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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第34話:塩湖ダンジョン 塩窯焼きと塩鍋




「先輩見てください! 塩サラッサラですよ!」


「泉によって水質が違うみたいっスね! 温泉みたいな効能もあるかもしれないっスよ!」


「こらー。オメェら仕事ってこと忘れんなよ~」



 俺が事前偵察したラビリンス・ダンジョンは、塩の大地に、白い石灰棚と澄んだ泉が織りなす絶景だった。

 ウユニ塩湖とヒエラポリス・パムッカレが合体したような光景だ。

 気温は少し暑いくらいで、日差しもさほど強くなく、専用防具も相成ってとても過ごしやすい。



「雄一さん! この辺りは神経痛や筋肉痛に効くみたいっスよ~! 一緒に浸かるっスー!」



 鑑定スキルで泉の泉質を鑑定したミコトが、そう言って俺を手招きしている。

 彼女は背中の剣を濡れない場所に置くと、そのままドボンと泉に飛び込んでいった。

 専用防具ならではのダイナミックさだ。

 そう、専用防具とは、水着なのである。


 厳密には水着そのものではない。

 耐物理、耐魔法の加護が付与された、水着型アーマーなのだ。

 無茶苦茶高い防具だが、エリート部隊の依頼料からすれば、買えない額ではない。

 ミコトが身に纏うのは、水色のビキニ鎧だ。

 白い翼を模した刺繍と、彼女がちょい足しした白いレースが、その天使ボディを可憐に彩っている。



「私もご一緒しまーす!」


「私も失礼するぞ」



 ミコトの浸かった泉に、愛ちゃんとコトワリさんも飛び込んでいく。

 「きゃはは! 冷たくて気持ちいいー!」と叫んでいるのを見ると、冷たい温泉、いわゆる鉱泉というやつらしい。

 愛ちゃんは赤を基調としたビキニ鎧を、赤い布でパレオ風にアレンジ。

 コトワリさんは純白のワンピース水着だ。



「ったく……ちょっと珍しい光景だからってはしゃぎやがって……」



 楽しそうな3人を見て、黒い水着に黄色のアクセントが入ったタイサイドビキニに、サングラスをかけた、リゾートスタイルのシャウト先輩がボソリと苦言を漏らした。



「でも先輩も無茶苦茶楽しそうな格好してますよ」


「これは……! オメェらが着ろ着ろって言うから着てやってるだけで……!」



 そう言いながら、胸元と股下を隠す先輩。

 いえ……。

 それやっても普段と露出度大差ないっす……。



「こんな汎用性のない、しかもクソ高ぇ鎧5着も買いやがって……。一発攻略出来なかったら許さねえぞ……」


「まあそう言わずに少しくらい楽しみましょうよ! こんな絶景で鉱泉浴とか滅多に出来ることじゃないですし!」



 無駄にトロピカルな水着鎧で下半身を固めた俺は、先輩を促して皆の待つ泉へと向かった。




///////////////////////




「や~ん! お肌モチモチ~!」


「まさかダンジョンで温泉巡りができるとは! 攻略するには惜しいダンジョンだな!」



 半日以上にわたり、様々な泉質の泉を堪能した俺たちは、水のない石灰棚にベースキャンプを構えた。

 時間としては夜なのだが、このダンジョンでは白夜のように夕暮れで日没が止まるらしい。

 地平線スレスレで静止した日が照らす塩湖の風景は、これまた絶景だった。



「気は済んだか? 明日からはさっさと攻略に移るぜ。おいなんだテメェその目は」



 こんな素っ気ない態度の先輩だが、つい先ほどまで自律神経に聞くという炭酸泉にふやけるまで浸かっていた。

 なんとも素直じゃない真面目ガールもいたものだ。



「さて! 日が暮れたら楽しいダンジョンご飯タイムっスよ!」



 そう言ってミコトは、クーラーボックスから携行食セットをテキパキと並べていく。

 魚はおなじみ、キバスズキ。

 ただし、干物や味噌漬けではなく、俺が直近で釣ったやつの切り身だ。



「せっかくの塩湖っスから、現地アレンジしてみるっスよ」



 おっ!

 ミコト得意の現地料理か!

 楽しみ!



