで干しておけば十分乾燥できるだろう。

 ミコト曰く、天日にあてて乾かした後は冷暗所の陰干しで2週間らしい。

 2週間か……本格的なフカヒレが3か月かかるのに比べたら短いが……。

 待ち遠しいな……。



「たぶんそろそろ先輩戻ってくるっスから、それまでコトコト煮るっスよ。ご飯も大体それくらいに炊けるっス」


「あ、漬物切る?」


「お願いするっス」



 フカヒレの処理が終われば、和やかな昼前の日常が戻ってくる。

 台所でフンフンと鼻歌を歌うミコトの首筋は少し焼けていて、肩には水着の紐の跡がついていた。

 そっと指を這わせてみると、「ひゃああああんっス!」っと、驚いたような悲鳴を上げるミコト。



「びっくりするっス! なにっスか!?」


「いや、その紐の日焼け跡を下ったらどうなってるのかなって」


「……もうっス! お昼から何お盛んになってるんスか! 夜まではダメっすよ!」


「夜はいいんだ……」


「夜は……この下がどうなってるか隅々まで見せてあげるっス……」


「ミコト……」


「雄一さん……」


「あーはいはい! そこまでそこまで!」



 振り向くと、シャウト先輩が呆れ半分の赤ら顔で立っていた。

 「ったくてめーらは二人きりでほっといたらすぐこれだ……」などと言いながら、リビングのテーブルに腰を下ろした。


 ベランダに干されているフカヒレを見て「ほぉ~……よく分かんねぇけどすげぇなぁ……」と呟いている。

 ふふふ……。

 見た目もすごいですが食べてもすごいですよ先輩……。



「ちょうどいいタイミングっスね! はいっス! 生フカヒレの鶏ガラおじやっス!」



 炊けたばかりの少し柔らかいご飯に、ほどけたフカヒレがどっさり乗ったスープがかけ回される。

 おお~! すごい!



「へぇ。あのヒレがこんな奇麗になるもんなんだな」



 そう言って口に運ぶシャウト先輩。

 「お! こりゃ旨ぇな! スープ吸ってふわふわシャキシャキで……食ったことのねえ食味だ」と、次々とスプーンを口に運ぶ。


 「まだそれ未完成なんですよ。干したらもっと旨くなるんで楽しみにしててくださいね」と言うと、「へぇ~。大したもんじゃねーか。それ知ってるとあの網の中身が宝の山に見えてくるな」と言って笑う先輩。

 そうでしょう!?そうでしょう!?

 こんな思いできるなら、サメがこの世界に定着してもいい気もするんだが……。

 まあ、最終的には大変な事態を招くんだろうな……。



「そうだそうだ! 玄関開けたらおめーらが盛りあってたんで忘れてたわ!」



 早くもおじやを完食した先輩が、突然手を叩きながら言った。

 驚いて先輩のほうを向く俺たちに、先輩は少し悪そうな笑みを浮かべて、少しトーンを落として言葉を続ける。



「今年、“魔女会議”の年らしいぜ」



………。

まじょかいぎ?



「「……」」


「……」


「「…………」」


「嘘だろオメーら!?」



 先輩が目を丸くして叫んだ。

 どうやら、よほど有名なイベントらしい。


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