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異世界フィッシング ~釣具召喚チートで異世界を釣る~  作者: マキザキ
2章:ダンジョン・アングラー 大陸中央迷宮変
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第9話:愛の特訓 2日目




「痛てて……」


「雄一先輩どうしたんですか?」


「いや、なんでもないんだ。ちょっと寝相が悪くてね……ははは……」



 昨晩、それはもうボッコボコにされましたハイ……。

 先輩は電気封印で、こっちはテレポートや飛行スキルの使用OKだったにも拘らずだ。

 流石にオートガードと感知スキルは切っていたが、それでもあれほど歯が立たないもんかね……?



「レアスキルと特殊能力頼みを続けてるとそうなるんだよ。 たまには純粋な剣術を磨くこったな!」


「うお痛って!!」



 先輩が意地悪そうな笑みを浮かべ、俺の打撲ポイントをツンツンと突いてきた。

 クエスト行く前に医務室で回復魔法かけてもらっとこ……。



「ほれ、昨日の報酬だ」


「え!? こんなにもらっていいんですか!?」



 自分の手元に置かれた銭袋に、愛ちゃんが驚嘆の声を上げる。

 バッタ一匹銅貨1枚なので、100匹狩っても本来は銀貨10枚なのだが、愛ちゃんのそれには明らかに倍以上入っていた。



「言ったろ? この特訓はアタシがお前を雇って参加させてんだ。アタシからの報酬も上乗せさ」


「あ……ありがとうございます!! これでしばらくはまともなご飯が食べられます!」


「感謝するのはまだ早え。特訓はまだ2回残ってるだろ。喜ぶのはそれが終わってからにしな」


「はい! 頑張ります!」



 やはり、成果が予想以上の形になって返ってくるのは嬉しいものだ。

 シャウト先輩はガサツで荒っぽいが、人間の動かし方は結構知っている。

 俺も先輩の飴と鞭ですっかり飼い慣らされてしまった……。

 時々フッと優しさと弱さを見せてくるのがこうね……良いんですよウチのボスは……。



「おいユウイチ。こいつに適当な防具買って来い」


「はい! お金は……?」


「オメーの金に決まってんだろ! 誰の舎弟だコイツは!」



 デスヨネー……。

 まあ先輩の財布に頼り切りも良くないしね……。

 俺はミコトと愛ちゃんを連れ、ギルド直営の武器屋に早足で向かった。




////////////////




「いやああああああああ!! 助けてください! し……死んじゃううううう!!」


「何言ってんだ! バッタと大差ねえだろ! 斬れ! 殺れ!!」


「全然違います―――!!」



 平和でのどかなバッタの繁殖地から、飛行クジラでふた山越えた先には、乾燥した低木地帯の盆地が広がっていた。

 そして俺の目前で、愛ちゃんがサーベルタイガーのような大型肉食獣(名をデザートタイガーと言う)に追い回されている。

 いや……。

 冒険者生活2日目であのサイズの肉食獣相手は厳しいかと思うんですが……。



「ああ!? あんなんお前らン時の熊よりクソ雑魚だぜ?」


「先輩基準で考えたら駄目ですよ!?」



 流石にこれ以上放っていたら愛ちゃんが新品の軽量鎧(わりと良いお値段)諸共虎のエサになってしまいそうなので、助け舟を出させてもらう。

 フロロバインドで後ろ脚を拘束し、その太腿目がけて氷手裏剣を打ち込む。

 これだけで、四足歩行の獣はほぼ行動不能だ。


 後ろ脚をザックリと斬られたデザートタイガーは重低音の威嚇声を放ちながら、前足だけでズルズルと這ってその場から逃げようとする。

 よし! 後は愛ちゃん任せた!



「う……うう……。本当に……殺すんですか……?」



 だが、その弱った獲物を前に、愛ちゃんは腰をすくめる。

 まあ……やっぱ哺乳類は抵抗あるよね……。

 特に猫科はね……。


 愛ちゃんは俺に視線で助けを求めて来るが、ここは彼女が決めなければいけないところだ。

 特に俺達についてくるのなら、この程度は抵抗なく出来るようになっておかないと……。

 やがて決心を決めたような顔になり、ウゥゥゥゥゥゥ……。という弱々しい唸り声をあげる虎へ、彼女はナイフを構えてゆっくりと迫っていく。

 ちょ……! 流石に正面から行ったら危ないよ!?


