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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第25話:クリスタル雪原迷宮 驚異のイシガキデメニギス




 ガリッ……。

 バリッ……。


 散開して身を潜める俺達を尻目に、散らばって刺さった水晶の塊をガリガリと食らう巨大魚。

 雪空に紛れる灰色がかった銀色の魚体に、戦闘機のコクピットを思わせる透明なドーム状の頭がくっ付いていて、中には球体がいくつか入っている。

 テレビの深海魚特集とかで何回か見たことのあるシルエットだ。

名はデメニギスだったか。


 しかし目の前の魚には、デメニギスにはない特徴が備わっている。

 それこそが今まさにクリスタルをガジガジと噛むくちばし状の歯である。

 イシダイやイシガキダイなんかに見られる、サザエやウニを齧るための器官だ。

 白い口元なので、掛け合わせたのはイシガキダイ(老成魚をクチジロという)だろう。


 ミコト……。

 かけ合わせが謎な上にネーミングが安直すぎるよ……。

 そりゃコンペ通らないって……。



「! 何でそんな憐れみを込めた目で私を見るんスか!?」


(バカ! デカい声出すな! つか狭ぇよ!!)



 生存本能だろうか、俺とミコトは咄嗟にシャウト先輩の元へ駆け寄り、彼女が伏せた窪みに詰めかけた。

 おかげで小さな雪の穴はギュウギュウだ。

 愛ちゃんはコトワリさんが抱きかかえて後退し、いい感じの倒木の後ろから巨大怪魚を見上げている。



(見たことのねぇ化け物だ……。あの口で噛まれたらただじゃ済まねぇぞ……。アレがここの主だ)


(マジっすか? んじゃサクッと倒しちゃいましょう)


(なんかいきなり元気になったなお前)



 そりゃそうだ。

 山みたいな巨大ウニと、デカいと言っても10m程度の飛ぶ変な魚。

 どっちと戦いたいかと言われたら、強いウニと戦いたいウニ戦闘狂か、ウニを山ほど食いたい人でもない限り後者を選ぶだろう。


 やれやれとため息をつきながら、先輩が短剣を構える。

 「援護は?」と聞くと、「ヤバそうなら助けてくれ」と返してきた。

 まあ、先輩ともなれば、あのくらいの化け物大したことのない獲物に違いない。


 「殺るぜ……!」と、小さく呟くと、先輩は雪穴から飛び上がり、短剣を天へと掲げて叫んだ。



「サンダーブラスト!!」



 剣から放たれた雷のマナが、大気中に漂う天然のそれと融合し、瞬く間に強大な雷となって宙をかける。

 蒼白の稲妻がイシガキデメニギスに走り、直後、「ドーン!」という轟音が鳴り響いた。

 「やったか!?」と、コトワリさんの叫び声が聞こえる。

 アンタが言うとなんか不穏だ!!


 眩い雷光の瞬きで眩んだ目が晴れてくると、そこには……。

 何食わぬ顔で宙を漂う巨大魚と……。

 膝をついて倒れる先輩!!



「先輩!!」



 俺は叫ぶよりも先に体を動かしていた。

 キンキンキン!!!と、感知スキルが緊急事態を告げる。

 イシガキデメニギスの敵意がこちらへ向けられてる!


 先輩の身体を抱き上げ、超短距離テレポートで離脱する。

 コトワリさん達が身を隠していた倒木の裏だ。

 同時に感知スキルの騒音が小さくなった。

 敵は俺を見失ったらしい。



「シャウト! どうした!? 何をされた!?」



 コトワリさんが気を失っている先輩にヒールをかける。

 パッと見では分からなかったが、先輩の髪や服は所々が黒く焦げ、肌にも線上の火傷跡が残っていた。

 これは……リヒテンベルク図形……。

 放電によって発生する痕跡だ。

 落雷に打たれた人の身体にもこの痕跡が出ると言われている。


 あの魚……電気攻撃使うのか!?

 だとしたら、厄介どころの騒ぎじゃない!

 仮にも電気魔法のエキスパートである先輩を一撃で叩き伏せるほどの能力とあらば、俺達だけで何とか出来るわけがない!



「せ……先輩! ミコト先輩が!!」



 愛ちゃんの声にハッとして振り返ると、ミコトが剣を構えてイシガキデメニギスと対峙していた。

 ヤバい!

 いくら頑丈なミコトでも、先輩を確1で落とす電撃なんか食らったらひとたまりもない!



