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第16話:クエスト ~へリング高地の異変を調査せよ~ 中編




「はい、武器ヨシ! 防具ヨシ! 回復ポーチヨシ! それじゃ出発!」


「おー!」


「いやちょっと待てや!」



 いつものノリでクエストに出発する俺達をエドワーズが呼び止めた。



「何だよ~。早くクエスト終わらせて予備日までノンビリしようぜ~」


「おいおい……。俺達のレベルからしたら結構高難度のクエストだぜ今回? まずは武器屋とかで情報聞き込みしなきゃ駄目だろ」


「そうですよ。1週間のクエスト期間があるなら、一日はそれで費やしてもいいくらいです」


「一応情報は仕入れてあるけど……」


「まあまあ雄一さん。ここは私達より経験豊富なお二人に従うべきっスよ。広場に冒険者向けの店が集まってるらしいっスから、とりあえず皆でそこに向かうっス」



 ミコトもそう言うので、俺は彼らの言い分を聞くことにした。


 宿から暫く歩くと、海水を引き込んだ池がある大きな広場に出る。

 街の中心に位置するそこには、冒険者向けの店以外にも飯屋、占い屋、簡易教会、病院などが軒を連ねていた。



「とりあえず手分けして情報を聞いて回ろう。俺は武器屋に行ってくる。ついでに安い良い武器があったら買ってくるよ」


「私は病院でここ最近怪我人が出ていないか、仮に出ていたならその原因を聞いてきます」


「私はご飯屋さんでへリング高地の名物食材を聞いてくるっス」


「俺は釣具屋で……痛ぇ!!」



 強烈なツッコミと共に、俺達は全員そろっての情報収集と相成った。

 案外冗談通じないなコイツ……。

 

 まず、武器屋では高地の生物、魔物には水属性の攻撃が有効という情報が得られた。

 夜になると冷え込むへリング高地では体を水にぬらすことは自殺行為らしく、あの恐ろしい西血みどろヒグマやリトルオークさえも低級の水魔法攻撃で撃退できるそうだ。


 病院ではここ最近、熊や狼被害が激減し、突然何者かに切りつけられる怪事件が多発しているという嫌な情報が出て来た。

 「カマイタチ」の仕業ではないかと嘯かれ、今高地に向かう住民は殆どいないらしい。


 飯屋では名物の山の幸の一つであるへリングスギタケが入荷出来ないという情報が、そして釣具屋では、イカ釣り用の疑似餌にニューモデルが出たという情報を得られた。

 エドワーズがゲンナリしてきたので、そろそろ真面目にやった方が良い気がする……。



「熊やリトルオークでも恐れるような生物が悪さをしてるみたいだな」


「はぁ……。そうだな……」



 とりあえず屋台で若テイオウホタルイカの串焼きを買い、海水池のほとりで作戦会議に入る。

 どうした元気ねーなとエドワーズの肩を叩くと、チョップが帰ってきた。

 ごめんなさい……。

 素直に謝るとエドワーズは「全く……」と言いながら体勢を変え、ポーチから取り出した地図を広げる。



「姿の見えない切り裂き魔は高地の至る所で被害を出してる。相当数があの高地に潜んでるとみて間違いないと思うぜ」



 聞き込みして得られた情報を地図に書き込んでいくエドワーズ。

 遊歩道も、泉周辺も、何もない針葉樹林のど真ん中でも被害が確認されていて、普段生息している生物は殆ど見当たらないようである。

 過去に熊被害、狼被害、魔物被害の激しかったという「熊の丘」「狼の巣窟」「ゴブリンの砦」等と呼び名のある地形においても、彼らと遭遇するのは稀らしい。

 仮に出会ってしまったとしても、その多くは傷つき、弱っていて、逃れるのも狩るのも容易とのことだ。

 そして気がかりな情報が一つ。

 森の至る所で何かが焦げたような黒い跡が見受けられ、耐えがたい異臭を発しているというものである。

 恐らくは昨晩確認されたあの黒煙と光が原因と思われた。



「なんかいよいよ怖くなってきたっスね……」



 ミコトが俺の後ろに隠れる。



「見えない敵となると、ユウイチとミコトの探知スキルが要になるな……。二人を俺達が挟むような形で護衛しながら歩いて回ろう」


「え! 歩くの!? 俺達飛んで見てくるけど」


「そうは言うがな、あの針葉樹林見ただろ? 上からじゃ何も確認できないぞ」


「今回は“調査”クエストですから、歩いて地形変化や生物の痕跡を探さなきゃ駄目ですよ。お二人のスキルに任せたいのはやまやまですけどね……」



 あれ……もしかしてこの調査クエスト割とヤバいかも……?

 俺がそれに気づいたのは、高地へ続く山道を登り始めた時だった。

 感知スキルに神経を集中し、歩くのだが、敵の存在はおろか、生物の気配が全く感じ取れないのだ。

 鹿の鳴き声も、狼の遠吠えも、熊が木々を薙ぎ倒す音も……。

 ゴブリンやリトルオークの足音、喋り声も全く聞こえない。

 針葉樹林の狭間にはしっとりとした苔や低木が無数にあり、所々林が切れている箇所には実を付ける木が甘酸っぱい果実を無数に実らせているにも関わらずである。

 葉が齧られた跡や、木に付けられた傷、糞等も殆ど見当たらず、生物が去って久しい印象を受ける。



「まるでゴーストフォレスト……。生きる者がいない森だ……」



 エドワーズが警戒を続けながら呟く。

 ゴーストとか言うなよ……。怖いだろ。



「ひいいいいい!!! 今そこで何かが動きました!!」



 突然、殿のコモモが叫んだ。

 一気に緊張が高まる。

 と、同時に、コモモがミコトに抱き着き、それに驚いたミコトが何かを叫んだかと思うと、二人の姿がシュっと消えた。

 あ!! 逃げた!!

