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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第11話:愛の特訓 3日目




 さて、迎えた特訓3日目だが。

 最初に先輩が言った通り、モンスターの討伐だった。

 そのモンスターというのが……。



「キキー!」


「ゲッヘラヘラ!!」


「ゴーブゴブゴブ!」



 まあ、ゴブリンだよね。

 丁度よく、と言ったらダメだろうが、近隣の村の食糧庫を荒しているゴブリンの群れがいるとのことで、それを愛ちゃんの研修のラストに充てさせてもらった形だ。



「アレ狩るんですかぁ……!? 殆ど人じゃないですか!!」


(バカ! 声がデケェよ! 敵性亜人は人じゃないって考えないと、マジで死ぬぜ?)


「ウム! それがこの世界の理ならば、それに準ずるべきだな!」


(てめぇも声がデケェっつってんだろ!)



 初めての人型の敵を相手に、愛ちゃんが弱音を吐く。

 まあ、これもまた当然か。

 俺も最初はかなり気分悪かったし……。


 ただ、デカい虫、肉食獣、人型モンスターと、冒険者の賞金稼ぎ基本セットみたいなのは、これで網羅できる形になる。

 先輩のナイス采配だ。


 俺達は既に、ゴブリンの巣食う岩窟を見降ろす高台に陣取り、キャンプ地を設営している。

 飛行スキルとテレポートを持つ俺達には大したことのない岩山だが、彼らがこちらを攻めるとなると、某筋肉番組ファーストステージの難関のような湾曲した岩壁を超えなければならない。

 つまり、俺達からすれば攻めてよし、守ってよしというわけだ。


 ただ、奇襲をかけないと群れをとり逃がすので、火を炊いたり、騒ぐのはNGである。

 ゴブリンの「群れ」討伐は、皆殺しが基本的なのだ。



(いいか、まず、アタシが見張りを全部殺る。そしたら岩窟の上から噴煙弾を投げ込むから、奴らがビビッて出てきたところを皆で全部殺る。アイのノルマは5匹だ どうだ? 簡単だろ?)



 ベテランならではのザックリとした攻略法である。

 実際、先輩程の冒険者からすれば、それくらいザックリしていても問題ないのだろう。

 というか多分、先輩なら今の下り、全部一人でこなせる。

(んじゃ行くぞ)と、早くも先輩が跳ぼうとするので、一旦引き留めた。



(んだよ……!?)


(先輩、作戦前にお茶でも)


(お……おう。悪ぃ)



 ポーションを飲み、回復魔法をかけてもらったとはいえ、皆大概寝不足だ。

 そうバタバタしていては、集中力を欠いてしまう。

 せめて一服してから作戦を始めるべきだ。

 先輩は俺の一言でその意図を理解してくれた。


 焚火は炊けないが、ガスバーナーなら煙も出ない。

 俺は皆の分のお茶を沸かし、手早く配膳した。


 ミコトがギルドの雑貨屋で仕入れてくれた、かなり強いお茶だ。

 元の世界の言葉で言うなら、カフェインを多く含んでいる。

 そこに滋養強壮、疲労回復効果のある木の根を浮かべてあるので、皆のコンディションを改善してくれるだろう。

 かなり苦いが……。


 そして、お茶請け代わりに持って来たのが、キバスズキの味噌焼きスティックである。

 俺が釣ったキバスズキを塩漬けして干し、たっぷりの味噌を纏わせて焼き、保存用の葉でくるんだ行動食である。

 釣りと食でパーティーを支えるのが俺の務め。

 こういう時の為に、行動食のレシピを学んでおいたのだ。



(うわ! 塩っぺぇ……! けどこれ……うめぇな!)


(キバスズキは体力と腕力にバフがかかる食材っスから、お茶と合わせればもうみんなコンディション完璧っスよね!)



 かなり濃い塩と味噌の味が、舌を痺れさせる。

 だが、噛めば噛むほど強いうま味が染み出してくる。

 バタバタの3日間を過ごして疲れた身体には丁度いい塩梅だ。



(雄一先輩って、炊事係なんですか!?)



 味噌焼きスティックをモリモリ頬張りながら、愛ちゃんが囁いてきた。

 そうだな……。

 一応、斥候とか中衛が役割なんだけど……シャウト先輩がいるとその辺全部一人でこなしちゃうから、このパーティーだと俺は炊事を含めたサポートがメインになっちゃうよね。



(コイツは器用でな。何でもできるんだよ。正面切っての戦闘力じゃまだ頼りねぇが、サポートや工作、炊事、奇襲、分析なんかでは毎回助けられっぱなしだぜ。機転も聞くし)


(えっ……そんな……いきなり言われたら照れますよ)



 突然のべた褒めに、俺は思わず頬が熱くなるのを感じた

 先輩、最近飴が多くないですか……?

 そして(自慢の旦那様っス!)と、自慢げに胸を張るミコト。

 なんか色々気恥しくなってきたぞ……!