「これだけのお塩と奇麗な鉱泉があるわけっスから、それを最大限に使いたいっスよねぇ……」



 そう言いながら、ミコトは固い塩の小山をザクザクと掘り、小さなかまくらを作る。

 かまくらの上に小さな穴を開け、火のついた炭を入れれば、塩でできた簡易焼き窯の完成だ。

 そこへ飲用可能な鉱泉水で満たした鉄鍋を入れ、その上に焼き網をかけて、香草をまぶしたキバスズキの切り身を並べていくミコト。

 塩釜焼きならぬ、塩窯焼きというわけかい。



「正直どうなるかは全然分かんないっスけど……」



 と、窯の中が高温になり、鍋の鉱泉水が沸き立ったのを確認し、窯の穴二つを鉄鍋の蓋で軽く塞ぐ。

 これにより、炭を燃焼させる酸素を補給しつつ、内部を蒸気で満たそうという寸法だ。

 温泉の蒸気で食材を蒸し上げる、温泉地でよくあるあるアレ的な感じか。


 やがて、上側の穴から蒸気がモクモクとあがり始める。

 匂いはいたって普通だ。

 温泉臭でもするのかと思ってたが……。



「この間に、もう一品いくっス!」



 窯の様子を愛ちゃんに任せ、今度は別の塩の小山の頂上を掘り、すり鉢状にしていくミコト。

 こっちは塩鍋とも言おうか。

 そこへまた鉱泉水を注ぎ、野菜や魚、キノコなどをざっくばらんに入れていく。

 今度は何をするんだい?

 火にかけられる構造でもないし……ただの塩水に浸かった生の食材だが……。



「ふっふっふ……。加熱手段は火だけじゃないんスよ」



 そう言いながら、今度は火ばさみを使って焚火の中から石を取り出すミコト。

 そして、熱々の石を塩鍋の中へと3つ、4つと投下した。

 ジュウ! という音とともに石の周りから泡がたち、キバスズキの切り身が白くなる。

 ミコトはすかさず乾燥昆布と鉄蓋で蓋をし、熱を中に閉じ込めた。


 やがて、二つの塩山から、いい匂いが立ち込めてくる。

 塩窯からは香ばしい匂いが、塩鍋からはほんのりと甘い、コンソメのような匂いが……。

 これは食欲を刺激するじゃないか……。



「それでは御開帳っス! いい感じっスかね~?」



 ミコトが鉄蓋を次々にとり、食材を取り出してきた。

 塩窯の中からは、ふっくらと焼けたキバスズキの身が、塩鍋からは良く煮えたキバスズキと野菜の寄せ鍋が姿を現す。

 握り飯と根菜の漬物を添えれば、今夜の夕食、塩山御膳の完成だ。



「ほう! これはずいぶん上手く焼けたものだな!」



 早速キバスズキの塩窯焼きを頬張ったコトワリさんが声を上げた。



「見た目だけで奇をてらった料理と思いきや、蒸し焼かれた身がホクホクだ。それでいて表面はカリッと焼かれていて、しかも身全体に甘みを感じるほどに絶妙な塩加減が行き渡っている。これはおそらく、一度窯の上に付着した、魚の油分を含んだ蒸気が塩を孕んで滴り落ち、それが炭で焼かれたり、魚の身に降り注いだりを繰り返したに違いない。それによって香ばしさと身のうま味、塩味が窯全体に行き渡ったというわけだな……」



 突然語りだすコトワリさん。

 いや、確かにこれは語りたくなるくらいには旨い。

 しかし、言いたいコメントをほとんどコトワリさんに言われてしまった……。


 なので俺はもう一品の、寄せ鍋のほうに手を伸ばす。

 高温で一気に仕上げただけあって、魚も野菜もぎゅっと縮んでいる。

 俺はキバスズキの身を一つ、口に運んだ。


…………。

 ……。



「うぉ!! しょっぺぇ!!」



 鍋のほうは、とにかくしょっぱかった。

 よく考えたらそりゃそうだ。

 塩の鍋なんだから……。



「うわ! 本当っスね! これはしょっぱいっス!!」


「窯のほうはいいが……こっちは中々の曲者だな……」


「いや……しかしこの味は……」


「なんか……食べちゃいますよね」



 そう。

 語弊の無いように言うと、しょっぱいが、旨い。

 魚の身はふっくらとしていて、汁には野菜のうま味がこれでもかというほど溶け出している。

 言ってしまえばただの塩汁に、何が起きたんだ?



「なるほどっス! このお水、すごい軟水なんス!」


「え、何、ダジャレ?」


「違うっス!! 私、飲めるかダメかでなんとなく使うお水選んだんスけど、ここ、泉ごとに全然硬度が違うんスよ! 今鑑定したら、これ硬度2しかないっス! そりゃお鍋にして美味しいわけっスよ!」



 何やら興奮しているが、俺は水質とかはあまり詳しくない。

 なんでも、水に含まれるカルシウムとマグネシウムの多さで硬さが決まるらしく、硬度が低いほど煮炊き料理に合うらしい。


 そういえば、母さんが通販で柔らかい水が云々とか言って買ってたっけか。

 あれって、ちゃんと意味あったんだなぁ……。



「まあでも、明日は普通の鍋で作ろうな?」



 シャウト先輩がヒーヒー舌を出しながら言うと、皆も似たような表情でコクコクと頷く。

 俺のウォーターショットを詰めておいた10Lのウォーターサーバーは、食事終わりを待たずに空になっていた。


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