 俺はとっさに彼女を止めようとしたが、いつの間にか俺の横に来ていた先輩に引き留められた。

 同時に、ある指示が飛んでくる。

 え!? マジですか!?



「うううう……ごめんね! ごめんね!!」



 そう叫びながら愛ちゃんがナイフを振り下ろそうとした時、這いつくばっていたデザートタイガーが体を跳躍させた!

 何が起きたのか分からないままに、愛ちゃんはその白刃に捕えられる。

 巨大な牙が、爪が、彼女のか細い肉体を切り裂……!



「きゃあああああ!!!」



 刹那。

 危機をようやく理解した愛ちゃんが、その手に持つナイフを振り回して激しく抵抗を始めた。

 首筋まで迫っていた顎下に、肩に突き立てられた前足に、そして圧し掛かる胴体へ、斬撃が二度、三度、四度と走る。

 弱々しいが赤い光……炎魔力がその剣筋を添うように流れ、虎の肉体が跳ね飛んだ。

 見ると、強靭なその肉体に3つの深い裂創が刻み込まれていた。



「はぁ……はぁ……怖かった……」



 呆然と立ち尽くす愛ちゃん。

 そこへミコトとコトワリさんが駆け寄っていく。



「な? 案外やれんだろアイツ?」



 そう言って、先輩は俺に愛用の短剣を見せてきた。

 そこから伸びるのは、電撃の鞭。

 俺も先輩が短刀を鞘にしまうのに合わせ、虎の足と低木を結わえていたフロロバインドを解く。

 すると、のけ反るようにピンと硬直していた虎の亡骸が、支えを失った操り人形のように崩れた。


 愛ちゃんには悪いが、一芝居打たせてもらったのだ。

 彼女がじりじりと距離を詰めている時、既に虎は出血で瀕死の状態だった。

 そこにシャウト先輩が電撃鞭の一撃を加え、トドメを刺すと同時に筋組織を強制的に操作し、まるで最後の抵抗をしたかのように、愛ちゃん目がけて飛びかからせたのである。

 無論、その足は俺がガッチリと低木に拘束しておいた。


 何かをしなければ死んでしまう状況を作り上げ、彼女の戦闘能力を無理やり引き出したわけだ。

 いや、無茶苦茶だ!

 大丈夫か愛ちゃん!?



「うう……先輩~!」



 泣きながら縋りついてくる愛ちゃん。

 おーよしよし……怖かったな~。



「どうだ? 殺れただろ? この調子であと9頭狩れ」


「せ……先輩それはちょっときついんじゃ……」


「そうだぞこの野蛮人! あんな子供だましの技で……」


「何だとテメェ!?」



 またしても先輩とコトワリさんが大げんかを始めてしまった。

 先輩が食い気味にキレたおかげでバレなかったが、一応トリック見破ってたんだなコトワリさん……。

 ギャーギャー騒ぎながら文字通り火花を散らす二人をさておき、俺とミコトで愛ちゃんが怪我をしていないか確認する。


 …………。

 ………。

 ……うん。


 傷は受けてないみたいだ。

 野生動物の牙や爪は雑菌だらけ。

 かすり傷からでも化膿して致命傷になることがあるのだ。



「大丈夫っスか? キツかったら無理しなくてもいいっスよ……?」



 ミコトが優しく背中を摩り、魔力回復のポーションを差し出す。

 俺もパーティーに入れてあげたはいいが、この先大丈夫か不安になってきた……。

 しかし今から一般の職には到底就けないだろうしなぁ……。

 

 同い年くらいの初心者パーティーに入ってもらって……いや、ちょっとうっかり強敵が出るクエストなんか受けたら助からないだろうし……。

 流石に都で暮らしながら、戦力外の子を雇うというのは金銭的に苦しいし……。

 むむむむむ……。



「大丈夫です……!」



 愛ちゃんのパーティー解雇を含めた今後の選択肢で苦悩していた俺の眼前に、愛ちゃんが勢いよく立ち上がってきた。

 危うく頭をぶつけそうになり、俺はビクッと後退する。



「やれます! やってみせます! だから……私をパーティーに置いてください!」



 そう言って彼女は乱れた服を伸ばし、ズレた鎧と肩当てを直すと、ミコトの指し出したポーションを一気に飲み干した。

 そのままクルリと回れ右し、2匹目の目標を探し始める。


 幸運にも、先輩とコトワリさんの喧嘩の騒音に釣られ、何頭かのデザートタイガーが、すり鉢状の流砂の中から顔を覗かせていた。

 お前らアリジゴクかよ!?