(ま、まあ、戦うだけが冒険者じゃない。今は経験が足りないかもしれないけど、君にもピッタリな役割が見つかるはずさ。その第一歩を踏み出すためにも、今日を頑張ろうな)



 と、俺が無理やり取りまとめ、愛ちゃんを鼓舞した。

 彼女は「はい! 頑張ります!」と張り切って応え、(だから声がデケェ!)と先輩に小突かれていた。




////////////////




 (行くぜ……)そう言って高台から静かに飛翔した先輩は、そのまま目にも止まらないスピードで、見張りに立っていた一体を斬り倒した。

 電撃を纏った斬撃は、その断末魔さえも麻痺させる。

 「パチッ」という、静電気のような音と共に倒れた仲間を不審に思ったのか、不用意に近づいてきたもう一体に、同じく一閃を浴びせ、斬り伏せた。



(すごい……)



 俺の隣でそれを見ている愛ちゃんが、ゴクンと唾を飲み込みながら言った。

 その間にも、先輩は地を這う雷光と化し、離れていた一体も倒した。

 そして、岩窟の上に陣取っていた最後の一体を、電気鞭で瞬く間に引きずりおろし、4体いた見張りを全滅させた。



(愛ちゃん、気づいた?)


(!!)



 俺の問いに、彼女は目を見開いて何度も頷いた。

 そう、先輩は岩窟の周辺にいた3体を、その上から見張っていた個体の視界の外で始末しきっていたのだ。

 まさにサイレントキルのお手本だ。


 先輩はすぐに岩窟の上に登り、俺達目がけてチカチカと鏡を向けてきた。

 周囲を包囲しろという合図だ。

 俺とミコトは愛ちゃんとコトワリさんをそれぞれ抱え、岩窟の周りに散開し、背の高い草に身を隠した。


 俺は愛ちゃんのすぐ傍に立ち位置を定め、いつでも彼女を助けられる体制を整える。

 最も多くのゴブリンが殺到するであろう位置にはミコトが大剣を構えて陣取り、残る穴をコトワリさんが幅広くカバーする位置取りだ。


 俺達が配置についたことを確認し、先輩が噴煙弾に火を点け、岩窟の上から落とす。

 数秒後、「パン!パンパンパンパン!!」と、激しい煙と炸裂音が岩窟内に木霊し、すぐさまギャーギャーという叫び声を上げながら、大小のゴブリンが飛び出してきた。


 本能によるものだろう。

 クモの子を散らすように、岩窟の出口から扇状に広がって逃げようとするゴブリン達。

 その両脇目がけ、シャウト先輩が雷撃を放つ。


 金色の雷が散開した個体群を瞬く間に黒焦げにし、それに慄いた群れは、ミコトの待ち構える岩窟の真正面へと進路を変更して逃げようとする。



「うりゃあああああ!! エンジェル・トルネードっス!!」



 インフィートの名が刻まれた大剣が、竜巻のように大回転し、彼女から溢れ出した聖属性の力が、刃のリーチを剣一本分伸ばす。

 自身はリーチの外にいると思い、嘲笑いながらミコトの横をすり抜けようとした個体群は、一瞬にして切り刻まれた。



「愛ちゃん! 来たぞ!」


「は……はい!」


 落雷と竜巻に追い散らされた残党が、俺と愛ちゃんの待ち構える領域に入ってきた。

 数は6……8……9! 9体だ!



「氷手裏剣!」



 俺はすかさず、その腰から下目がけて氷の刃を放った。

 「グギャ!」という悲鳴を上げて崩れ落ちるゴブリン達。

 それでも尚、彼らは傷ついた足を引きずって逃げようとする。



「愛ちゃん! 今だ!」


「う……うう……わあああああ!!」



 その痛々しい姿に、一瞬たじろいだ愛ちゃんだが、キッと目つきを変え、炎を纏わせたナイフで斬りかかった。

 1体、2体、3体……。

 早い! 早いぞ愛ちゃん! いい感じだ!



「グゴオオオオ!!」


「ひっ! きゃああ!! ファイヤ! ファイヤ!」



 傷の浅かった個体が、遮二無二反撃を試みて愛ちゃんに襲い掛かったが、俺の助けの必要はなく、彼女が咄嗟に放った火炎魔法で顔を焼かれ、悲鳴を上げて倒れ伏せた。

 すかさず、愛ちゃんはそれにトドメを刺す。



「上手い! 上手いぞ愛ちゃん! ラスト一体だ!」


「雄一先輩! 危ない!」



 彼女の声が聞こえるが先か後か、俺はその場から5mほど後方にテレポートする。

 大丈夫、ちゃんと分かってるよ。

 背後から迫っていた無傷の個体が、俺の頭があった位置目がけて棍棒を振り抜いたのだ。

 感知スキルは磨けば磨くほど、その位置を絞れるようになる。

 こんな敵意むき出しの物理攻撃くらいなら簡単に読めるというわけだ。



「アクアシュート!!」



 空中でバランスを崩した敵めがけ、俺は水流魔法を打ち込み、愛ちゃんの方へと吹っ飛ばす。

 俺の意図を察した愛ちゃんは、すかさずナイフを構えて、そのゴブリンを斬り伏せて見せた!

 よし! ノルマ達成!


 彼女が先輩のお題をクリアできたのを確認し、俺は尚も動いている生き残りの個体を、テレポート斬りで掃討した。

 ま、ざっとこんなもんでしょ!



「せーんぱーい!!」



 と言いながら、愛ちゃんが右手を上げて駆けてきたので、俺も右手でそれを迎える。

 「「イェーイ!」」とハイタッチを交わすと、丘陵にパチン!と軽快な音が響いた。


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