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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第29話:砂漠迷宮からのお土産




「はっ! 雄一先輩~! ミコト先輩~!」



 クエストという名の散歩デートを終え、採集したラッパ草をクエストカウンターに渡して報酬を受け取っていると、午後のクエスト上がり勢でごった返す食堂の奥から愛ちゃんがバタバタと駆けてきた。

 なんかすごい困り顔してるけど……。

 どうした?



「町を歩いてたら突然凄い数の人に囲まれて、すっごいチヤホヤされちゃったんですよ~!」


「え! 何!? 自慢!?」


「違いますよ~!! 無茶苦茶怖かったんですよ~! 私何かやっちゃいましたか!?」



 まあ……。

 冒険者チヤホヤタイムの被害に遭ったんだろう。

 つい一昨日までは、ただの一駆け出し冒険者だった彼女だが、昨日からは「初めてのダンジョンで主を葬った期待の超新星」となったわけだ。

 チヤホヤするの大好きなこの街の人たちのこと、そりゃ格好の標的になる。



「君の評判はギルドの号外にもなってるよ~。ほら~」



 クエスト上がりらしい南方マッチョのターレルが、汗を拭きながら現れた。

 その手には、今日の昼に刷られたギルドの臨時会報が摘ままれている。

 なになに……?


 雷刃・シャウトパーティーの超大型新人 アイ!

 冒険者歴1週間未満! 極北ラビリンスの主を討つ!


 こりゃまたすげえ見出しだな!!

 こんなんばら撒かれたら、そりゃ街は大騒ぎにもなる。

 もうお茶の時間はだいぶ過ぎているので、流石に街中で追い回されることはないだろうが、ギルド食道に屯する冒険者達は口々に愛ちゃんを茶化し、その度に彼女は赤面していた。


 基本的に単純で、今日の一日が楽しければいいみたいな思考の冒険者連中のこと。

 悪意はないんだろうけど、引っ込み思案の愛ちゃんにはちょっとハードモードだな……。

 あまり絡まれるのもアレなので、「どうだ! 俺の舎弟すげぇだろ!」と、軽くあしらっておく。



「あはは~。まだ若いのに凄いなぁ~。僕らも頑張らないとね~」



 と、おっとりした雰囲気で笑うターレル。

 ふと「あ、そうそう」と言って、肩にかけたデカい採取ポーチをガサゴソと漁り出した。



「ほら~。今回のダンジョンではこんな魚が釣れたよ~」



 そう言って取り出したのは、ぼってりとしたカエルのような……魚?



「砂漠迷宮の流砂で泳いでたんだよね。ボクもカエルかと思ったんだけど、ちゃんとエラとヒレがあるんだよ~。面白い魚だね~。はい、ユウイチくん」


「お! ありがとう! はいこれ、依頼報酬」



 俺は銀貨5枚を差し出したが、彼はニコニコ顔で首を横に振った。



「あはは~。別に僕はいらないよぉ。趣味で釣っただけだもん。その代わり、明日僕と釣りに付き合ってほしいなぁ」


「えーっと明日は……。予定は無いね。ああ、いいよ。あの干潟だな?」


「そう! あの干潟だよぉ~」



 あの干潟……特務メンバーで潮干狩りをした場所だ。

 俺もあそこで一回投げ五目をやりたいと思っていた。

 近々一緒に釣りをしようと約束していたので、丁度いい。

「じゃあ明日の朝待ってるよ~」と言って、ターレルは去っていった。



「明日は一緒に過ごしてくれないんスか……?」



 振り返ると、ミコトが絶望の表情を浮かべてこっちを見ていた。

 いや、そんな顔するほどのことかい!?

 しかしすぐ「なーんて、嘘っス。明日は愛ちゃんとお買い物でもしてくるっス! 楽しんできて欲しいっス!」と笑う。



「あ……先輩実は私も明日はちょっと用事が……」


「ふぇっ!?っス!」


「ちょっと剣技の講習会行ってきます……」


「うぇえええええん!! 私は寂しい女っス~!」



 ミコトはそう叫びながら、ギルド本部から飛び出していった。



「追わなくていいんですか!?」



 と、愛ちゃんが血相を変えているが、大丈夫、心配することは無い。

 あの感じなら、少しすれば戻ってくる。



「ところで先輩、さっき依頼報酬って言ってましたけど、魚釣ってくる依頼出してたんですか?」


「ああ、まあ君にもサラッと言ったけど、ミコトの件があるだろ? 俺達だけじゃ回収しきれないだろうから、特務戦力の面々に私的に依頼出したんだよ。変わった魚が居たら採取してきてくれって。珍しい魚を見たいとか理由つけてさ」


「わぁ! 先輩! 頭いいです!」


「だろ? ま、コイツは生憎、ミコトのライブラリーの魚ではなかったみたいだけどな」


「その子どうするんですか?」


「食べてみる?」


「食べれるんですかそれ……?」



 俺は腕の中の魚を見つめる。

 見た目はミドリフサアンコウのようだ。

 ていうか、よく見るとエラらしき器官がまだ動いているように見える……。

 かなり表皮が乾燥してるけど、生きてるのか?