 俺も慌ててエドワーズに抱き着こうとするが「ちょっと待て!」の声と共に顔面に平手が飛んできた。

 いや、俺が平手に飛び込んだのか……。



「ユウイチ……。感知スキルはどうだ?」



 姿勢を低くし、コモモが指さした方向へいつでも攻撃を仕掛けられる体制をとるエドワーズ。



「いや、敵意は感じない。いいお化けか?」


「いい年してお化けとか言うなよ……。とりあえず俺達だけでも進もう。せめて監視拠点は確保しておきたい」


「ちょ……置いてくなって!!」



 一瞬テレポートで逃げようかとも思ったが、流石にエドワーズをここに放り出すのは忍びない。

 とりあえず本当に危険が迫るまでは彼に付き合うことにした。


 恐怖と戦いながら3時間ほど歩くと、高地で最も標高が高いとされる場所までたどり着いた。

 流石に気温がだいぶ低く感じる……。

 その冷たい空気に乗って流れてくるのは、街で聞いた異臭……。



「うわ! 臭っ!! なんだコレ!?」



 エドワーズが声を上げて悶絶する。

 針葉樹林が切れた広場のようになっている場所。

 そのど真ん中に臭いの原因が広がっていた。

 幅5mはあろうかという窪みを中心に、黒い焼け跡のようなものが広がっている。

 パッと見隕石か火山の噴石が落ちてきた跡のようだ。

 鼻を摘まみながら近づくと、黒い跡は妙に固かった。

 煤とかそういうモノではないな……溶岩か?

 中央の窪みは空っぽで、三角錐の物体が突き立ったような形で掘られている。

 三角錐の隕石や噴石が溶岩まき散らしながら降ってきて、ここに落ちた?

 いやいや……それなら窪みの中に石がないとおかしなことになる。


 等と自問自答していると、「キーン!!」と凄まじい音が脳内に鳴り響いた。

 敵がすぐ傍にいる!! それもかなり危ない奴だ!

 エドワーズに迫る危機を告げようと振り返る。

 だが、俺が見た時既に彼は何者かによって切りつけられ、胸から血しぶきを上げて倒れ込むところだった。



「エドワーズ!!」



 俺は思わず声を上げて駆け寄る。

 だが、この行動は危険極まりないものだった。

 わざわざ切りつけ魔のいる領域に飛び込んでいったのだから。



 ガン!! ガン!! ガン!! ガン!!



 頭上でオートガードスキルが発動し、金属のような音を立てて4連撃が飛んできた。

 攻撃の衝撃が体を揺さぶり、俺は地面に叩きつけられる。

 オートガードが無ければ今の一撃で俺の首は吹っ飛んでいただろう。

 次の攻撃が来る前に、俺は必死で匍匐前進し、エドワーズに覆いかぶさり、そのままテレポートで脱出した。




///////////////////////////




「エド!!」



 街の広場に飛んできた俺達を見たコモモが血相を変えて駆け寄ってきた。

 エドワーズは胸元からダラダラと血を流し、ぐったりとしている。

 ミコトとコモモに指示を出し、3人でエドワーズを抱え、目の前の病院に担ぎ込んだ。

 幸いにも熟練の医療魔術師の先生がいたため、その場ですぐに再生魔法をかけてくれ、致命傷にはならなかった。

 再生魔法は激しい痛みを伴い、体力を大幅に消耗するため、治療が終わってもエドワーズは目を覚まさず、一晩の入院と相成った。



「ごめんなさい!!」



 ミコトが土下座して謝っている。

 コモモもまた「私が大げさに怖がったせいで!!」と土下座する。

 正直ちょっと説教してやろうかと思ったが、俺もあの時テレポートしようとした手前、強くは言えない。

 一先ずエドワーズを病院に預け、俺達は一旦宿に戻ることにした。

 帰りの道中も二人は真っ青で、宿についても真っ青で、飯を食い、風呂に入っても真っ青だった。

 いくらなんでも大げさだろとフォローを入れてやると、彼女達は青い顔で「このクエストやめましょう……」「ヤバいっスよこの高地……呪われてるっス……」と小声で呟き始めた。

 どうも様子がおかしいので、ミコトを問い詰めてみると。



「母親の怒りと悲しみと怨念が渦巻いてるって占い師さんが言ってたっス!! 多分戦場で子を無くした母の怨念がここに集まってるんスよ!」



 と、泣きながら抱き着いてきた。

 どうやらテレポートした後、女二人で占い屋に行ったらしい。



「人が怖い思いしてる時に何やってんだ―――!!」


「ごへんなひゃい~!!」



 とりあえず頬を引っ張る。



「ちょっと待ってください! 占い師さんの様子がおかしかったんですよ! 遊びで入ったわけじゃありません!」



 と、コモモが弁明を始めたので、とりあえず耳を傾けた。


 テレポートで街の広場に戻ると、占い屋の前がえらく騒がしかった。

 様子を見に行くと、占い師さんが半狂乱で高地の方を指さし、母親の怨念が云々と叫んでいる。

 彼女が落ち着くのを待って事情を聞くと、先ほどの内容を言ってきたらしい。

 そのまま占い師は倒れ、エドワーズのいる病院で寝込んでいるそうだ。


 宿から高地の方を見ると、昨晩と同じく激しい黒煙が吹きあがり、妖しい光が空に立ち上っていた。

 ミコトとコモモはそれを見て震えあがるが、俺は一つの可能性に思い当たっていた。


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