「行きます! てやああああ!!」



 そのうちの一頭目がけて、ダガーナイフ片手に突っ込んでいく愛ちゃん。

 大丈夫か……?

 大丈夫か……!?


 俺もミコトも、すぐに援護に回れる位置につき、それをヒヤヒヤしながら見守る。

 愛ちゃんに狙われたデザートタイガーは、唸り声を上げて彼女へと突進を始めた。

 小柄な、恐らくかなり若い個体だ。

 経験豊かな個体たちは、先輩らの喧嘩を見て早々に逃げ去っている。

 ある意味では、愛ちゃんにとってお誂え向きの状況というわけか……。



「ひっ……。い……! やあああああああ!!」



 急速に近づく肉食獣に、一瞬たじろいだ様子を見せたが、すぐに持ち直し、ダガーナイフに炎を纏わせ、斬りかかる愛ちゃん。

 おお! 魔法剣士っぽい!


 たじろぎの間が生んだ僅かな減速が、飛びかかる機会を見誤らせたのか、愛ちゃんよりも大きく手前へ着地してしまったデザートタイガー。

 その背中に、燃えるナイフの一撃が突き立った。


 ナイフを手放し、一気に後退する愛ちゃん。

 「ウギャアアアアウ!!」と声を上げながら、背中を襲う痛みと高熱から逃れようとする獣。

 すかさず二撃目を加えようとする愛ちゃんだが、のたうち回るデザートタイガーを相手に、攻撃のタイミングを計れずにいる。



「愛ちゃん! そういう時は普通に魔法を使うんだ!」



 大声で彼女にアドバイスを送る。

 魔法をそれまで使ったことがない人は、とっさの時にそれが使えなかったりする。

 ジャパニーズホラーの登場人物が、入手した銃をとっさに使えないのと同じだ。

 ……いやちょっと違うか。


 まあ、中、遠距離なら即魔法。

 この感覚は新米冒険者にとって必修科目である。



「はい! ファイアショット!」



 火球が暴れる獣に飛び、バン!と炸裂する。

 威力は小さいが、既に重い一撃を与えている相手なら十分な効果があるだろう。

 俺に言われるがまま、次々に炎魔法を放つ愛ちゃん。

 その火球が獣に当たるたびに、相手の動きは鈍っていく。



「今だ! 止めを刺すんだ!」



 明らかに抵抗する力を失ったと思うあたりで、指示を出す。

 それに愛ちゃんは「はい!」と、元気に応えると、敵の背中に突き立っていたナイフを召喚解除し、新たに召喚したナイフを獣の心臓目がけて振り下ろした。



「ギャウウ!!」



 断末魔と共に、デザートタイガーの身体が一瞬痙攣し、そのあと動かなくなった。

 うん。

 2頭目は単独撃破だ。



「や……やったー! 先輩! 今度は一人で出来ましたよ―――!」



 そう叫びながら走ってくる愛ちゃん。

 その背後から、隙を伺っていた若い個体たちが大挙して突進してきた!!

 わ―――!!

 獣に背中見せて走っちゃダメ―!!



「へ!? い……いやあああああ!」



 次々に飛びかかる若いデザートタイガー達。

 その迫力に振り返ったまま腰を抜かし、転んでしまう愛ちゃん。



「うりゃああああっス!!」



 その最前列一陣を、愛ちゃんの前面にテレポートしたミコトが大剣のひと振りの元に薙ぎ払った。

 俺も彼女が討ち漏らした個体を双剣で斬りはらう。

 尚も距離を保って隙を伺っていた連中は、氷魔法と水魔法の合体技、アイスバルーンボムで脅かして追い払った。


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