「砂漠の流砂で生きてるのなら、何か乾燥と呼吸に関する秘技を持ってるかも知れないっスね」



 いつの間にか戻ってきたミコトが、屋台で買ってきたと思しき串焼き肉を頬張りながら分析する。

 愛ちゃんは驚いているが、俺はもう慣れっこだ。



「ここ、ギルドメンバーなら自由に使える調理スペースあるらしいっスから、そこで捌いてみるっスよ」



 そんなのあるんだ……。

 ミコトに案内されるままに、俺達はギルド本部の奥へと向かった。




////////////////




 ギルド本部の集会所から伸びる長い廊下を少し歩くと、ちょっとしたレクリエーション部屋等が並ぶ、市民体育館のようなスペースに行きついた


 こんなところがあるなんて知らなかったよ。

 剣の試し切りができるスペースや、砂場で足腰を鍛える訓練が出来る部屋、ボルダリングのような設備がある部屋等々。

 色々と面白そうな場所だ。



「ここっスよ」



 「調理室」と札の付いた部屋には、冒険者ギルドという特性上、あまり使われていないのか、使用感のないコンロや流しがいくつか供えられていた。

 学校の家庭科室みたいだ。



「おっと、失礼……」



 中から丁度人が出てきたので、俺は横に体を避ける。

 あれ? この人は。



「瞬撃……?」


「!!」



 相手がカッと目を見開き、俺の顔を見つめた。

 やっぱり!

 いつか大通りで見かけたあの人。

 都のギルドの二つ名持ち冒険者、瞬撃・シュンくんだ。

 黒髪に濃い茶色の瞳、彫りが浅めの鼻筋など、どこか故郷を思わせる顔立ちをしている。

 やっぱり君は……。


「俺、デイスギルドから来た雄一って言います」と、名刺代わりにギルドカードを見せる。

 一般的な冒険者の初対面時の挨拶だ。

 相手は二つ名持ち、年下相手でも敬語を使っておこう。


 あの時なぜか俺の顔を見て目を逸らした彼。

 自意識過剰かもしれないが、もし理由があるなら聞いておきたい。

 それに仮に転生者なら、知り合いになっておいて損はないだろう。


 と、ここまで言っておいて、俺の脳裏を嫌な予感が駆け抜けた。

 あの、銭湯のサウナでの一件である。

 思えば、あの時俺を襲った謎の敵もこれくらいの身長だったような……。

 あれ……俺もしかして墓穴掘った……?



「……」


「……」



 俺とシュンくんの間を沈黙が支配する。



「……!!」


「あっ!! ちょっと!」



 俺が歩き疲れた足首をコキっと鳴らした瞬間、彼は凄いスピードで廊下を走り去っていった。

 ……敵意は感じなかった。

 むしろ、俺に対して恐怖を感じているかのような表情だった気さえする。

 俺、何か悪いことしたかな……?



「何ですかあの人! 感じ悪いです!」



 愛ちゃんが後ろで憤っている。

 彼女は彼に対して、特に違和感を抱かなかったようだ。

 やっぱり俺の思い過ごしかな?


 しかし、ミコトは「あの人どっかで見たような気がするんスよね……」とか言ってるし……。

 ま!

 今はどうでもいいか!

 この謎魚の調理が先決だ!




////////////////




「うわ! 凄いっスよこの子! 鱗がないのかと思ったら、体表に分厚い粘膜の層を形成してるっス!」



 ミコトが流しで魚を洗うと、ツルンとした表皮が段々とめくれ上がり、ザラザラとした鱗が姿を現した。

 同時に、ビチビチと暴れ出す魚。

 ハイギョが夏眠の際に、体表に繭のような粘膜の殻を形成して渇きから身を守るのと似ている。


 破れた膜の内側からは、粘り気のある水がドロドロと流れ出てくる。

 なるほど……。

 これで膜と身体の隙間に水のベールを作り、膜の表面から皮膚(?)呼吸で取り込んだ酸素をベールの中で循環させて呼吸しているのだろう。

 宇宙服みたいな感じか。


 しかし当然ながら、それで取り込める酸素は少ない。

 だから、膜に覆われている時は動きが鈍いってわけか……。

 カラカラに乾燥した地域で生きるため、能力を極限まで絞ってるんだな。

 あー! 現地で観察したり釣ったりしてみたい!!