「コトワリさん! あの魚もミコトの研究室から逃げ出した奴です! 回収を!」


「なにっ!? しかし少し待ってくれ! シャウトの治療が先だ。君達で時間を稼いでほしい!」



 ……。

 ………。

 はい……。


 俺は再び超短距離テレポートでミコトの元へと飛ぶ。

 電撃がテレポートで躱せなければお陀仏だが、彼女を見殺しにするわけにもいかない。

 ミコトの真横に降り立つと、感知スキルが再び鳴りだした。

 こちらを向いて静止する魚と睨み合いながら、俺は双剣を引き抜く。



「雄一さん! 先輩は大丈夫っスか!?」


「多分! コトワリさんがヒールかけてくれてる! ていうか君は何て化け物作ってくれちゃってんだよ!?」


「し……知らないっス! 私の作った子はあんな技持ってないっス!」


「じゃあこの世界に順応して進化でもしたってことか……?」


「そこまでは分からないっスけど……。この子なんか……。臭いっス」


「臭い……?」


「魔の物の臭いがするっス……」


「それってどういう……」


「分からないっス。でも、この子が元の設計通りじゃないことは確かっス」



 ダゴンや、邪神教徒や、悪い転生者連中が盗み出した魚のデータに何かしたのか……?

 それとも魔の瘴気を摂取して進化したのか……?

 はたまた、他人の空似ならぬ他魚の空似……この世界の魔物がミコトの作ったそれによく似ていたのか……?

 ただ、そんなことよりも、今の俺達には気になることがあった。



「全然動かないっスね……」


「攻撃とかしてくる気配もないな……」



 見た目はやたら特異で威圧的なイシガキデメニギスだが、何も仕掛けてこない。

 透明ドームの中にある複数の目でこちらを見つめながら、ユラユラと宙を泳いでいるだけだ。

 あれ……?

 嘴攻撃時々放電攻撃くらいの猛攻は覚悟してたんだが……。


 張り詰めた睨み合いの末、先に動いたのはイシガキデメニギスの方だった。

 俺達にプイと尻を向け、再びクリスタルの結晶齧りに戻ったのだ。

 あれれ……?


 もしかしてかなり温厚なタイプ?

 「元から狂暴には作ってないっスから!」と、なぜかミコトが胸を張る。

 しかし、ともすればこれは好都合だ。

 コトワリさんの回収準備まで暢気にエサを食ってくれてればいい。


 そろそろかなと振り向くと、愛ちゃんが深い雪に苦戦しながら、バタバタと駆けてきた。



「先輩! コトワリさんの準備終わったそうです! これを!」



 そう言って手渡されたのは、あの白いカード。

 マジで!!

 俺やっていいの!?


 と、一瞬ぬか喜びしたが、それをミコトがスッと取り上げた。

 「天使しか使えないようロックかかってるっス」と、舌をペロッと出すミコト。

 あ! ズルい!



「えへへ……でもカッコいいとこ見せるっスよ てい!」



 と言いながら、ミコトはカッコいいというよりも可愛い感じのフルスイングでカードを放った。

 投げられたカードはクルクルと回転しながら飛んで行き、やがてイシガキデメニギスのすぐ傍でピタリと止まる。

 眩い光がそこから放たれると、銀色の巨体がゆっくり引き寄せられていく。


 ふう……。

 何度も身の危険を感じたが、これでひと段落か……。

 巨大ウニの謎を放置したまま帰るのは名残惜しいが、この迷宮は世界の映し絵。

 いつか極北に行けば見られるだろう。

 行けたらの話ではあるが……


 ちょっとした名残惜しさを感じながら、剣を鞘に納めて軽く伸びをする。

 帰る前にもう一回くらい釣りしてみたかったな……。

 もっと特異な生物がいるかもしれない……。


 そんな、雪原の底に眠る深海の空想は、「ん!? 雄一さん!? なんか変っス!!」という、ミコトの声にかき消された。


 見れば、カードに吸収されかけていたイシガキデメニギスの内部から黒い霧が噴き出し始めている。

 あれは……。

 瘴気!!


 噴き出した瘴気は、カードから伸びる白い光芒をバリバリと破り、やがてはそのカードにまで浸透し、燃え上がらせた。

 それだけではない。

 銀色だったイシガキデメニギスの身体に黒色の斑紋が浮かび、全身が刺々しく変形を始めたのだ。



「魔物に……なってるっス……」



 自分が描いた生物が、忌々しい魔の眷属へ変容する姿を目の当たりにし、言葉を失うミコト。

 衝撃の光景に立ちすくむ俺達目がけ、その巨体が勢いよく突っ込んできた。


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