第17話:特務前のひと悶着
「お? ラビリンス・ダンジョン攻略は今後法王庁の直轄案件になりますだってよ!」
「えー! せっかく名を上げるチャンスだと思ってたのにぃ!」
「いや、しかしここの所、危険な魔物の召喚や違法採掘などでギルド除名処分を受けたものがいるのも事実。こうなることは時間の問題だったやもしれぬ」
ギルドの掲示板前で都ギルドの冒険者たちがざわついている。
妙な因縁付けられないか、内心ビクビクだ。
先輩とコトワリさんは最初の特務、平原のラビリンス・ダンジョン攻略クエストの受注を申請しに行ってる。
都ギルドの人と揉めなきゃいいが……。
と、思っていると、聞きなれた怒声×2が受付カウンターの方から聞こえてくる。
ああ……。
恐れていた事態が……。
「んだテメェ!! こちとら舎弟共々呼びつけられて、家の維持管理代にこの街での部屋代まで払ってわざわざ来てんだぞ!! 何が不公平だクソガキャアアア!!!」
「こうなった理由は法王庁より貼りだされているはずだ! 異変解決までしばし待てばいいだけだろう! 世の理に従え!!」
受付前で、因縁をつけてきたらしい大男を4~5人を相手取り、殴る蹴る、棒や鞭で叩くなどの暴行を加える女冒険者コンビ。
仮にもギルドから二つ名を賜る強豪中の強豪と、彼女をして強いと言わしめた上位種族の官憲。
並みのゴロツキ冒険者が敵う相手ではない。
賢明な連中は早々に捌け、そこだけがポツリと浮島のようになる。
あまりの迫力に、ギルド名物の喧嘩観戦と洒落込む連中さえいない。
シャウト先輩を知るこのギルドの二つ名連中は、「おーシャウトがまた派手にやってら」と、物見遊山である。
「あ……あの……そろそろ止めてあげた方が……」
そう言って、愛ちゃんが俺の袖を引っ張ってくる。
ミコトも「そ……そうっスよ……一応このパーティーの第2リーダーなんスから……」とか言う。
まあ……そう言われるとそうだよねぇ……。
俺は席を立ち、荒れ狂う二人の方へと、極力颯爽と歩く。
ここで下手にヘタレたら、今度は俺達に絡んでくる輩がいるかもしれないからな……。
「先輩! コトワリさん! もう、いいでしょう!」
「お前は黙ってろ!!」
「君は黙ってるんだ!!」
「ひゃ! ひゃいいい……」
無理! 怖い! 無理!!
目線で助けを求めるが、ミコトと愛ちゃんは目を泳がせながら「このパフェ美味しいっスねー」「ねー先輩~」などとスイーツを頬張っている。
うわ! 卑怯だぞ!
あー! もう!!
「ロープバインド!!」
「ひゃう!!」
「んひぃ!!」
俺は水汲みロープを二人の手足、そして服の内側に召喚し、彼女らの動きを止めた。
後が怖いが、この場を収めるにはこれしかない。
「我々は決してあなた方の依頼や報酬を奪うためにやってきたのではありません。法王様の勅命を受け、多少不本意ですがラビリンス・ダンジョンの調査と攻略を委託された次第です。皆様の不平、不満は承知の上ですが、事態収拾までのしばらくの間、我々にラビリンス・ダンジョンの攻略をお任せいただきたい。どうか」
俺は速やかに土下座の姿勢をとり、突っ伏して痙攣している連中、そして、その後ろで様子を伺っていた冒険者達に思い切り頭を下げた。
悔しいとか、理不尽とか言っていられない。
先に起きるトラブルは、この場で収めておくのが吉だろう。
これでパーティーを守れるなら土下座の一つや二つ、安い。
やがて、男たちの仲間が倒れた彼らを担ぎ上げていき、見ていた冒険者達も、気まずそうな雰囲気で散っていった。
少し熱を帯びた声で身をよじる先輩ら二人を残して。
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「ユウイチくんだっけ? いやぁ~ 若いのが大騒ぎを収めたって聞いたから、凄いと思ったけど、まさか土下座までしてたとは思わなかったわ!」
「す……すみません……」
ギルド本部の医務室で手当てを受ける。
騒ぎを聞いて下りてきたギルドマスターに事情を説明すると、豪快に笑われた。
うう……。
俺は真剣そのものだったのに……。
「いや、アタシも熱くなりすぎてたわ……。悪い……」
「私もそれを諫めるべき立場でありながら……不徳の致す限りだ……すまん!」
俺を医務室送りにしたコンビが何か言ってる……。
俺をけしかけたコンビは先ほどから廊下で正座中だ。
どっちももっと反省しろ。
「だ……だけどアレは反則だろ! いきなり……すげえ縛り方しやがって……」
「そ……そうだ! 言っておくが、私は断じて劣情など抱いていないからな!」
そう言って顔を赤くする二人。
まあ……何はともあれ、事態が収まったのは良かった。
この件に関してはギルドマスターから再度、しっかりと指導しておくとのことなので、俺達や愛ちゃん、他の特務戦力メンバーが因縁つけられることにはなるまい……。
しかし……割と可愛い声出すよなこの二人……。
思わず再度亀甲ロープ召喚を発動させると、「んやぁ!!」「くっ! ううううん!!」と、また可愛らしい声を上げた。
間髪入れずにWチョップが飛んできた。
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「さて、行くか!」
小一時間後。
気を取り直し、平原の岩場に口を開けたダンジョンの前に立つ俺達5人。
特務戦力として初のラビリンス・ダンジョン攻略だ。
都のギルドの冒険者達が名を上げる機会を奪っている以上、早急に事態を収めなければならない。
俺達は円陣を組んで気合を入れ、迷宮への扉を潜った。
直後。
全員大慌てで脱出した。
「「「「「寒っっっっ!!!!!」」」」」っス!!」
特務戦力として初のラビリンスは、氷と水晶に覆われたクリスタル大森林であった。