「わ! 見るっス雄一さん! この子下顎が二重構造になってるっス!」



 一刀のもとに魚の頭を落としたミコトが、その口を指で広げて見せてくる。

 ほえぇ……。

 これまた面白いな。

 砂の中で食べた餌を、下顎で砂と分離して、飲み込むのだろうか。


 こうやって観察している間にも、エラからはネバネバヌルヌルの透明な液がしたたり落ち続けている。

 これで口内とエラの間も塞いでるんだろうな。



「これ……何の臭いもないっスけど、なんかローションとかに使えそうっスね」


「え!?」



 そのネバネバを指で掬って見せるミコトに、愛ちゃんが顔を真っ赤にして声を上げた。

 ミコトも一瞬考えた後、顔をシュポっと紅潮させ、



「違うっス! 保湿ローションって意味っス! 私こんなところで下ネタ言わないっス!」



 と、慌てて訂正した。

 まあ確かに使えそうだが……。

 エラから出てきたジェルを体に塗るのはちょっと抵抗ある。


 「もう! 愛ちゃんもエッチなんスから!」と、言いながら、ミコトは魚の身を三枚におろしていく。

 身は至って普通の白身だ。


 熱に耐えるためだろうか。

 ブルブルと揺れるゼラチン質が皮の下にどっしりと乗っている。

 こりゃすごいな……。

 あとなんか……臭みが……。



「臭いっスね……」


「臭いですよこれ!」



 臭い!

 アンモニア臭い!

 そうか……。

 水を極力消費しないために、尿とかの成分を体内にため込むとかそういうやつか!



「これ身は食べれたもんじゃないっスよ! こっちのプルプルは……臭わないっスね」



 身とプルプルを切り分けると、確かにプルプルの方は臭くない。

 食うとしたらこっちだな……。

 鑑定スキルでミコトが診てくれたところ、プルプルは無毒のようだ。

 しかし、食えるといってもこれ……どうするよ?



「お刺身にしてみるっスか?」



 ミコトが手慣れた手つきでプルプルを薄く切る。

 その見た目に反してかなりしっかりしているらしく、薄く切っても全く崩れない。

 それを一枚もらい、塩を軽く振って食べてみた。


 ん……

 あー……。

 ん―――……?


 マズくは無いが、旨くもない。

 というか、ほのかな白身の風味があるだけで、味は殆ど無い。


 食感はマリクイアゴダイの頭と顎のプルプルに似ているが、こちらは魚らしい味があるため、デザートに使うとかは無理そうだ。

 魚介スープとかの具が最適解かも。



「あ! それでしたら、こういうのはどうっスかね?」



 そう言うと、ミコトは鍋に湯を沸かし、キバスズキの骨の干物で出汁をとって、野菜を刻み入れ、塩とオイスターソース的な現地の魚醤で味を調えると、細く刻んだプルプルをサッと入れた。


 熱に耐えるための物質だけあって、それは殆ど変質することなくスープに馴染み、まるで春雨のように透き通った麺となった。

 おお! これは旨そうだぞ!


 一口啜ると、うん!旨い!

 春雨よりも固く、高級サラダに盛られたフカヒレのような食感だ。

 熱を通すことで旨味が増したのか、それともスープを吸ったのかは分からないが、味もさっきよりはっきりと感じる。

 文句のない旨さだ。



「美味しいです! 酸味を加えてもいいかもしれないですね」


「あ! それもいいっスね! 辛さも足して酸辣湯風にしても多分美味しいっスよコレ!」



 食材としてはかなり面白いが、生憎、一人一杯だけでプルプルは消費してしまった。

 うーん……。

 もっと食べたかった。

 色々試すとしたら、砂漠系の迷宮行くか、ガチの砂漠行くしかないのかぁ……。



「身はどうします……?」



 愛ちゃんがボソリと言った。

「もう臭いからして食べたくないけど、せっかくの命、無駄にすべきじゃないよね」

 俺がそう呟くと、二人の首がグリンと俺の方を向いた。

 えーっと……。

 何で見るの二人とも……?



「雄一さん……。あなたが頼んだ魚っス」


「責任を取るべきかと」



 そう言って、えげつない臭気を放つ刺身を俺の方へ差し出してくる二人。

 うわ! ちょ……! 本当に臭いキツい!!



「一応食べ合わせ出来そうなお漬物や香辛料もあるっス! さあ!」


「命を粗末にしちゃだめですよね! さあ!」



 香草の塩漬け、ニンニク的な野菜、シソ的な野菜、そして飲み合わせの強めのお酒がどこからともなく差し出され、俺はそれらと一緒に身を口へと運び―――。


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