第24話:クリスタル雪原迷宮 クリスタル流星群
「これがウニの足跡だってのか?」
俺が発見した無数の足跡まで皆を運び、現場検証を行う。
シャウト先輩がしゃがみ込み、足跡の雪を手で掬い取り、鼻に近づけながら「まあ……獣の類の臭いではねぇな」と言った。
確かに、左右対称の楕円形のそれは、人や哺乳類の足跡には思えない。
「ウニは“管足”っていう吸盤付きの足で移動するんス。よく見ると分かるんスけど、この足跡真ん中に少し突起があるので、その可能性は高そうっスね」
「こんなサイズの足跡となると、本当に小山みたいなサイズかもしれないな」
今更になって思えば、辺りにはウニのような形をした岩山が点在している。
というか、雪の霞で分かりづらかったが、俺達がベースキャンプにしていた洞窟のある場所も、遠目に見ると磯とかに転がってるウニ殻っぽい見た目だ。
ここは巨大ウニの楽園だったのか……?
「ああ、確かに魔方針はこの足跡の先指してら」
先輩が指差したのは、その巨大ウニが這っていったと思われる先。
一直線に伸びる雪原だった。
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ウニの足跡を追い、雪原に沿って生える氷樹の林を歩いていく俺達。
雪原は足跡でデコボコで、とても歩けたものではないからだ。
当然だが飛行スキルの使用は控える。
あの謎の攻撃がウニによるものだとしたら、迂闊に飛ぶと狙い撃ちされてお陀仏の恐れがあるからだ。
感知スキルもオートガードも反応しない攻撃が出来るとあっては、俺如きが打って出れる幕ではない。
「仮にその巨大ウニが迷宮の主だったとして、倒せる見込みあるんですか!?」
「んなもん対峙してみねぇことには分からねぇだろ。 デカい割に弱い奴なんてこの世にはいっぱいいんだよ」
「強かったら……?」
「そん時は搦め手を試すまでよ」
「うへぇ~……不安だぁ……」
その小山のようなウニを仮想ボスと定めて追いかけるのはいいとして、どうやって倒すのかは未定のままだ。
先輩は小山のようなゴリラなら電撃の乱れ撃ちで倒したことがあるらしいが、ウニは初めてだっていうし……。
何気に過去最高に危険なクエストじゃないかこれ……?
「大丈夫っスよ! 雄一さんかなり強くなってまスし、私達5人揃えば大きなウニくらい余裕っス!」
「そうですよ! 先輩ならウニくらい余裕でやっつけられます!」
気楽なことを言うミコトと、あらぬ期待をかけてくる愛ちゃん。
やめて……俺そんなに強くないの……。
あの猿が弱かっただけなの……。
この子完全にユーリくんやレフィーナみたいな失望コースに入っている気がする。
頑張ろうとは思うが、あのサイズはなぁ……。
上げ落としのテンプレに悩みながら、シャウト先輩の背中を追っていると、不意に聞き覚えのある音が耳に届いた。
ピィィィィィィ……という、笛を吹くような高音。
「みんな伏せろ!!」と、咄嗟に叫んだ俺の腕が何者かに凄い力で引っ張られる。
勢いよく転倒した俺の眼前に、ズドンと何かが落下してきた。
白く輝く結晶に、驚愕の顔を浮かべた男が映っている……。
落ちてきたのは、巨大なクリスタルの結晶だった。
映っていた顔は、俺のそれ。
な……なんでクリスタルが……。
「大丈夫か……! ユウイチ!!」
耳の後ろから聞こえる先輩の声と、足のあたりから聞こえるバチバチというスパーク音。
ああ……そうか……。
先輩が一瞬で取って返し、俺の手を引いて直撃コースから逸らしてくれたのだ。
「あ……ありがとうございます……」
「まだ終わってねぇぞ! 攻撃に備えろ!」
「はい!」
立ち上がり、双剣を構えて心を集中させる。
感知スキルやオートガードをすり抜ける攻撃には、攻撃の意志を隠す何らかのスキルが働いていることが多い。
心頭滅却や、暗殺スキルなどがそれだ。
対抗策は自分へ向かう感情の流れをより深く読み取り、包み隠された俺に害をなす意志をつかみ取ることである。
現代の電子戦じみた部分があるなこの辺……。
ミコトから流れてくる俺へのピンク色の感情をシャットアウトし、俺達を狙う何者かの気配を探る……。
探る……。
……あれ?
「雄一!! 危ない!!」
今度はコトワリさんが俺の前に立ち、ガード魔法を放つ。
俺のオートガードに似た形の白い魔力防壁が展開され、クリスタルの結晶を受け止めた。
あ……ありがとうございます……。
「ああ、無事でよかった。皆私の周りに集まるんだ!! これは避けられるものじゃない!!」
コトワリさんの呼びかけに、身を寄せあって伏せる俺達。
そこへ、まるで流星群のようにクリスタルの槍が降り注いできた。
これ……。
俺達に向けて放った攻撃じゃない!
「んだと!? じゃあ何かの戦いに巻き込まれてんのかアタシら!?」
コトワリさんの後ろに隠れず、雷光を纏ってクリスタル流星群を連続回避していた先輩が驚嘆の声を上げた。
そして僅かな間を置き、「おい! 魔方針がこっちに向いてんぞ! 主が近づいてくる!!」と叫ぶ先輩。
結構余裕あるな!!
同時に俺の感知スキルに「キン!」と鋭いピークが出た。
何かが……来る!!
見上げた頭上を何かがローリングして通り過ぎていく。
ガラスのように透き通った頭部。
突き出た白い口。
そして大きく広がった左右の翼上のヒレ。
それはまるで、SFで出てくる航空機のような姿で……。
「イシガキデメニギスっス!!」
ミコトが俺の耳元で叫んだ。